Call me MUFFIN.

□「I hate you !」
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(XX 過去)

”黒って大嫌い。”
聞こえています、聞こえていますとも。悪口が筒抜けなんです。
気まずさで本の中に顔を隠したまま、襲ってくる視線の矢を表紙で受け止めた。先程の会話で不具合は無かったはずなのに、緊張して変な笑顔になったのがいけなかったのか。
恐々とベーベの方へ目をやれば、鋭く光った瞳があたしを射る。あまりの恐怖に光の速さで目を逸らし、本で視界を覆った。

”黒”、ってもしかしてあたしのこと?

目も髪も服も靴も、下手すりゃ本のカバーだって黒の日があるあたしへ、黒が嫌いだなんて。
どう考えたって自分しかいない。
別に赤色とかネイビーとか花柄も、好きなのよ?黒にこだわりがある訳じゃないんだから。いや、欧米人っぽく”ブラック”ジョークだって……。
考えるのをやめたのは、ベーベの嫉妬に燃えた視線が怖かったから。

「笑ってよ、XX」

それに引き換え、カイル君はとても優しい。スマートでサラッとしてて、鼻息荒くあたしに声をかけてくる人達とは違う。

「まだ学校慣れない?」

「ううん、そんなことない」

「良かった。なんかあったら、いつでも僕に言って」

「うん、ありがとう。カイル君」

「カイルでいいよ、XX」

カイル。照れを隠しながらそう彼の名を呼べば、にっこりと微笑んだ彼はあたしの頬にキスをした。

「挨拶。仲良くしてね、って」

「うん」

あたしも同じように彼の頬にキスをする。日本人には慣れない習慣ではあったが、不思議と嫌ではなかった。キスした!なんて騒ぎ出すカートマン達の声もあたしには聞こえやしない。

その日を境に、いつしかあたしは彼を目で追うようになる。
癖のある赤い髪も、頬にあるソバカスも、白く透き通った肌も、綺麗な目の色も、彼の全てが好きだと気付いたのは、まさしくベーベのお陰でもある。彼女の嫉妬の目は怖くもあり、あたしを恋に熱中させて燃やすガソリンでもあった。嫉妬の目を向けられる事がこんなにも快感だったなんて。
もしかして、あたしってば変態?

「…変態でもいい。素敵だもん」

「みんな変態なのよ、それを表に出さないだけで」

ウェンディは整った顔をツンとさせて笑った。みんな変態。言い切ったもんだと頷く。こんな極論を言う彼女とは、今では適度な親友。
入学して半年。仲良くなったきっかけは、四年生になりあたしがチアに入ったこと。クラスのみんな、多分一部の男子だけ、に勧められて半ば無理矢理入れられたチアリーディング部。だがしかし、あたしは自称”変態”なのだ。みんなに見られる事が余程気分のいい事だったらしく、今ではちゃっかりセンター候補にまでのし上がった。そんな中、声を掛けてきたのがウェンディ。あたしがスタンに気が無いことを知ってか、当時の彼女はとても優しかった。まぁ、今も程よく優しいけど。

「スタンの事好きじゃ無いなら、別に攻撃する必要無いもの」

フンと鼻で笑った彼女はそんな女だ。ついでを言うと、意外としっかりしてる。

「センター候補だもん。仲良くしてて損は無いでしょう?」

「え?じゃああたしがセンターになれなかったら親友取り消し?」

「それもアリね」

ニヤリと微笑んだ彼女にイヤだと笑えば、鏡のようにウェンディも笑う。
ついでを言うと、ベーベとは今のところ普通だ。チアのリーダー長をしてるウェンディと、副リーダーのベーベ。チアが全てと言っていいほどのガールズカースト界では、カースト最上のチアのリーダーに物を言う子なんてそうそういない。そんなリーダーのウェンディと仲の良い、センター候補のあたしをハブく子ももういない。別に居てもいいけど、実際居ない。別に、お高くとまってなんかない。

「性格悪くなっちゃう」

あたしが言えば。

「もう悪いわよ」

ウェンディは言う。

「チアに入ってる時点で、ボチボチ悪いのよ」

上から被せるようにベーベも言う。そういえばいたのかとあたしは彼女へ目をやった。ずっと黙ってるからいないものとしてた。
久しぶりに見たような気がするベーベの顔。彼女の金髪にとても映える赤のリップが、ベーベの肌の白さを主張する。悔しいけど大人っぽい彼女には良く似合ってる。

「そんな事よりさ、聞いてよ」

ベーベが癖毛の髪をクルクルと回しながら眉を下げて微笑んだ。赤い唇が笑えば、あたしはやはり彼女のこの表情が苦手だと実感する。

「この前、あたしとカイルが付き合う気がするって言ったでしょう」

「ああ…」

あたしは視線を下げ、持っていたドリンクのストローで中の紅茶を混ぜた。ウェンディはどっちつかずの顔をしてる。

「アレが、本当の本当になるかもしれないわ!」

「どうして?」

「さっきウェンディに連絡してもらって、今からカイルをデートに誘いに行くの!」

とろけるようなこの顔。あたしに嫉妬するこの女。嫉妬だけでカイルを誘おうとするその醜さ。いつか、ポンポンつけた可愛い手にメリケンサックはめて、その整った鼻をポカーンって思いっきり殴ってやる。


なんてね、”ブラック”ジョークよ…

………


「あれ?カートマンとXXじゃない!」

ベーベの大きな声がテラスに響いた。カイルとベーベとウェンディとスタンに、あたしとカートマン。
最悪としか言えない状況に、あたしはメリケンサックを買わなかった事を後悔した。

ブラックジョークなんてつまらない。
その高いお鼻、へし折ってやりたいの。

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