マジックハーフとドラゴン退治?

□少女と世界
4ページ/7ページ

「どこ行ったんだよ」

周囲を見渡すと、あっさりとその姿は見つかった。

「ねーねー、おっちゃん、この魚なんて言うんだい?」

「おう、元気のいい坊主だな」

漁師の一人と意気投合していた。

(勝手に動くなと言ったのに)

そうでなくても、彼女は追われている身なのだ。髪や姿は変えても、兵士にばれない保障はない。

「フィー、何をしてるんだ?」

「あ、アオ!」

「ちょっとこっち来て!」

有無を言わさず、彼はフィーの首根っこを掴んで、人気のないところに連れて行く。

「なんだい。せっかくおっちゃんと仲良くなってたのに」

「なんだいじゃない」

不満げな彼女に、アオは声を荒げる。

「あんたは追われてるんだぞ!?
見つかったら、また面倒事になるぞ!」

「そんなこと、わかってるさ」

ムッとしたように、フィーはアオを睨み返した。

「でもそれのせいで、なんであたしが縛られなくちゃいけないのよ!
せっかく外に出れたのに、これじゃ塔の中と一緒じゃない!」

口調が変わったことにも気づかず、フィーは感情のままに叫ぶ。

「もう我慢してなにも出来ないのは嫌!


もっと楽しみたい!


もっと自由に行動したいって思って何が悪いの!?」


「―っ・・・それは」

「もういい!!
アオなんて大嫌い!!」

言うが早いか走り出したフィーをアオは追いかける。
彼女の言い分は勝手だった。
しかし、そんな勝手をしたくなるほど、フィーは外に出られたことがうれしかったのだろう。

「ちょっと、待ってよ!」

このまま別れた方が、自分にとっても良い選択なのは、アオには分かっていた。一人になっても、いつかは兵士の人たちに保護してもらえるだろう。

「ああもう、面倒だなあ」

ただこのまま、知らない振りをしておくのは、後味が悪いと彼は思ったのだ。

「待って!フィー!」

ずっと塔の中に閉じこもっていた少女と、大陸を歩き回っている少年とでは体力の差はあきらかだ。
ほどなくしてアオはフィーに追いついた。

「ちょっと、待ってよ」

息を切らして、彼は少女の肩を掴んで振り向かせる。歩いている人たちが、何事かと彼らを見ている。

「なによ」

唇を噛みしめ、フィーはうなる。

「よかったじゃないか。
これでキミは自由だ。
どこへでもいけばいいよ」

「行けるもんなら行きたいよ」

アオは額の汗をぬぐった。

「あんたの行動も、言葉も、身勝手で、人を振り回すばかりで、正直言って嫌いだ。
理解もできない!」

「なら・・・」

「でも、僕はフィーのことを知らない。
どうしてここまであんたが周りを押し切ってまで好き勝手するのか、その理由を知らない!
たかだか2、3日の付き合いでわかるわけないじゃないか」

アオは逃げないようにフィーの腕をしっかりとつかむ。

「こんな中途半端なところで勝手に逃げられたら、それこそ腹が立つ!」

信頼関係もなにもないのだ。相手のことが理解できないのは当たり前だ。

「だから、勝手にどっかに行くんじゃない!」

普段の彼女なら叩き付けるように言い返す場面だが、フィーは驚いているのか、目をむいて固まっている。

「わかった!?」

「・・・」

「返事!!」

「は、はい」

勢いに押されたようにフィーは反射的に返事をした。

「よし」

アオは満足そうに腕から手を離す。

「アオって、意外と押しが強いんだね」

先程のまでの威勢の良さを失い、フィーは呆然と言う。

「フィー程じゃないさ」

そこで、アオは周囲の視線に気づき、顔を赤くした。

「行こう。ここは人が多いし」
逃げるように歩き出した彼の隣に、フィーは並ぶ。

「ねえ、アオ。」

「なに?」

「キミをボクの友達一号にしてあげる」

いきなり何を言い出すのかと、アオは驚き、隣を見た。フィーはいつも通りの強気な笑みで、少年の背中を思い切りたたいた。

「なんかキミって面白い。
気に入ったよ!


これからもよろしく!」


「ぐふっ・・・
今一瞬息が止まった・・・」

たたかれた背中が、ジンジンと痛む。力加減に思いやりが感じられない。
何となくアオはこれ以上彼女を喜ばせてはいけないと思い、わざとそっけない声を出した。

「いてて・・・だいたい、フィーはお金も持ってないし、地図だって読めないじゃないか。 
そんな奴を一人にさせとけるわけがない」

「地図はそのうち勉強するさ。
それはそうとして、さっきのおっちゃんから良いことを聞いたんだ」

「え?」

フィーの肉食獣のような笑顔はなにかを企んでいると物語っていた。

アオは追いかけるべきじゃなかったと、心の隅で後悔した。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ