絵本の世界と魔法の宝玉! First Season
□宝玉を追いかけろ!
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絵本の世界にマホローグが攻めて来た日から一週間が過ぎた。
なおは現在、ふしぎ図書館の中で療養中だ。
七色ヶ丘中学には休学届けが出されており、緑川家には通学しながら部活動のみんなと泊まり込みで活動中、ということになっている。
ふしぎ図書館内とはいえ、なお自身からも連絡が入れられたため、今のところ周囲に現状がバレている様子はない。
星空みゆき「そろそろなおちゃんも学校に戻って来れるかなぁ」
日野あかね「みゆきの力があれば、あっという間やでッ」
なおがふしぎ図書館で療養している間、みゆきが館内に足を運んでは少しずつ治癒を施していた。
なおの傷は恐ろしく深く、人間界の病院に診せていたら長期入院は免れなかっただろう。
大きく背中を斬り裂かれた際、背骨は断たれ、いくつもの内蔵まで損傷していたのだ。
その上、みゆきの治癒も一気に発動するわけにはいかなかった。
これだけの大怪我を治そうものなら、今度はみゆきが動けなくなってしまう。
こうして、なおの館内入院が続いてきたのだが、その時も一週間足らずで終わりが見えていた。
今では背中の傷も塞がり、一人で動けるほど回復している。
今日は、もうすぐ学校に戻って来れるなおに、最後のお見舞いに訪れたところだった。
ふしぎ図書館の扉を開き、みんなが一斉になおの傍へと歩み寄ってきた。
黄瀬やよい「なおちゃん! 来たよーッ」
緑川なお「…あ、みんなッ」
日野あかね「お? 顔色もええなぁ」
青木れいか「安心しました」
館内の管理に加えて、なおの世話までしてくれていたホレバーヤに挨拶を終えた後、みゆきはいつもの治癒に取り掛かる。
ベッドの上に伏せたなおの背中に触れると、みゆきの両手が薄桃色に光りだした。
星空みゆき「この治癒も最後になるのかな…」
緑川なお「みゆきちゃん、ありがとね」
星空みゆき「ううん。それより、ごめんね……。みんなが頑張ってたのに、何も出来なくて…」
日野あかね「もぉ〜…。それ、まだ気にしてたんか?」
みゆきは、宝玉の力さえ持っていないなおが傷ついたことを気にしていた。
体を張ってまで頑張ってくれていたとに、みゆきは何も出来なかった。
それどころか、せっかく回収した宝玉が目の前で飛んでいってしまったのだ。
青木れいか「結局、宝玉が再び放たれてしまった原因は何だったのでしょうか……」
緑川なお「その話だけど、やっぱり分からないみたいだね。原因を探ろうにも、宝玉堂に手がかりは残されてなかったみたいだし」
星空みゆき「…………」
みゆきの目の前で、宝玉は飛んでいった。
その瞬間を見ていたのはみゆきだけだったが、突然のことだったせいで詳しく思い出せない。
こういった面でも貢献できなかったことを、一週間経った今でもみゆきは気にし続けていたのだった。
黄瀬やよい「みゆきちゃん、元気出して」
日野あかね「せやせや。そんな顔しとったら、ハッピーが逃げるんと違うんか? んん?」
青木れいか「星空さん。こういう時こそスマイルですよ? なおを助けてくれているのも、星空さんではありませんか」
星空みゆき「みんな……」
みんなから励まされ、みゆきの顔にも笑顔が戻っていく。
そして、なおに最後の治癒を施した瞬間と、ホレバーヤが全員分のミルクセーキを作って持ってきた瞬間が同時だった。
ホレバーヤ「せっかくのお客さんだからね。ゆっくりしていきなさい」
黄瀬やよい「ありがとうございます」
青木れいか「なおの件も含めて、本当にお世話になりました」
ホレバーヤ「あらあら、このくらいどうってことないんだよ。それに……今は少し、退屈だったからね?」
ふしぎ図書館の館長であり、館内の管理を全て任されてるホレバーヤが“退屈”と言った。
椅子に腰掛けて一息ついた様子を見た後、みゆきは館内の様子に耳を澄ませてみる。
何処からか笛の音が聞こえてきている他に、気になる音は聞き取れない。
妙に静かだった。
星空みゆき「……ねぇ? ウルフルンたちはいないのかな?」
日野あかね「ん? あぁ……そういや、ここ最近会うてへんなぁ…」
緑川なお「え? そうだったの?」
みゆきたちの言葉に、なおは意外そうな声を上げた。
緑川なお「図書館にも、最近は帰ってこないんだよ。てっきりみんなと顔を合わせてるものだと思ってたのに……」
黄瀬やよい「でも、わたしたちも会ってないよね?」
青木れいか「そうですね…。わたしも、一週間前に絵本の世界でお会いした時が最後です」
なお曰く、ウルフルンたちは図書館に帰ってきていないらしい。
そのため、ここ一週間はみゆきたちと顔を合わせているものだと思っていたのだが、どうやらみゆきたちもウルフルンたちに会っていない。
れいかに至っては一週間前の事件以来、誰とも顔を合わせていなかったようだ。
すると、ホレバーヤが呟いた。
ホレバーヤ「……誰とも会ってないなら…、きっと苦戦してるんだろうね…」
誰に言ったわけでもない独り言。
しかし、その口振りは何かを知っているように思われた。
星空みゆき「ウルフルンたちに何かあったんですか?」
ホレバーヤ「………はっきりとした事情が分かってないから…、あまり口外しないように言われてるんだけどね……。やっぱり、みんなには話しておいた方がいいかしら……」
ミルキセーキを飲み干したホレバーヤは、数日前の出来事から静かに語り始める。
ホレバーヤ「実はね。ここ最近、頻繁に宝玉が発生する気配がポンポンと出てくるようになってね……。休む暇もなく、みんなあちこちを飛び回ってたんだよ」
日野あかね「え…、それホンマでっか!?」
黄瀬やよい「じゃあ、もういくつか回収できてるかもしれないってことだよねッ」
青木れいか「気配を察知できないわたしたちには知る由もないことでしたが、そんなことが起きていたんですか…」
それが本当なら喜ばしいことだ。
しかし、ホレバーヤの顔色は晴れなかった。
ホレバーヤ「……残念だけど…、いまだに宝玉は一つも回収できてないんだよ…」
緑川なお「……やっぱり」
ホレバーヤの言葉に、なおは静かに呟いた。
これは予想できていたことだ。
本当に宝玉の回収に成功し続けていたなら、みゆきたちに喜々として報告が届くはずだ。
それがなかったとしても、ふしぎ図書館で療養中のなおの耳に何の情報も入らないはずがない。
回収は成功しておらず、今でも危機的な状況が続いているのだ。
もしかしたら……。
星空みゆき「……回収できてないってことは…、もしかして…」
一つくらい、既に破壊されてしまったのかもしれない。
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