Call me MUFFIN.
□バッドホームパーティ
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深夜、クラスメイトの家で優勝を祝う数十人規模のホームパーティに招待された。だが会場に着くなり、それは直ぐに健全じゃないものに変わる。ホームパーティなんて仮の名だ。”今日親居ないから”なんて、この台詞はこっちの子達にとって暴れちゃおうの合図で、それだけでテンションが上がるちょっとした魔法のフレーズでもある。若さは武器。馬鹿みたいにはしゃいで騒ぎ立てる事に特に理由なんて要らないのだ。
さぁ、そんな事よりも随分と飲んだ、というか飲まされた。大量のアルコールが体内で激しく踊ってる。いや、正しくは大量のアルコールを摂取したあたしが体内で分解できない酒に飲まれて激しく踊り散らしてる。これが正解。こんな深夜に爆音かけて、隣から苦情来ても知らないんだから!なんて言ってたあたしとは一時間前にオサラバした。
「ウイスキーが足りない!!」
酒瓶を片手に怒鳴ってるベーベに目をやったあたし。艶やかな赤いピンヒールで机に登った彼女は「あたしに空っぽの瓶持たせるなんてあり得ない!」なんて訳の分からない事を叫んでる。しかも手に持ってるのは別の銘柄で、ウイスキーの瓶じゃない。相当いっちゃってるなぁと思いつつも、楽しそうだと感じる辺りあたしも結構ヤバい。
「(名前)、ちょっと話そうよ」
混ざろうかなと思ったその時、肩を叩かれた。視界には爽やかな笑顔の彼。アメフト部のキャプテンであるリアムだ。さっきまでベーベと居た筈なのに。そう思いつつ「ベーベはいいの?」と聞けば「あいつ人気者だから」と彼は控えめに笑って言う。
「まぁ、確かに」
女にはモテないけど、男にはモテるのがベーベ。アメフト部ではないのに招待された見知らぬ男達に囲まれてどんちゃん騒ぎだ。
「あの子ブチ抜けて明るいもんね」
「うん。ああなるともう俺でも構いきれないんだ」
「多分誰も止めれないよ」
「そうなんだよ。なぁ、もう少し静かなところに行こう」
「え?」
聞き返す間も無く肩を抱かれ、騒ぎ立てる彼等と少し離れた場所に連れてかれた。部屋のソファーに腰掛ければ、あたしの手にあるコップに彼の持っていた瓶がぶつかる。
「改めて、乾杯」
滅茶苦茶騒いでる皆より、少しばかりか落ち着いたテンションの彼に頷いた。あたし達が座ったソファーから蛍光が目立つオレンジ色のつなぎが目に入る。”女大好き”な彼がこんな場に居ない筈がない。廊下の端でケニーがチアの後輩、しかも二人に挟まれてキスしてるのが見えた。
「今日は応援ありがとう、XXが誰よりも目立ってたよ。前から話してみたいなと思ってたんだ」
「ああ、どういたしまして」
「実は何度か話したこと有るんだけど覚えてない?」
「うん。なんとなく」
曖昧な返事をしたが、会話した事など全く記憶にない。彼が嘘をついているのか、あたしが忘れているだけなのか、それはどっちでもいいが、あたしはそれよりもここの位置からケニーが女の子とベタベタしているのが視界に入って不快だ。
「今夜はみんなスゲー酔ってるよ。向こうで乱交パーティになってる」
あたしが話を聞いていようがいまいが大して気にならないらしい彼は、暗い廊下が続く部屋の奥を指差した。大音量の音楽で聞こえやしないが、禍々しい雰囲気は伝わってくる。まさかあたしをあそこに連れ込もうってのか。興味本位で軽々しく行けば、明日からあたしはクラスで見事にビッチの称号を獲得、その後学校生活が少々面倒になりそうだ。
「悪いけどそのお誘いには乗れそうにないわ」
「どうして?俺がリードするさ」
「さっきからおかしいわ。あなたにはベーベがいるじゃない」
「正直に言うと、他の子とも試してみたいんだ」
「残念だけど、あたしそういうの興味無いの」
「はは、面白いね、そのジョーク。もう馬鹿みたいに騒ぐのも飽きて来たでしょ?」
彼の手が膝に触れる。眉をひそめたあたしは足元に視線を落とした。こんな時にジョークとか言う程あたしはお茶目じゃない。
「俺達って、凄く相性がいいと思うんだよ」
太ももの内側にスルリと滑り込んで来た手を思い切り払いのけた。だが彼はお酒のお陰か、これっぽっちもめげる様子はない。いい加減にしてと立ち上がろうとしたあたしの手を引き「試してみない?」と囁く始末。ふざけるな、そんな誘いに易々と乗ってたまるか。まず大して仲良くも無いのに無駄に馴れ馴れしくしないでほしい。
「あたしは無理。別の子誘って」
「君がいいんだけど」
「お断り」
NO!!と手のひらを差し出せば、ウィリアムは微笑んだままあたしの手首を掴み強引にキスしようとしてきた。
「……ちょっと!なに!」
「キスぐらい良いじゃん」
「絶対いやだ!」
「いいだろ。減るもんじゃないし」
減らないだと?言っとくけど、減る。何がとうこうじゃなくて、あたしの自尊心が減るのだ。自尊心とプライドと純粋さと、あと何か。次の日には、チア部の黒髪の日本人はすぐやらせてくれた!下の毛も黒いんだぜ!いやっふー!とか下衆なことを言いふらされる。そんなもの目に見えてる。
「Cut it out!!」
やめろと叫んで、コップに入っていたお酒を思い切り彼の顔にかけた。だけど何が良かったのか、油に火を注いだように尚更燃え上がる彼。お酒で濡れた前髪を掻き上げ「強気なのは嫌いじゃないよ」とソファーに押し倒そうとして来た、そのとき。
「ねぇ」
何処かから聞こえた声にあたしはふと顔を上げる。あたし達を透き通ったビー玉みたいな青い眼で見下ろすのはケニーで、それに気付いたリアムは愛想笑いのようなものを彼に向けた。同じようにケニーも微笑む、だがリアムにでは無くあたしに。両隣には女の子をはべらせたままだ。金色の髪を気だるげに揺らす彼の淡いブルーの瞳があたしを捉える。心の奥底まで見透かすようなその目に生唾を飲んだ。
え?まさか助けてくれるのか?
あたしが”案外こいつ良い奴だ!”みたいな朗らかな顔をしたあたしに、ケニーはニコリと可愛らしく笑った。
「Let's do fivesome.」
"5人でしようよ"と確かにそう聞こえて、ふと目が点になる。予想の遥か斜め上を行くセリフ。彼の隣にいる後輩達はケニーの体にぺっとりと引っ付いたまま離れようとしない。
「それいいな」
笑ったリアムに、顔をしかめたあたしは男の体を思い切り突き飛ばし床へ落とした。その場から立ち去ろうとしたあたしにケニーが呟く。
「ーーーーーーー」
ハッキリと耳元で、嫌なら断りなよと言われた。
「…あたしが何しようがケニーには関係ないでしょ」
不満気な顔をしたあたしを軽く鼻で笑ったケニーは、彼女等の肩を抱き部屋の奥へ入っていく。唸り声を上げて起き上がったリアムを睨み付け、あたしはその場を去った。