マジックハーフとドラゴン退治?

□少女と世界
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「それで、これからどうするんだ?
ドラゴンの情報を集めないといけないんだろう?」

港に向かって歩きながら、フィーは聞いた。隣ではアオがさりげなく町の様子を眺めがら

「まあ、海に近い町では色々な人が入ってくるから、情報は集めやすいと思うよ」

(港がきっちり機能していれば、だけど)

どうも、ここの町も首都と同じく、あまり活気づいていないようだ。むしろ、首都のほうがましだったと言える。

(最近は漁もまともに出れていないってうわさは本当らしいな)

「とりあえず目立つ行動は控えて行こうか。」

ドラゴンの影響は以外にも多方面に及んでいるらしい。うかつに海に出て、ドラゴンに遭遇し、船をひっくり返されという話もある。

「なあ、見て見なよ!
この魚、ぬるぬるしてる!」

店先に並ぶ魚をつつきながら、フィーは驚きの声を上げた。

「僕達はあくまで普通の旅人・・・て、ちょっと何してんの!?」

一応二人は国に追われる身なのだ。

警戒心のカケラもない彼女の行動に、彼は目を向いた。

慌てて、アオは店員に謝りながらフィーを店から離す。

「ちょっと、商品勝手につついちゃだめだろ!?
しかも生ものなんだから、怒られるだろ!」

海から引き揚げたばかりの魚は一様に鮮度が落ちやすい。
こんなご時世、命からがら釣り上げた金の元を傷物にされて、怒らない奴がいるだろうか。いや、いない。
下手をすれば、お前のせいで売れなくなっただのとナンクセをつけられて、責任を取れと法外な値段で商品を買わされることもある。

「でも、ボクは生の魚を見るのは初めてだったんだ」

悪びれもしない相手に、彼はがっくりと肩を落とす。

「いいか?魚は皆、生の時はぬるぬるしてるものなんだ。
そして、店のものはむやみに触ったらダメ!
わかった!?」

「へえー全部ぬるぬるしてるのかい!
変な生き物なんだね!」

「僕の話聞いてる?」

理解したのだろうかと不安になりながら、アオは気を取り直して、港へと歩き始める。
歩きながら、彼女はあれはなんだ、これはどこから来たのだとひっきりなしに質問をしてくる。
どうやら、フィーは本当に外に出るのは初めてらしい。彼女の振る舞いは、まるで世間知らずのお嬢様と変わりない。

(これはよく見張っておかないとあぶないな)

面倒な荷物をしょい込んだ気分でアオはまた、ため息をついた。
そんな彼の思いなど知らないフィーは、見るもの全てが新鮮なようで、少しもじっとしていない。

「なあ、これも魚なのかい?
変な形をしているよ!?」

「それ、気をつけないとスミ吐かれるよ」

足が八本ある赤い魚貝類を覗き込んでいたフィーは慌てて彼のもとに戻って来た。

「魚には攻撃してくるやつもいるのかい!?」

「あー、うんそうそう」

もはや息絶えたそれを見ながら、アオは適当に頷いた。

「さて、これから一応情報収集をするけど、フィーはおとなしくしててくれよ」

なんとか港に着くと、アオは内心無駄だとは思いつつ言っておいた。

「わかってるわかってる」

元気よくフィーは頷いた。






◆◆◆




町のライフラインである港には、なかなか人でにぎわっていた。
にぎわっている、というよりは仕事がなくてあぶれた者たちのたまり場のようだった。
どうやらほとんどが漁師らしく、みな一様にたくましい体つきをしている。
船が壊れたり、ドラゴンの噂のせいで人手が足りなくなったりと様々な事情で、漁師たちは暇そうにだべっていた。

「あのー少し聞きたいことがあるんですけど」

アオは他人向けの人懐っこい笑顔で、一人の男性に近づいた。先程漁から帰ってきたらしい。網の中には、大量とは言えない量の魚が入っている。

「あ、その魚美味しそうですね。
一匹売ってください」

そのうちの一匹を指差し、コインを差し出す。

「ああ?」
男性はジロリとアオを見る。吊り上がった目つきで、お金と少年を見比べ

「いいよ。
それで、聞きたいことってなんだ?」

しわがれた低い声で言い、魚を差し出した。

「ありがとうございます。
なんだか、あまり魚取れてないみたいですが、ドラゴンの影響ですか?」

お金を渡し、アオは魚を受け取る。

「ああ、そうだよ。
あいつが暴れ回るせいで、海は荒れるは船はひっくり返されるはロクなことがねえ」

男性は面白くなさそうに舌打ちする。

「それは大変ですね
僕も旅をしてて、ドラゴンの噂はよく聞きます」

「ああ。そのせいで竜族の肩身が最近狭くてな。
全く竜の種族の全員が乱暴者じゃないってのに」

「ということは、おじさん、竜の種族なんですか?」

「ああ、怖いか?」

少年は首を横に振った。
袖なしのシャツからは、日に焼けたいかにも筋肉しかつまっていなさそうな腕が覗いている。
その一部にうきあがっている鱗のような皮膚が、彼が人という種族でないことを示していた。

「いいえ。魚、売ってもらえましたし」

「そうかそうか。
ありがとな。」

気をよくした男性はくしゃくしゃとアオの頭をなでた。

「うわっ・・・それで、その暴れてるドラゴンがどこにいるかとかって知りませんか?」

背を縮められそうな圧力に耐えながら、彼は聞く。

「いや、知らねえな
なんだ、ぼうず。ドラゴン退治にでも行く気か?」

はいそうです、なんて言うはずはなく

「違いますよ。
旅の途中にうっかり被害に巻き込まれないように聞いただけです」
あらかじめ考えておいた適当な理由を述べる。

「そういうことか。
ま、気をつけろよ」

アオの頭から手を離し、男性は腕組みした。

「はい。ありがとうございます」

その後は2、3言ほどで話を切り上げ、後ろを向くと

「さあ、フィー行こうか・・・ていない!?」

彼女の姿はなかった。

「やっぱりか・・・」

予想していたこととはいえ、アオは頭をかかえた。
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