短編

□侵入者
1ページ/1ページ

「お、お前何やってんの」

銀時は冷や汗をかいていた。一人ですやすやと布団で熟睡していたはずが、なんとなく寝苦しかったり肌寒かったりして、目が覚めたら高杉が何故か自分の布団の中にいる。銀時は最初夢かと思ったが夢ではないらしく頭を抱えた。

「別にたまにはいいじゃねえか。俺ァ添い寝しにきてやっただけだぜ?夜這いとか変なことはしねぇよ」
「なんもよくねーよ!大体てめーどっから侵入してきた」
「窓から」

銀時が窓を見上げると半開きになったそこから夜の冷たい秋風が吹き込んできた。

「お前攘夷志士じゃあきたらず泥棒稼業にも手を染めたのかよ」
「俺ァお前のハートを盗みにきた」

こんなにも馬鹿なことを真顔で言われてるのにどうして頬がへんに紅潮するのだろう、と銀時は再び頭を抱えた。

「あのさ、押し入れには神楽が寝てんの!こんなとこ見られたらなんて言われるか…はやく帰れよ」
「ああ、あのチャイナ娘か。いっそのこと銀時の痴態を見せつけてやろうぜ」
「馬鹿いうんじゃねーよ!教育に悪い!教育に悪いから!!」

小声の応酬だったが神楽を起こしてしまったらしい。押し入れの襖が開かれて目をこすりこすり神楽がこちらを見ている。反射的に銀時は高杉を布団の中に押し込んだ。

「銀ちゃん、うるさくて起きちゃったアル」
「か、神楽ちゃんごめんね〜銀さんチビの攘夷浪士に襲われる悪い夢見ちゃってさ〜寝言うるさかったかな〜?」

銀時はばたつく高杉を必死で抑え込む。

「悪夢ならしょうがないネ。でも次静かに寝ないとてめーのドタマブチ抜くぞワレェ」
「は、はーい」

押し入れの襖はぴしゃりと締まる。

「チビの攘夷浪士って誰のことだよ」

高杉が銀時を睨む。銀時はさ、さあ、と引きつり笑いを浮かべる。

「とにかく神楽もいるし早く寝かせてくれよ…もう帰ってくれ。明日銀さん朝はえーんだよ。仕事があんの」
「つれねェな。添い寝しにきてやっただけだし変なことはしねぇから別にいいじゃねえか。お前は大人しく寝てろ」

銀時は高杉が傲岸不遜で頑固で強情なのをよく知っているからため息をついた。

「ほんとに変なことしないよな」
「たまにはお前とこうして身を寄せ合って寝てみたかっただけだぜ。三千世界がどうたらこうたらってやつか?」

くつくつ笑う高杉に銀時は諦めて目を閉じる。正直、たまには高杉の温もりを感じて寝るのも悪くはないと銀時は思い始めていた。高杉になんかされるんじゃないかという疑いはあるが。

「そうかいそうかい。勝手にしてろ。ただし神楽が起きたり新八が来るまでには帰るんだぞ」
「はいはい」

そうしてぐっと高杉に銀時は引き寄せられる。抱き枕にされているようで銀時は少し気に食わない。

「くっつきすぎじゃねえのか」
「なんもしねえから安心しろ」

それ以降、高杉は何も言わず沈黙の時間が流れる。銀時が横目で後ろをちらりと見ると高杉は憎たらしくも寝てしまっていた。
高杉の言う通り高杉の割には珍しくただ寝るだけで銀時に本当に何もしなかった。それでも銀時は眠れなかった。密着されているせいか高杉の体温と、吐息と、鼓動が全身で感じ取れてしまい高杉を妙に意識しすぎて眠れないのだ。

こいつ仕事に支障が出たら責任取らせてやる、と銀時は高杉を恨めしく思いながら月が浮かぶ窓の外を眺めた。

そのまま夜はどんどん更けていく。

end

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ