絵本の世界と魔法の宝玉! First Season
□ふしぎ図書館の決断!
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なおは、ようやくチェイサーの部屋の出入口と思われる穴の前まで上ってきた。
しかしやっぱりその穴は小さく、なおが首を突っ込めば穴の外に出てくるのは頭だけだ。
どうしても肩から引っかかってしまうほどの小さな穴だというのに、なおはどうやって落ちてきてしまったのだろうか。
緑川なお「……う〜ん…、やっぱ無理かぁ…。そもそもどうやって入っちゃったんだろう……」
チェイサー「ニーヤニヤニヤ♪ 勇気を出して乗り出してごらん? そうすりゃ全てが動き出す」
緑川なお「はぁ? いきなり何言って……って、わぁ!!」
なおが穴の外から首を抜いて振り返る前に、部屋の内側からチェイサーが押してきた。
お尻を掴まれ、そのまま穴の外へと無理やり押し出そうとする仕草は、まるで悪い魔女を釜の中に押し込む双子の兄妹を彷彿とさせた。
尤も、この穴はお菓子で作られてなどいないわけだが。
緑川なお「ちょっとッ!! どこ触ってッ…………ぇ……? あれ…?」
スポンッ、と……何とも簡単に、なおの体は穴の外へと飛び出していく。
穴に落ちてしまった時と同じ感覚で、外に出ることも簡単だったようだ。
穴の面積に変わりはなく、脱出することなど不可能だと思われたのに。
緑川なお「どうなってんの…?」
チェイサー「ニーヤニヤニヤ♪」
穴の向こうから笑い声が聞こえた。
不思議の国に住むチェシャ猫の世界観にとって、このような不思議現象は日常なのかもしれない。
とりあえず立ち上がったなおは、そのままホレバーヤとれいかが待っていると思われる部屋まで帰ろうとした。
しかし、予想に反して別方向から聞き覚えのある声が聞こえてくる。
青木れいか『ついて来ないでください! 人を呼びますよッ』
ジョーカー『どうぞどうぞ、ご自由に〜♪ この館内に敵なんていませんからねぇ〜。駆けつけてくれるのは味方だけですよ〜』
青木れいか『わたしにとって、少なくともあなたは敵ですッ!』
ジョーカー『んふふふふ……君、面白いなぁ〜』
それほど遠くない場所から聞こえてくる声は、れいかの声と聞き覚えのない男の声。
一方がれいかであることに間違いはないため、なおも声の出処へと足を進めてみることにした。
そこで出会ったのが、れいかとジョーカーのツーショットである。
緑川なお「れいか!」
青木れいか「なおッ、捜しましたよ……ッ。今まで何処にいたんです?」
緑川なお「いやぁ…ちょっと色々あってね……。ところで、そっちの派手な人…誰?」
れいかの髪を掴んで遊んでる子供っぽい道化師を見て、なおは怪訝な眼差しを向ける。
ジョーカーの手を、ギュムムゥッ!! と抓り上げて突き放したれいかは、とりあえずジョーカーを紹介する。
すると……ジョーカーの頭上に突如としてチェイサーが現れる。
チェイサー「ニーヤニヤニヤッ、ジョーカー♪ そっちもそっちで、なかなか楽しんでたみたいだねぇ〜!」
ジョーカー「おや、チェイサーさん。お久しぶりですね〜。そちらの宝玉探索は順調ですか?」
ジョーカーの頭の上に乗ったまま、彼の頭に着けられた三色玉の髪飾りをチェイサーが弄ぶ。
その行動を放置し、また頭の上に乗っているにもかかわらず苦しげな様子も見せないジョーカー。
そんな二人を前に、なおとれいかは何となく察していた。
こいつら、同族だ……と。
緑川なお「……ん? ちょっと待って、チェイサー」
チェイサー「んん〜?」
緑川なお「今、どうやって出てきたの?」
今更になって言うまでもないが、チェイサーは神出鬼没。
瞬間移動が使えるというわけではないが、突然現れたりスゥッと消えるようにいなくなることなど、容易い能力として駆使できる。
緑川なお「…それってさ……。他のものも一緒に移動できるよね…?」
チェイサー「そだよー♪」
緑川なお「じゃあさ……。穴の中に落ちた後、その力であたしを外に移してくれた方が早かったんじゃない……?」
チェイサーは、自分以外のものも同じように移動させることができる。
万能ではないが、そうでなければ自分の身に着けているものが全て置いてけぼりになってしまうからだ。
もちろん先ほどの状況下ならば、穴の中から穴の外に出してやることなど造作もないはず。
それをやらなかったのは……。
チェイサー「だって〜……頼まれなかったんだもん♪」
緑川なお「れいか、離して。こいつ蹴り上げられない」
青木れいか「なお。今は冷静になる時です」
ジョーカー「冷静ですかぁ〜、そうですか♪ それなられいかさんも落ち着きましたよね? どうどうど〜う♪」
なおの肩を掴んで止めさせているれいかは無防備そのもの。
そんなれいかの背後にチェイサーを振りほどいて回り込んだジョーカーが、れいかの脇の下から手を伸ばして胸元に触れた……次の瞬間。
グルンッ!! と素早く振り返ったれいかの膝蹴りが、ジョーカーの股間を容赦なく蹴り上げた。
ピシッ!! とドミノマスクに亀裂を走らせたジョーカーがうずくまる。
対するれいかは胸元を手で隠しつつ、フシューッ、と荒い息を立ててジョーカーを見下す。
泡を吹いて伏せるジョーカーを前に、なおもチェイサーもこの時ばかりは戦慄した。
なおとれいかがホレバーヤの待つ部屋の前まで戻ってくる。
その後ろから、股間を押さえつつフラフラと歩くジョーカーに付き添う形でチェイサーが並んでいた。
緑川なお「あたし、チェイサーって苦手かも……」
青木れいか「わたしはジョーカーですね…。苦手というか、嫌いです…」
れいかが嫌悪を表すのは珍しく、こればかりはなおも驚愕した。
しかし、チラリと後ろを振り返ってみればその気持ちも分かる部分があるようで、何となくジョーカーに同情する。
そんな雰囲気の中、ようやくホレバーヤのところに帰ってくることができたなおたちは、何気ない調子で部屋の扉を開けた。
緑川なお「ただいまー」
青木れいか「ただいま戻りました、ホレバーヤさん」
ジョーカー「と、とりあえず寝かせてください……」
チェイサー「ニーヤニヤニヤ……災難だったねぇ」
次々と入室してくる四人を迎えたのは……。
ボロボロになって床に転がされたホレバーヤと、ホレバーヤを椅子代わりにして座っているニカスターの姿だった。
ニカスター「おかえりなさい、みなさん♪ ニィッフフフフフ……」
ホレバーヤを尻に敷いたまま、ニカスターはクシャリと笑って挨拶した。
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