短編
□失敗
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仄かに薫る麝香の香に、
くらり、と目眩がする。
ぼんやりと、縁側から庭の方をながめる彼女の後ろに、彼女に気どられぬように
す、と近寄る
気だるげに着崩された浴衣の襟元に、黄昏の斜陽に惜し気もなく晒された白い首筋に。
嗚呼、
白い
白い
思わず目を奪われる。まるで白磁のごとくに肌目細かくすべらかな肌。夕日に煌々と透き通る細い後れ毛。
麝香の香りが一層強く、脳髄に霞がかかる。
ゆっくりと、手袋に包まれた右手を差し延べ。彼女の美しいうなじに、僕は
つ、と指を滑らせーーー
「あ……、」
―――また、しくじった
くるりと振り向いた彼女の微笑みは、まるで毒蛇のように僕の感覚を奪っていって
「なぁに?」
鈴を転がすような声で問われれば
「…何でもない、」
そう返す以外、僕にはどうしようもなくて。
「変なの」
ころころと笑う彼女から視線を反らす。あの、麻薬の様に僕の思考を侵していた麝香の香りなど、もうどこにもしなくて。
嗚呼、僕は
また貴女を殺し損なったようだ
失敗(或いは、愚か者)
(この手で)(貴女を絞め殺してしまいたい)
(あっついねー竣ちゃん)
(…暑いですね)
(あ、西瓜でも切ろうか)
それで、
貴女が僕の物になるかなど
分からないのだけれど
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どうやら私は真冬になると、夏の話しが書きたくなるらしいです
季節感なにそれ