本棚A.s
□暗殺教室A.s 第3話
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午後の授業は変わらず過ぎていき、今は放課後となった。
「それではみなさん、気をつけて帰るように。解散!」
殺せんせーの言葉に、みんな一斉に帰り支度を始める。すぐに教室を出る者、もうしばらく教室に留まる者、様々である。
「萩生さん」
「…?」
麻耶は声をかけてきた人物の方を見ると、少し小走りで駆け寄る。
「あれって、烏丸先生?」
「だと思うけど…。どうかしたのかな」
後ろのドア近くでは烏丸先生が少し頭を下げ、麻耶が手を振りながら首を横に降る、という遠くからみたらよくわからない状況となっていた。見ている生徒は渚や茅野だけではなく、何人かの生徒も2人に視線を向けていた。
2人の話は案外すぐに終わったらしく、麻耶は自分の席へと戻ってきた。一方烏丸先生はドア近くにとどまったまま、少しかんがえこんでいる。
するとなにか思いついたのか、スタスタの教室内に入ってきた。
「渚くん、カルマくん。2人に話があるのだが、少し来てくれないだろうか」
「え?」
「…」
渚は驚き、カルマは無言で烏丸先生の方を向く。
「大丈夫ですけど…」
「俺も」
「じゃあついてきてくれ。萩生さん、少し教室に残っていてほしい」
「…わかりました」
そうして2人は烏丸先生に連れられ、教員室に着いた。
「君たちに頼みがある」
「頼み、ですか?」
「そうだ。実は萩生さんのことなんだが」
「萩生さん?」
渚もカルマもなぜ彼女の名前が出てきたのかと首を傾げる。
「詳しくは言えないが○○駅まで彼女を送っていってほしい」
「送る?」
「そこって僕らが通学に使ってる駅、だよね」
烏丸先生は言葉を探すように少しだけ黙ってから続けた。
「彼女はまだ、ここの地理に詳しくない。それで君たちに頼みたいということなんだ」
「そういうことなら、僕はいいですけど」
渚がチラリとカルマの方に目をやると、カルマは一瞬だけ考える顔をしてすぐにいつもの表情にもどった。
「いいんじゃない?特に悪いってわけじゃないしさ」
「ありがとう」
烏丸先生は2人に向かって深く頭を下げた。
2人は教室に戻るように言われ、去って行く背中をただ一人、烏丸先生は難しい顔で見ていた。
「烏丸先生も人が悪いですねぇ」
後ろにはいつのまにか殺せんせーが立っている。烏丸先生は顔を少しだけ下に向けると、重々しく口を開いた。
「防衛省のもつ国家機密ほどなら、彼らはわかっていて俺が隠すのを受け入れている。だが、同じ生徒のことで隠し事というのは…」
「人間だれでも隠し事はあります。それが大きなものであろうと、近いものであろうと」
「…」
烏丸先生は殺せんせーの方を向いた。
「…お前は、どこまで気づいているんだ」
「それがさっぱり、全体の1割くらいですね。はじめてですよ、あそこまで謎な生徒は」
「そうか…」
2人の間にしばしの沈黙が流れる。そして、その沈黙を破ったのは彼の方だった。
「烏丸先生、彼女のことで言えるだけのことで大丈夫です。教えてください」
「…そこまで多くではないぞ」
「構いません。どんな小さなことであっても、生徒のことを知りたいのが教師であり、私なのですから」
烏丸先生かその言葉を聞いて一息つくと、彼女について言えるだけのこと、全てを話した。
殺せんせーはそれをじっと聞いていた。