マジックハーフとドラゴン退治?

□少年と少女
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場所は変わり、大陸の西側の町。
最初にいた農村よりはそこそこ大きいが、田舎町という雰囲気がそこかしこに漂っているその場所で二人の旅人が並んで歩いていた。

「野宿って、意外と楽しいものだな」

旅を初めて、5日目、アルフとシズクはようやく二つ目の町にたどり着いた。

「喜んでもらえて何よりです」

彼女としては、ひどく過保護な生活を続けていたアルフが、野宿に耐えられるのかと心配していた。がその心配は無用だったらしい。

「ああ。風や草の匂いの中で寝るのは、すごく気持ちがよかった」

無表情な彼の瞳が、心なしか輝いて見える。普段感情を出さない彼の、少し弾んだ声を聞き、シズクは微笑ましそうな表情を浮かべた。

「でも、今日は久しぶりに、羽毛のはいった柔らかいベットで寝ることができますよ」

「うん。そっちも好きだ」

まだ昼過ぎだというのに、町は随分と静かだ。

「なあ、町っていうのはこんなに静かなものなのか?」

「いえ、本当はもっとにぎやかなはずなんですが」

シズクは土がむき出しの地面を見おろし言葉をにごす。
アルフはその意味にすぐ気が付き

「・・・ドラゴンのせいか?」

高揚していた気分が下がるのを感じた。

「一概にそうとは言えませんが・・・」

ひっそりと、息を止めるように静かに送る生活。
幸福など久しく訪れることも、顔を出したこともないのだろう。
はしゃいでいた自分が随分場違いな気がした。
アルフの視線の先には生き生きと仕事をする者など一人もいない。
店はほとんど閉まっていて、開いているほうを見つけるほうが大変そうだ。

「まあ、でも、どこかに人が集まっている場所があるはずです。」

探しましょう、とシズクは明るく笑ってみせた。

「そうだな。こんな町の中で野宿は目立つしな」

「それは目立つ、目立たないの問題ではないと思います」

幸いなことに、彼女は国から十分すぎるほどのお金をもらっている。贅沢さえしなければ、旅の間中は不自由することはないだろう。

「そういえば、あいつは逃げ出したと言ってたけど、今頃どうしてるかな・・・」

ふとつぶやいたアルフの言葉に、シズクはすぐに反応した。

「シルフィーさんのことですか?」

「・・・」

とたんに黙り込むアルフ。
何故か彼は昔から、片割れの話になるととたんにいつも以上に無口になるのだ。

「やっぱり双子ですね。気になるんですか?」

どこか楽しそうな彼女に

「気になんてしてない」

そっけなく返す。

「ただ、荷物もお金もなく飛び出して、今頃ヒイヒイ言ってればいいと思っただけだ」

口調からして、冗談を言っている風にも見えない。

「俺はあいつのこと、嫌いなんだ」

「それ、塔のなかでも言ってましたね」

薄暗い塔の中での生活を思い出し、シズクは聞いた。

「どうしてなんです?」

「・・・あいつに会うと、ものすごく、むかつく」

ちらりと、いつもは大人びた彼の表情に子供っぽさが浮かんだ。
それを聞いてシズクがなにか言いかけた時

「あ、あそこに人がたくさんいる」

抑揚のない口調で言いながら、アルフは通りの向こうを指差した。
見れば、道の隅に小さな人だかりができている。二人が近づいて覗いてみると一人の男性がどっかりと椅子に座っていた。前にある机の上には、がっしりとした男性の腕がまるで握手を待つように乗っている。

「さあ、他に挑戦者はいないか?」

野太い声で、男性は群衆を見渡す。

「何をやっているんだ?」

アルフは隣にいた、耳が尖っていることが特徴の、エルフの青年に聞いた。

「ん?腕相撲さ。」

青年は言いながら、男性の座っている椅子の横に置かれた袋を指差した。

「あの中に入っている金貨をかけているんだ。

ちなみに、勝負一回でコイン一枚。

あの中に入ってるのは、今まで勝負した奴から勝ち取ったものさ」

つまり、男性に勝った者が袋の中身をもらえるというのだ。

逆に言えば勝つ者がいなければ賞金は全て男性のものと言うわけだ。

「ちょっとした娯楽だよ。

この町もすたれてきたからなあ」
青年が言うには、つい先日、近くでドラゴンが暴れ回ったという噂を聞き、住民はそれに怯えて閉じこもるようになったと言う。
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