絵本の世界と魔法の宝玉! First Season
□理不尽な仕返し!
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みゆきがふしぎ図書館を訪れていた、五時限目の休み時間にて。
倉田と寺田が、放課後に使う明日の読み聞かせ会の材料を揃え終え、生徒会室を出た数分後のことだった。
生徒会室に無断で侵入する人影の存在に、校内にいる誰もが気付かなかった。
尤も、それはあくまで“人間”に限定した話だが……。
チェイサー「ニーヤニヤニヤ♪」
天井に寝そべっていたチェイサーは、生徒会室に侵入した人物を眺めながらニヤニヤ笑いを浮かべていた。
一方、ふしぎ図書館にて。
みゆきの発言を聞いたニコは、怒りに打ち震えて睨みつけていた。
星空みゆき「…に、ニコちゃん……?」
ニコ「……その本のこと…、知らないって言うの…?」
星空みゆき「……え?」
先ほどの流れとニコの反応から、そのような返答が来るのは予想外だった。
ニコと魔王が探している絵本は、英雄古本店の店長である眠太郎曰く“超マイナーな作品”らしいため、予想としては“何処でその本を知ったの?”というのが一つ。
加えて、その本をニコたちが探していることと宝玉探しは関係はなく、みゆきが首を突っ込んでくる必要もないため“何でそんなこと教えなくちゃいけないの?”と返されるのが二つ目の予想だ。
まさか、明らかな怒りを表わにされて“何で知らないの?”と返されるとは思ってもいなかった。
それでは、まるでみゆきがその絵本の存在を知っていなければならない、知っていることが前提という解釈さえできるのだから。
と、ここで……。
マジョリーナ「んん? お前たち、ここで何やってるだわさ」
星空みゆき「え…? あ、マジョリーナ…」
魔王「…………」
マジョリーナの介入で、魔王はニコを鎮めるように片手で制止した。
そして、今度はニコに代わって魔王がみゆきの前に出て問いかける。
魔王「星空みゆき。本当に、その絵本の存在を知らないのか?」
星空みゆき「え…?」
魔王「聞き覚えがある、という程度でもいい。それとも……本当に、何も分からないのか…?」
星空みゆき「…………」
魔王の問いに、みゆきは英雄古本店でタイトルを聞かされた時の心境を思い出す。
みゆきは、その絵本の存在を知っていた。
タイトルに聞き覚えがあり、ずっと昔に読んだ記憶さえある。
だが、それを鮮明に思い出すことが出来なかったため、こうしてニコたちに絵本の詳細を訪ねてしまったのだ。
絵本を探している以上、その内容まで把握していると思ったから。
星空みゆき「……昔、読んだことがあると思う。タイトルも聞いた覚えがあったから…。でも、お話の内容が上手く思い出せないの…」
ニコ「……ッ…」
魔王「ほぉ…?」
星空みゆき「ニコちゃんたちが、その絵本を探してたことを古本屋さんの店長さんから聞いたの。だから、ちょっと気になってて……」
魔王「……そうか」
みゆきの、絵本に対する事情を知った。
タイトルは覚えている。
読んだことがある気がする。
しかし、その内容までは思い出せない。
ニコはどう思っているか知らないが、魔王はそれが分かっただけで十分な成果だと判断した。
魔王「悪いが、それをオレたちの口から教えてやることはできない」
星空みゆき「…え?」
魔王「星空みゆき。その絵本の詳細を知りたければ、オレたちと同じようにその絵本を探してみるといい。尤も、宝玉探しが最優先だがな?」
それだけを言い残して、魔王はニコを連れて人間界へと戻っていった。
ふしぎ図書館に残されたみゆきの傍で、何があったのか理解しきれていないマジョリーナが首を傾げて立ち尽くしていた。
魔王「タイトルを覚えてくれていた。記憶の片隅に残されている証拠じゃないか? ニコ」
ニコ「……そんなの…忘れてるのと同じよ…」
魔王「…………」
ニコ「タイトルだけ覚えてたって、絵本の内容も知らないんじゃ意味がないもの……。やっぱり…、忘れてるんだ……」
人間界に戻る際、ニコは魔王にも聞こえないくらい小さな声で呟いた。
ニコ「…うそつき」
一方で、当初の目的を思い出したみゆきはマジョリーナへと協力を申し出ていた。
今現在ふしぎ図書館に残っていたのはマジョリーナとホレバーヤのみ。
尤も、ホレバーヤは図書館の管理を任されている館長であるため、ふしぎ図書館から出て行くわけにはいかなかった。
すると自然に、白羽の矢はマジョリーナへと向けられることになる。
星空みゆき「お願い、マジョリーナ! わたしたちに協力してくれないかなぁ!?」
マジョリーナ「ふ〜む……読み聞かせ会を手伝ったところで、宝玉探しに繋がるとは思えないだわさ」
星空みゆき「ぁぅ〜…、それはさっき魔王からも言われたぁ……」
この頼みは完全な私事。
最重要とされる宝玉探しに関係ないことは、極力避けていた方が問題ないのだが……。
マジョリーナ「…まぁ……、何度も同じ探索を繰り返す悪循環を脱する良い機会だわさ…」
星空みゆき「え? それじゃあ…ッ」
マジョリーナ「ついでだわさ。宝玉が現れるまで、少しくらいは付き合ってやるだわさ」
マジョリーナの協力が加わり、みゆきは意気揚々と七色ヶ丘中学に戻っていった。
ところが……放課後になって事件が起きる。
青木れいか「……これは…」
星空みゆき「ちょっと……これ、どういうこと…!?」
否、正確には既に事件が起きた後なのだろう。
短い休み時間を利用して倉田と寺田が集めてくれた材料、その全てが……何者かの手によってグチャグチャに破壊されていた。
水浸しになったダンボールは潰れ、画用紙はビリビリに破かれ、割り箸などの小物も全て滅茶苦茶に散乱している。
緑川なお「…ひどい」
視界の端では、この惨状に耐えられなかった寺田が涙を流している。
生徒会室に侵入していた何者かの手によって、みゆきたちの企てていた案は台無しにされたのだった。
しかし……。
青木れいか「大丈夫です。まだ時間は残されています」
星空みゆき「青木さん…」
青木れいか「こんなことをした方を許すわけにはいきませんが、今は犯人捜しが最優先事項ではありません。明日の読み聞かせ会を成功させるためにも、また材料探しから始めましょう」
日野あかね「……せやな…。まだやれることは残ってるでッ」
黄瀬やよい「わたし、美術部のみんなから絵の具を借りてくる!」
緑川なお「あたしも、画用紙とダンボールを出来る限り集めてくるよ!」
迷っている暇はない。
立ち止まるのではなく、動き出さなければ始まらないのだ。
こんなことをした犯人も気になるところだが、まずは読み聞かせ会の成功を優先して、みゆきたちは行動していく。
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