短編

□きみのとなり
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頬にだらり流れる脂汗。
呼吸をすることすら辛い。

「銀時?」

俺の尋常じゃない雰囲気を感じ取ったのか隣の布団で寝ていた高杉の目が覚めてしまったようだ。
時計を横目で見るとまだ深夜3時。
こんな時間なのに起こして悪かったな。

「悪い夢でも見たのか」
「ああ、すっげー心臓に悪ィ夢」

収まらない心拍数。まだ恐怖の余韻が残っている。
そんな俺を見かねて高杉がわざわざ布団から抜けだして無言でコップに水を汲んできてくれた。
高杉らしくない高杉の優しさが身にしみる。

ほんと悪いな、と言いながら水を飲み干すとカラカラの喉に水が染み渡ってようやく俺は落ち着けた。

「落ち着けたか?」

高杉の問いにこくり、と頷いて俺は飲み干したコップを脇に置いた。

「昔っから言うだろ、悪夢を見たら人に話せば正夢にならねェって」

高杉は俺の肩を抱く。
高杉の手の温もりに安心する。

「聞いてくれるか」
「たりめーだろ」

厄祓いするか、と俺は夢の内容を高杉に語った。
高杉は俺の悪夢の内容を笑い飛ばした。

「なんだよお化けに追いかけられる夢っててめーはガキか。どんだけ臆病なんだよ。心配して損したぜ」

人をなんだと思っているんだ、銀さんはそういうのほんと苦手なの。なーにが心配して損しただよ。

大体8割方てめーのせいだよ見たくもないホラー映画見せやがって!

俺がぶつぶつ文句を言ってむくれていると高杉が俺の頭をわしゃわしゃ撫でた。
心地良いって思っちゃうのがなんかムカつく。

「じゃあ俺と一緒の布団で寝ろよ銀時。どうせお前のことだから眠れねェだろ」

いつもならなんでお前と一緒に寝なきゃいけないんだ、と撥ねつけたり気持ち悪がるがそうはいかなかった。
このままじゃ眠れそうにない。

「しょうがねェから一緒に寝てやる」

ちょっと意地を張る。
そうして俺はぽんぽんと高杉が叩く布団へおずおず潜り込んだ。1人の布団より断然温かい。

というかただの幼馴染の布団に潜るだけだというのにちょっと緊張するのはどうしてなのだろう。

「おやすみ、銀時」

高杉は俺と反対側を向いて寝た。

誰かと布団を共有することによって訪れる安心感。

少し前までは悪夢に魘されていても慰めてくれる人間がいなくなったと喪失感を抱いていたのに、その喪失感は後ろで眠りこけている男のおかげでなくなりそうだ。
隣で誰かが寝ているってことは幸せなことなのだ、と実感した。

俺は大きな欠伸を1つすると瞼がゆっくりと落ちていった。


-end-

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