絵本の世界と魔法の宝玉! Second Season
□七色ヶ丘の夏休み
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デッドエンド・バロンの三幹部との激闘から二週間が経った。
当初はみゆきも疲労困憊で、傷ついた仲間たちの傷を癒すのも手一杯の状態。
これまでは治り掛けの体に鞭打って、いつも通りに振舞う痩せ我慢の学校生活が続いていた。
しかし、二週間が経った今では全員が心身ともに回復し、今日に至るまでには全員が傷の完治を果たしていた。
そんなみゆきたちを労って、とある提案を抱えたウルフルンが七色ヶ丘中学を訪れていた。
ウルフルン「…………」
バットパット「随分とお優しいですね? ふしぎ図書館の機能乱用の許可を取ってまで申請するとは」
ウルフルン「ガキに与えるご褒美みてぇなモンだろ」
バットパット「ふふ。フライラインたちも、きっと喜んでくれますよ」
ウルフルン「………つーかよぉ…」
ここは七色ヶ丘中学の屋上。
校内に入っては生徒たちに怪しまれる、もとい怖がらせてしまうと思っての配慮だったが、先程から気になっていることがある。
その肝心な“生徒たち”を一人も見つけていない。
バットパット「おかしいですねぇ……。そろそろ登校する生徒が見受けられてもいい時間帯ですのに」
ウルフルン「今日って祝日だったか?」
バットパット「いいえ」
登校時刻を過ぎても、七色ヶ丘中学に顔を出す生徒はいなかった。
その事態の真相に気が付いたのは、痺れを切らしたウルフルンたちが直接みゆきの家に出向いた後でのことだった。
ウルフルンがみゆきに家を訪れた時、当人は庭で水を撒いていた。
本来なら大遅刻も免れない時間帯だが、その仕草に焦りはない。
何故なら……。
ウルフルン「“夏休み”だぁ?」
星空みゆき「うん! 今日からお休みが、いーっぱいなんだよッ♪」
バットパット「これは……誰一人として登校してこなかった理由が分かりましたね」
ウルフルン「ぬぐぅ…」
星空みゆき「え? 何かあったの?」
ウルフルン「へ? ぁぁ……いや…、ちょっと提案があってよぉ」
星空みゆき「提案?」
ウルフルン「みゆきは、夏休みに予定とか入れてんのか?」
ウルフルンの問いに、水撒きを終えたみゆきが苦笑いを浮かべて肩を竦めた。
星空みゆき「あ〜……実は何にも予定がないんだよねぇ……」
バットパット「おやまぁ」
みゆきに予定なし。
本来なら“せっかくの夏休みなのに”と思うところだが、今のウルフルンたちには好都合だった。
ウルフルン「まぁ……提案ってのは、その休みについてなんだけどよぉ」
星空みゆき「え?」
ウルフルンは、魔王に頼んでふしぎ図書館の移動機能の使用許可を貰ってきていた。
別に、一回ごと移動する際に許可が必要なわけではない。
本来ふしぎ図書館の移動機能を使うには、宝玉回収に関係ある時のみ。
それ以外の私用で使うことはホレバーヤの管理の下で固く禁じられている。
バットパット「日頃のフライラインたちの活躍。そして、二週間前の激戦。それらを含めて、ウルフルンは労いのご褒美を用意したのですよ」
ウルフルン「そんな大層なモンでもねぇけどな」
ウルフルンの提案には魔王もすぐに承諾してくれた。
何しろ、二週間前の激戦には魔王も直接関係していた。
ニコを無事に救ってくれた意味も含めて、今回限りは大目に見てくれたのだろう。
ウルフルン「今回だけ、ふしぎ図書館を使って旅行に連れてってやるよ。何処でもいいから、みんなで行きたい場所を選んで遊びに行け」
星空みゆき「ーーー!」
突然の自由旅行。
思わず抱き着いてきたみゆきに対し、ウルフルンが慌てふためいたのは言うまでもない。
七色ヶ丘にある総合病院の一室。
伊勢崎青葉は二週間が経った今でも入院していた。
といってもマホローグから受けた火傷の程は重傷の域を脱しており、あと数日もすれば退院できるまで回復しているのだが。
杉野辺春香「こんにちは〜」
伊勢崎青葉「あ、春香さん。また来てくれたんですね」
そして、伊勢崎の部屋には春香が何度もお見舞いに訪れていた。
隣市の風見ヶ丘に住んでいるとは言え、暇を見つけては七色ヶ丘に足を運んでいる。
かなりの頻度でお見舞いに来ていたが、春香にとっては何も苦ではないらしい。
伊勢崎青葉「何度も何度も、本当にありがとうございます」
杉野辺春香「そんなの気にしないで。私が好きでやってることなんだから」
顔を出す頻度が多いことを配慮してか、お見舞い品の量も僅か。
しかし、こう何度も足を運んでいては結果的に一般のお見舞い品の量より少し多いのかもしれない。
入院ベッドの傍らにある椅子に腰掛けた春香は、慣れた手付きで林檎を剥き始める。
杉野辺春香「あ、そうだ! 実はね、今日から五日くらいは来れなくなっちゃうかもしれないの」
伊勢崎青葉「お見舞いの期間で五日空くのは、普通のことだと思いますよ?」
杉野辺春香「退院も近いんだし、なるべく早い内に様子をみたいから」
伊勢崎青葉「それでも二日か三日に一度顔を出してくるのは早すぎますよ。それで? 今日からの五日間に何かあったんですか?」
話の軌道を戻した伊勢崎の言葉に、春香は嬉々とした表情で瞳を輝かせる。
手提げ鞄の中から取り出したのは、七色ヶ丘商店街で行われている福引の景品だった。
その表には堂々と“一等賞”の文字が書き記されている。
伊勢崎青葉「すごいですね。当てたんですか?」
杉野辺春香「そうなの! こういうのって当てたことなかったから、ホントびっくりしちゃって♪」
それを当てたことが五日間のお暇ということは、典型的な世界旅行なのかもしれない。
そして、伊勢崎の予想は見事に的中している。
伊勢崎青葉「何処に行かれるんですか?」
杉野辺春香「えーっとねぇ〜♪」
ルンルン気分で旅行プランを語る春香。
この人と一緒にいると、伊勢崎は日頃の職の重さから解放されるような気がした。
インターポールの特命捜査官という仕事は、本来は休息の許されるものではない。
七色ヶ丘の某所……ではなく。
何処かの世界の、とある洋館の一室。
伊勢崎に吹き飛ばされた左脚の完全な縫合を終え、マホローグは自身の足で廊下を歩んでいた。
しかしその表情は厳しく、顔には汗が浮かんでいた。
アクアーニ「まだ苦し気であるな?」
そんなマホローグの様子に対し、アクアーニは一言で評価した。
マホローグ「うるさいぞ」
アクアーニ「まぁ、脚を失わずに幸運だったと思っておくが良い。私も、体の不自由を脱したところだ」
やよいの雷撃を脳天に受けたアクアーニも、つい先日まで四肢を動かせないほど弱っていた。
いまだに麻痺は残っているようだが、既に戦えるくらいには回復している。
アクアーニ「あとはルプスルンであるな」
マホローグ「そのまま死んでくれても構わないんだけどね」
そんなマホローグの期待は、言った端から打ち砕かれる。
聞き覚えのある咆哮と共に、洋館全体を揺るがすほどの衝撃が廊下の向こうから伝わってきた。
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