殺戮の天使 Revive Return

□殺天R2 JC6
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 夢にまで見た理想郷から卒業し、もう一人のザックを現実世界へと帰すことに成功したダニー。

 学校が消失し、レイチェルを含めた全ての物質が失われた何もない空間に残され、後は自分も現世に帰るだけ。

 と、その時だった。

グレイ「待ちなさい、ダニー」

ダニー「…………」

 グレイ神父が声を掛けてきた。

 しかし、もうこの世界に幻想物は残されていない。

 そして本物のグレイは現世で生き残っており、こんな場所にいるはずがないのだった。

 であるならば、今ダニーの目の前にいるのは……。

ダニー「何の用ですか? グレイ神父」

グレイ「白々しい物言いだな。私の正体にも勘付いているのだろう?」

ダニー「……生憎ですが、心当たりがありません…。まぁ、あなたが本物のグレイ神父でないことは分かっていましたが…」

グレイ「ふむ、そういうことか……」

 ダニーの本音を聞き出したグレイは、自らの正体を隠していることの無意味さを理解する。

グレイ「では見せてやろう。せっかくだ。ここでの最後の思い出として、その目にしっかりと刻んでおけ」

 そう言った直後、グレイの肉体が服の内側から膨張し始めた。

 その間、グレイは自分の身を包んでいた神父服に左手を掛けてビリビリと破いていく。

 続いて、空いていた右手を顔に添えたと思った瞬間、その皮膚さえも衣服のように容易くグロテスクに引き裂き始めた。

 が、その内側から姿を現したのは血肉や頭蓋などではなく、グレイとは異なる男性の褐色肌。

 その鋭い眼光は赤く、破れた神父服の下は同色の褐色肌なのではなく、その男が元から着ていたカーキ色の制服。

ダニー「…ッ!! その姿はッ」

獄卒の男「そうだ、覚えがあるだろう? お前が逃げ出した獄都から、この私が直々に遥々追って来てやったのだ」

ダニー「獄都…!? お前、やっぱり獄卒……ッ」

肋角「特務室長の肋角だ。私の部下の手を、随分と焼かせてくれたようだな」

 フリッツにも匹敵するほどの長身と大柄の体。

 その威圧感は、他の獄卒たちとは比べものにならない迫力があった。

ダニー「何となく誰かに監視されてるような、そんな危機感は感じていたけど……まさか、獄卒の親玉が目を光らせていたとはね……」

肋角「ほぉ…、私の気配を察していたとでもいうのか?」

ダニー「いや、獄都から逃げ切ったつもりでいたから、まさか獄卒の気配だとは思ってなかったさ……。僕やザック以外の部外者が潜んでる雰囲気だけは掴んでたよ」

 実を言えば、ダニーはこの世界に来る際、同伴を希望されたエディを引き連れていた。

 後ほどザックとレイチェルのクラスに転校生として迎え入れ、一緒のザックの夢の世界での生活を享受させていく予定だったのだ。

 しかし、いち早く部外者の気配を察したダニーの判断でエディを追い返し、自分一人だけが残ったのである。

ダニー「僕の判断は正しかったようだ……。獄卒の長に出向かれてたんじゃ、エディがいたらお荷物でしかなかったよ…」

肋角「…意味深な物言いだな」

ダニー「可哀想だと思ってくれるのかい?」

肋角「……いいや、そうではない」

 肋角はダニーの発言を別の意味に捉えていた。

 ダニーの言っていることは、エディがいても肋角を相手にするには足枷に過ぎない、と言っているように聞こえたのだ。

 逆に言えば……。

肋角「エドワード・メイソンさえいなければ、この私に勝てる……と言っているように聞こえるぞ」

ダニー「……まさか…、そこまで傲りが過ぎる頭脳は持ち合わせてないさ…」

 しかし、さすがのダニーも獄卒の特務室長を相手に一人で戦って勝利することなど不可能だった。

 だが……戦いとは、一言に言っても多くの種類があるということを忘れてはいけない。

ダニー「戦わずして勝たせてもらうだけさ。これでフリッツとの約束を、ようやく果たすことが出来るからね」

 そう言い切ったダニーは、一度だけパチンッと指を鳴らす。



 すると、ダニーの体が徐々に消失を始め、その魂が現世へと向かっていく。



肋角「……!」

ダニー「現世では、あらかじめフリッツが僕の憑代を用意してくれてるはずなんだ。準備が整い次第、いつでも僕が憑依できるようにね」

肋角「この後に及んで逃げ遂せる気か?」

ダニー「ここで捕まるわけにもいかないのさ。悪いけど、これまでの鬼ごっこは現世に引き継がせてもらうよ」

肋角「……そうか…。だが…」

 既に胸から下が消失しているダニーは、完全に逃げ切れると思っていた。

 その油断が、ダニーに最後の仕打ちを食らわせる結果へと発展した。



肋角「貴様の持ち去った“眼”はこちら側の物だ。それだけは返してもらうぞッ」



 ダニーの視界から肋角が消えたかと思った瞬間、右の眼窩に言いようのない異物感が広がる。

 素早く手を伸ばしてきた肋角が指が、ダニーの右眼窩に突き刺さったと知ったのは、木舌から奪っていた眼球を抉り出された後だった。

ダニー「ーーーッ」

 亡者が故に痛みはない。

 しかし、ダニーにとって“自身の眼球を失う”という光景そのものに、大きなダメージが秘められていた。

肋角「どうした? 顔色など悪くして生者の真似事かね」

ダニー「…ッ、く……ぅッ…、やってくれる……ッ」

 右目を押さえながら消えていくダニーは、最後の最後で悔しげな表情を浮かべて肋角を睨む。

 木舌の眼球を手にダニーを見下す肋角は、ターゲットにしていた亡者を取り逃がしたにも関わらず、何処か満足気な笑みを浮かべていた。

肋角「覚悟しておけ。貴様ら亡者が何処へ逃げようと、我らは地獄の底まで追い駆け続けることを……。生前の罪人に用意される場所は、獄都より他の冥界はないのだ」

ダニー「………ッ…」

肋角「許されざる者には罰を。それが我ら、獄卒なり」







 ダニーの消失後、肋角は木舌の眼球を手土産に獄都へ帰還する。

 もう一人のザックを迎えに行ったダニーは、無事に二人揃って現世へと帰還する。

 亡者を取り逃がしてしまった獄卒と、獄卒の眼球を奪い損ねた亡者。



 一度は違った両者の邂逅。

 しかし、これは一つの終わりであると同時に、これから始まる長い戦いの始まりでもあった。





 獄都の魔手から亡者を守り、完全なる死者蘇生を目指すザックたち。

 獄卒として亡者の魂を葬送し、死者の復活という世の理から外れた行為を阻止しようとする斬島たち。

 彼らの戦いは、まだ先の未来まで続いていく。





 殺戮の天使 Revive Return。

 間章。

 殺天R2 Judgment Class。



 【THE END】

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