絵本の世界と魔法の宝玉! First Season

□探索再開!
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 そんな体育授業の一部始終を、両肩にフランドールとバットパットを乗せたウルフルンが空の上から眺めていた。

ウルフルン「…ったく。何やってんだか…」

フランドール「みゆきったら、自分が常に命を狙われていること忘れてるのかしら……」

バットパット「それよりも今、授業中に宝玉の力を使おうとしたようですねぇ。まぁ、失敗しましたが」

 平凡な日常を見て少しばかり呆れた三人。

 それでも宝玉探しは果たさなければならない任務であるため、いつまでもみゆきの傍を離れないわけにはいかない。

ウルフルン「オレだけでも周辺を探ってみる。宝玉の気配が現れ次第、すぐに合流に戻るぜ」

フランドール「分かったわ。なら、わたしたちは少しでも長く、みゆきの傍で監視を続けるわね」

ウルフルン「頼んだぞ」

バットパット「お任せを。ウルフルンもお気を付けて」

 フランドールとバットパットを七色ヶ丘中学に残し、ウルフルンは今まで通りの探索に向かった。







 体育の授業が終わった後のお昼休み。

 何とかフランドールたちと合流したみゆきは、人気のない校舎裏に二匹を連れ込んで身を縮めていた。

バットパット「体育の授業、体を張って励んでいましたね」

フランドール「でも顔面トスは危険よ。もう大丈夫なの?」

星空みゆき「…………」

フランドール「……? どうしたの?」

星空みゆき「…よかったぁ。ヒキガエルさんの時は、いつもの優しいフランドールちゃんだぁ…」

フランドール「………性格は違うかもしれないけど、人間の姿でもわたしはわたしよ…?」

 こういう反応が慣れているのか、フランドールに気に障ったような様子はない。

 しかし、傍らのバットパットは苦笑いを浮かべずにはいられなかったようだ。

バットパット「あー、コホンッ……それよりも、フロイライン。先日の痣の件ですが、魔王様よりご連絡がありました」

星空みゆき「えッ、ホントッ?」

フランドール「歴史上、地獄の苦しみを勝ち抜いて宝玉を取り込んだ住人の記録から知ったみたいだけど、体に浮かぶハートマークに似た痣の正体は、宝玉を取り込んだ証のようなものらしいわ」

星空みゆき「宝玉を取り込んだ、証…?」

 魔王曰く、宝玉を取り込んだ証明として、その者の体の何処かにハートマークに似た刻印が痣や刺青のような形で発生するという。

 何の力もない証であるため、それそのものには害がない。

 ただ、絵本の世界の住人と違って人間のみゆきには日常生活がある。

 下手に誰かに見つかって指摘されれては面倒になりかねないため、このことは隠していた方が良さそう、とのことだ。

フランドール「中学生が刺青なんて、校則違反でしょ?」

星空みゆき「校則違反どころか、大問題だよ!! 取り込んだ証ってことは、宝玉を返すまで絶対に消えないってことだよねぇ!? 見つかったら不良だと思われちゃう〜ッ!!」

バットパット「自宅謹慎処分か、停学か……もしくは退学の可能性があったとしt」

星空みゆき「それだけは嫌ぁぁぁあああああッ!!!!」

フランドール「バットパット。意地悪はやめなさい」

バットパット「失礼しました」

 みゆきが“はっぷっぷー”と頬を膨らませて落ち着くと同時に、今度はフランドールが先ほどの授業で見かけたみゆきの行為についての指摘を始める。

フランドール「でもね? あまり日常生活で宝玉の力を使うのは頷けないわ。例え、他人に迷惑をかけない行為でもね」

星空みゆき「え?」

バットパット「先に申し上げますが、行為そのものを咎めているわけではありません。ただ、わたくしたちの立場を考慮していただきたいだけなのですよ」

 これまでみゆきが生きてきた人生の中で、絵本の世界が実在する、など知る由もなかった。

 逆に言えば、それだけ彼らは人間界から存在を隠し続けて絵本の世界で暮らしてきたことになる。

 人々に絵本を通じて感動を与え、数多の感情を生み出してきた当人たちは、これから先の未来でも人間たちに自分たちの存在を知られるわけにはいかない。

フランドール「宝玉の力を通じて、わたしたちの世界が多くの人間に知られるようなことになれば……わたしたちは今まで通りの暮らしを取り戻せるか分からないわ」

バットパット「十二個全ての宝玉を取り戻したとしても、それは同じことです。忘れないでください、フロイライン。あなたはわたしたちの世界を助けるために協力してくれている反面、その世界の生活を変えてしまう鍵を握る存在でもあるのです」

星空みゆき「…ぁ」

 もしも、先ほどの授業中に光の力で活躍してしまえば、みゆきの能力は多くの者たちから注目されたかもしれない。

 その果てに、遅かれ早かれ絵本の世界の存在が浮き彫りになった時、きっと人間界は騒然とする。

 そうなれば、今も世界が崩壊する危機を迎えようとしている絵本の住人たちが、どれだけパニックを起こすだろうか。

星空みゆき「ご、ごめんなさい……。わたし……」

フランドール「気にしないで。さっきもバットパットが言ったけど、わたしたちはみゆきを咎めるつもりはないし、怒ってもいないわ」

バットパット「ただ、もう少しだけ……ご自分の力を改めてみてください。それをお伝えしたかっただけなのですよ」

 ここで、現状の事態を改めよう。

 絵本の世界から派遣された九人の住人たちと、宝玉を取り込んで協力することを決めた星空みゆき。

 この十人の目的は、七色ヶ丘市内に散らばった十二個の宝玉を一刻も早く回収すること。

 宝玉を誤って取り込んで、命を落としてしまう人間の犠牲者が出る前に。

 そして何より、宝玉の破壊を企んでいる敵組織よりも早く回収しなければならない。

 回収すべき十二個の宝玉には、一つ一つに膨大なマジカルエナジーが宿っており、それら全てが揃うことで絵本の世界全体を構成するほどのパワーを発揮する。

 みゆきは何故か例外だったが、たった一つでも体に取り込んでしまえば、地獄のような苦痛が体中を暴れ回る。

 その後、人間だろうが絵本の世界の住人だろうが関係なく、普通ならば宝玉に秘められたマジカルエナジーに耐えられずに死に至ってしまう。

 そしてどうやら、無事に宝玉を取り込んだ者は証として、体の何処かにハート形の痣にも似た刺青が入り、取り込んだ宝玉の力を能力として発揮できるというのだった。

 その証がみゆきの場合、左太股の裏に浮かび上がっている。

星空みゆき「……わたし、やるよッ。必ず残りの宝玉を集めきって、絵本の世界を救ってみせるから!」

フランドール「ふふ、期待してるわ」

バットパット「ですが、くれぐれも無茶はしないでくださいね?」

星空みゆき「オッケーッ、わたしに任せて!」

 みゆきがガッツポースを取った、その瞬間だった。



 背後から近付いてきたあかねが、みゆきの脇腹を思いっきりくすぐり始める。



星空みゆき「ーーーわひゃぁぁぁあああああッ!!!?? ひ、日野さぁんッ!!?」

日野あかね「にししッ! こんなところで何してんね〜んッ」

 悪気があったわけではないらしいが、慌ててフランドールとバットパットを背に隠したみゆきの仕草を、あかねが見逃すはずがなかった。

日野あかね「ん〜? 今、カエルとコウモリのぬいぐるみ、隠したやろ?」

星空みゆき「ーーーッ」

フランドール「ぬいぐるみ?」

バットパット「失礼ですねッ、わたくしたt」

星空みゆき「(さっきバレちゃマズいって言ったのッ、そっちでしょぉ!!?)」

 その後、フランドールたちの声を聞いたあかねに追い掛け回されたりもしたが、何とか振り切って逃げ延びたことは幸運だっただろうか。



 とにもかくにも、こうして日常に戻ってきたみゆきは、ウルフルンたちと一緒に宝玉探しを再開していく。

 残る十一個の宝玉が全て揃うのは、一体いつになるのだろうか。
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