誰かの話

□嘘の色
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「ねえ、この町にお化けが出るってうわさとか聞いたことない?」

リオが来てから三日目の朝、彼女は唐突にそう言った。



その日は珍しく朝から雨が降っていて、黄砂もいつになくおさまっていた。
当たり前のように秘密基地の扉をあけたアルクは、いきなり質問されて思わずまぬけな声が出てしまった。

「はあ?
なんだよ、いきなり」

「だから、最近この町におかしなうわさとかって、ない?」

聞いているにしては、やや確信めいた口調をしている。
アルクは後ろ手で扉を閉めながら、いきなりなんだと顔をしかめた。

「誰かから聞いたのか?」

「残念でした。まだ知り合いがアルクしかいないので情報源は君しかいません」

どこか得意そうなリオ。
アルクは濡れたコートを脱ぎ捨てて適当な位置に座った。
後ろから

「また脱ぎ捨ててる」

というマオの声が聞こえたが彼はあえて反応しない。

「じゃあ、なんでそんなこと聞くんだ?」

「さあ、なんででしょう?」

「あのなあ・・・」

適当な返事を返すリオに文句を言おうと口を開くと

「ねえ、今日は町を散歩しようよ」

遮るようにリオが言った。

「はあ?なんで?」

うっとおしおそうにアルクが聞き返せば、当たり前のように彼女は答える。

「だって、今日は雨が降ってるから誰も外に出てないでしょ」

「・・・」

「だから、誰とも会う可能性はないよ」

驚いたのと、むかついたのと、半分。
アルクは会って数日の少女に自分を見透かされたような気がして、黙って壁の隙間を見た。
砂を含んだお世辞にも綺麗と言えない雫が、すきまから入ってくる。
天井にも穴があいているから、ひっきりなしに雨漏りが落ちてくる。


 タンっタンっ


雫が床にあたって弾ける音だけがしばらく室内に響いた。

「図星?」

音にまぎれるようにささやかれて、アルクは声の主をキッと睨んだ。

「違う」

「顔に出てるよ」

「・・・もういいから、お前はフィアと遊んでろよ」

しっし、と獣を追い払うようにマオに向かって手を振る。
そして、言いながらあることに気づく。
いつもそこら辺を跳ね回ってる炎の固まりの姿が見えない。
何気なく彼が部屋の中を見渡すと、隅に弱弱しい青が見えた。
うずくまるようにして、寝転んでいる。
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