絵本の世界と魔法の宝玉! First Season
□再来!
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みゆきと天願が転校してきた際、実を言えば別のクラスにも転校生が来ていた。
桜野準一は、春に大阪から引っ越してきた二年一組の転校生だった。
少し伸ばしたスポーツ刈りの頭に、黒い瞳孔を持つ強面の顔付き。
更には、スポーツマン並みのガッシリとした体格から、喧嘩の強そうなイメージを背負って歩いているような少年である。
しかし、当人の内面はまったく正反対なのだ。
桜野準一「はぁ……今日も失敗やったなぁ」
強面が原因なのか、周りから余計なイメージを付け加えられて避けられている。
そのため、転校してから数日が経った今も尚、彼には友達と呼べる存在がいなかった。
桜野準一「やっぱ友達作りっちゅーのは難しいわ……。また誤解を解くことから始めんのもしんどいでぇ…、これ…」
正直な話、友達は欲しい。
しかし、彼の場合はルックスが大きな敗因になり得ているため、これは彼なりに長い旅路になってしまうかもしれない。
例え、友達作り、という一般的に考えて簡単に思われることでもだ。
と、そんな時だった。
桜野準一「……ん?」
桜野の目の前に、誰かを捜して校舎の周囲を走り回っている少女の姿が見えた。
あかねだった。
桜野準一「何や? 何してんねん、あの子」
桜野は、放課後に少し居眠りをしていたため下校が遅れていた。
こうして放課後の校舎に残っているということは、居眠り以外では部活動が思いつく限りの理由だろう。
すると、あかねも桜野に気付いたらしく、息も絶え絶えになりながら迷うことなく駆け寄ってきた。
日野あかね「ちょいとッ、訊きたいことがあんねんけどぉッ」
桜野準一「あん? 何や、関西仲間かい」
自分と同じ関西弁だったことからか、桜野は自分に近寄ってきたあかねに驚愕するよりも先に親近感の方が優った。
日野あかね「この辺で、狼に追っかけられてる子、見ぃひんかった?」
桜野準一「そないなヤツおるわけないやろ」
尤もな返答だった。
しかし狼かどうかは知らないが、何かから逃げるように校舎の中へと逃げ込んできた同級生なら、桜野にも覚えがあった。
桜野準一「何を言うてるか分からんけど、何か逃げてる感じの子やったら、校舎の裏から入ってきてたで?」
日野あかね「ほんま!? おおきにッ」
ゆかかもしれない人物の情報を聞き出し、あかねは校舎の中へと駆け込んでいく。
桜野準一「多分、体育館に向かってったでぇ! 転ばんよう気ぃ付けやッ」
走り去るあかねの背中に声をかけると、あかねは言葉を返すことなく手を上げてお礼の態度を示した。
とりあえず、やれることは果たしたのかなぁ、と思いながら帰宅しようと歩き始めて……数秒後。
桜野準一「あ、名前でも聞いとった方がよかったか……?」
彼の友達作りは、肝心なところで手段を逃す。
バレー部の部室に到着したみゆきは、その場で呆然と立ち尽くしてしまった。
星空みゆき「………な……なに…これ……」
窓ガラスは割られ、部室内はめちゃくちゃに荒らされていた。
残された部員たちは一人残らず気を失っており、そのまま床の上で倒れ込んでいた。
すると、みゆきの背後から別の誰かが声を掛ける。
ウルフルン「チッ、遅かったか」
星空みゆき「……ッ! ウルフルン!」
ようやく学校に到着したウルフルンは、荒らされたバレー部の部室を眺めて舌打ちをする。
すぐさま人間の姿に変身したバットパットが、床に倒れていた部員たち全員の容態を確認していく。
バットパット「……よかった。大きな怪我を負っている者はいないようです」
フランドール「ってことは、ここに目的の物は残されていない、って考えた方が良さそうね」
星空みゆき「目的の物…? それって…もしかしてッ」
今になって、みゆきもやっと事態を把握した。
ウルフルン「少し前のことだ。この場所で宝玉発生の気配が生まれてる」
星空みゆき「で、でもッ。もうここがこんなに荒れてるなら……」
バットパット「いいえ、まだ気配は絶たれていません。ここにないことは気になりますが、少なくとも破壊されていないことは確実ですね」
ウルフルン「とっとと探すぞ。おい、この学校の見取り図みてぇなのは何処にある」
星空みゆき「え? 見取り図…?」
フランドール「わたしたちは、この学校の構造に詳しくないわ。学校の案内図みたいなのがあれば、どの辺りから気配が感じられるか、簡単な逆探知ができるのよ」
ウルフルンたちの意図を理解したみゆきは、この近くの掲示板に貼られた学校案内の図面の前までウルフルンたちを連れていく。
ウルフルンは、微かに感じられる宝玉の気配の方向と、大よその位置から場所を察知した。
ウルフルン「……この方向に、このくらいの距離…。おそらく…この場所だ」
星空みゆき「え? そこって……」
学校の案内図を前に、ウルフルンは宝玉の現在地と思われる場所を指さした。
その場所は……七色ヶ丘中学の体育館だった。
ルプスルンから逃走していたゆかは、校舎の中に入って、渡り廊下を駆け抜けて、体育館まで走ってきた。
逃げ道が絶たれたため、ステージの裏へと身を縮めて隠れている。
名倉ゆか「(何なの……ッ? いったい、何がどうなってるの……ッ!?)」
意識したわけではないが、自然とズボンのポケットの中に手を入れる。
そこから取り出した宝玉を握り締めて、ゆかはルプスルンの狙いを予想した。
名倉ゆか「(宝玉を、渡せ……って言ってたよね…。もしかして、これが宝玉…?)」
思い当たるものと言えば、もうこれしかない。
いっそのこと渡してしまおうかとも思ったが、あの様子では言葉を聞き入れてくれるとは思えなかった。
きっと宝玉を返そうと姿を見せた瞬間に、あの鋭い爪で裂かれて終わりだろう。
名倉ゆか「ーーーッ」
自分の身代わりのように破壊された黒板の有様を思い出すと、リアルにゾクッと戦慄するのが自覚できた。
怖い。
純粋にそう感じていた、その時だった。
日野あかね「……ゆか…? そこにいるんか…?」
名倉ゆか「ーーーひぃッ」
変な声を上げてしまったが、ゆかを見つけたのは部室から追いかけて来たあかねだった。
名倉ゆか「あ、あかねぇ……」
日野あかね「おぉ、見つけた! こんなところにおったんか〜」
体育館のステージ裏で再会した二人は、ようやく安堵の表情を浮かべる。
その中で、あかねはゆかが持っている宝玉に気が付いた。
日野あかね「ん? 何や、その玉」
名倉ゆか「ぁ……」
ゆかは、その玉を部活の休憩時間中に体育倉庫で見つけたことを話した。
そして、ルプスルンの狙いはこの玉なのかもしれない、という予想も同時に話したのだった。
日野あかね「何や、狼のくせに光モンの玉が好きなんか?」
名倉ゆか「よく分からないけど、こんな思いするくらいなら返したい……。でも、こんなの返にし行ったら、きっと……」
きっと、話を聞く前に殺されてしまう。
そう口にしようとした、次の瞬間だった。
ルプスルン「見ーつけた♪」
嘲笑的な笑顔を浮かべた狼が、体育館のステージ裏に隠れる二人の居場所を特定し、見つけ出した。
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