短編
□はじめての
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向かい合う銀時と高杉。
1組の布団。
「えーっとさ…な、なにこれ」
「なにこれじゃねェよ。き、今日こそやるんだろ」
「高杉お前マジでやるつもりなの」
「銀時お前さっきノリノリだったじゃねェか」
高杉も銀時も声が心なしか震えている。
2人の傍らには未開封のコンドーム。
0.02mmとでかでかポップ体がパッケージの表面で踊っている。
「た、タンマ!やっぱり今日はやめに…」
「こ、この俺がわざわざこれ買ってきたんだ、今日やらずにいつやるんだ」
高杉はコンドームを買うことすらやっとだった。
「だから使うしかあるめーよ」
「そっか、そうだよな」
高杉の表情筋は石像のようにピクリとも動かない。
銀時は棒みたいな笑い方をする。
それから銀時も高杉も目を合わせようとしない。流れる焦りの汗。2人の精神は緊張状態。時計の秒針だけが余計に煩く聞こえた。
無言の膠着。
銀時は痺れを切らした。
「おい高杉、てめーこういうのは慣れてるっていってたよな?」
「たりめーだろ」
「あーでもそういや昔辰馬が言ってたよな、俺と取り合った遊女と一緒にいても目ェ血走らせて黙って酒飲むだけだったって。実際なんもしてこねェしもしかして晋ちゃん童て…」
挑発した銀時を高杉は顔を赤くしながら押し倒した。高杉の鼻息は荒い。銀時の顔がにやける。
「あれ、図星だったかな〜?」
「んなわけねェだろ。そういう銀時はずっと受身じゃねェかお前こそ童て…」
挑発された銀時は高杉の顔を引き寄せると顔を赤くしながら目をぎゅっと瞑って口づけた。唇に触れるだけの申し訳程度の軽い口づけ。高杉の顔がにやける。
「お前こそ図星じゃねェか」
「バカヤロー!お、俺はてめーとは違って百戦錬磨なんだよ。ど、童貞なんざとは程遠いんだよ!」
互いににらみ合う。
しかし、体が密着しているので伝わる体温と鼓動。
銀時も高杉もそれでお互いをひどく意識して目を伏せた。
「どうしよう」
2人は呟いた。
互いに恋愛感情を抱いたのはほとんど同時だった。
幼少期から些細な喧嘩は数多。それでも奇妙なことにお互いいつの間、惹かれていった。勇気を振り絞って互いの思いをぶつけたのはつい最近。ほとんど喧嘩に似たようなものだったが、お互いの真意は伝わった。
しかし、結ばれたはいいが、まだ軽い抱擁と軽いキスがやっとだった。そろそろステップアップをはからなくてはいけない焦燥感に駆られたのだ。
「やっぱ無理なんじゃね…」
諦めムードの銀時。高杉は頭を掻いた。
「諦めるんじゃねェよ銀時。まずはちゃんとしたキスからやってみねェか」
「ちゃんとしたキスってなんだよ……」
「やってみたら分かるはずだ」
2人は目を固く瞑った。
改めて互いを意識をすると鼓動の音が2人の鼓膜に大きく響く。それが緊張感を加速させた。
「た、高杉、せーのでキスだ」
このままじゃいつまでたっても埒があかなそうだったので銀時はひとつ提案した。
「わ、わかった」
高杉は頷く。
「せーの」
銀時の合図に合わせて高杉は恐る恐る唇を重ねた。これまで以上に紅潮する2人の頬。
しかし、再度の無言の膠着。
誰も微動だにしなかったが、やっと高杉が恐る恐る舌を伸ばすと、銀時はそれを恐る恐る受け入れて絡ませあった。
ぬめぬめともざらざらともつかない新鮮な触感に銀時も高杉も身を強張らせる。 舌を噛んだり歯がカチカチと当たってしまって多少不器用なものではあったが。
2人の血圧は急上昇する。
夢中になりそうな感触だった。
もっと相手を感じたいという欲求が増した。しかし、お互い恥ずかしさがそれに勝ってしまった。
離れる唇。
唾液の糸が引いてそれさえも恥ずかしかった。
「銀時のヘタレ」
「高杉がヘタレなんだろ!」
「キスさえやっとのてめーが人のことヘタレって言える立場か」
「キスがやっとだったのはお前だし!遊郭で女に手を出せなかったお前に言われたくない」
「じゃあ手を出して良かったのか」
「んなわけ…」
低レベルな言い争いをしていると、はじめて深いキスをしたせいか、どちらも昂奮していたのだ。2人は自分の身に起こった特有の生理現象に気づいて赤面した。
そして、互いの太腿に生理現象の最たるものが当たっていることに気づいて慌ててぱっと飛び退く。
「今のは悪かった。なかったことにして」
「俺もなかったことにしてやるからなかったことにしろ」
異様に早口だった。
背中合わせの2人。
顔も合わせられない。顔から火が飛び出そうな勢いなのでパタパタと手で扇ぐ。
「いつできるんだろうな」
銀時は高杉に問いかけた。
高杉は自分に呆れたように静かに目を閉じる。
「さあな。わからねェがひとつわかることは」
ふたりが初夜を迎えるのはもう少し先のことになりそうだった。
「俺たちヘタレすぎだろ……」
高杉も銀時も溜息をついた。
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