じぇんとるまん
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朝からイーストシティに立ち込めている暗雲は今にも雨を降らせそうだ。
そんな天気でなくともリュカ・ウィルソンにとって今日が最悪の日であることは間違いがない。
何てったって、昨日酔った勢いで墓場まで大事に持っていくはずだった気持ちを親友に告げてしまったのだから。
幸運なことに今日は思い人で親友のジャン・ハボックには一度もお目にかかっていないが、気分は空模様と同じようにもやもやとしていた。
あのまま酔い潰れて記憶を飛ばしてしまえば、どんなに良かったことかと部下そっちのけでデスクに額をおしつけていると、執務室のドアがノックされる。
来訪者はマスタング大佐付きの補佐官ホークアイ中尉だった。
「ウィルソン少佐。イシュバール復興会議の書類をマスタング大佐が今日までに完成させるようにと」
「ああ、わざわざご苦労。ホークアイ中尉」
「いえ。書類の件よろしくお願いします」
そうそっけなく言って、自分の執務室から出て行く中尉の背中を見つめながら、ハボックはああいう美人に告白されたら即座にOKするのだろうかと考えを巡らせる。
ハボックの好みは胸のでかい美人。
対する自分は、胸はないし、そもそも男だし、顔だって特に整っているわけでも、女顔なわけでもない。
もちろん告白したところで付き合える何て露ほどにも思っていなかったので、一生気持ちを伝えるつもりはなかった。
たまに一緒に飲んで、世間話をしたりするだけで十分だと思っていた。
だからリュカは昨日の自分を殴ってやりたくて仕方がない。
余計なことを言って今の親友という特別なポジションを失うことはなかったのに。
後悔しても言葉を取り消せないことは分かっているが、夢であったらと祈らずにはいられなかった。
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