絵本の世界と魔法の宝玉! First Season
□三度目の現出!
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天願から情報を受け取った後、桜野は屋上に向かっていた。
しかし、そこにはあかねと一緒にやよいのポスター作りを手伝うみゆきの姿もあった。
結局、あかねと友達になるための作戦は実行に移せず、天願から貰った情報を活かしきれなかったのだ。
桜野準一「他にも誰かいるなんて聞いてへんでぇ……。自分、知ってたんとちゃうか?」
天願朝陽「まぁ、知りたいのは“最近の日野さん”っていうことだったみたいだからよ。屋上で黄瀬さんのポスター作成を手伝ってるとか、別にいいかなぁって思ってさ」
桜野準一「そこッ、一番大事やろがぁ!! 友達作るのに、どれだけ苦労してると思うてんねん!!」
天願朝陽「え? まさか友達作るために、そこまで奮闘してたのか…?」
天願は知っていた。
桜野が、自分の見た目のせいでクラスでも孤立しており、いまだに友達がいないことを。
しかし、天願は知らなかった。
当人がその状況に悩んでいて、一日でも早く友達を作ろうとしていることを。
桜野準一「見た目も顔も、生まれつきやからしゃーないやんか……。せやから、何とかキッカケ掴まんと、俺いつまで経っても一人やねん……」
天願朝陽「…そういうのは早く言え、って話だからよ」
そして天願は、人の悩みを無視する性分ではない。
天願朝陽「俺が友達になってやる。キッカケって、もうそれでよくね?」
桜野準一「………え…?」
天願朝陽「いや、だからよ? 今から俺が、君の友達第一号ってことだからよ♪ オーケー?」
そう言って、右手を差し出した天願はニカッと笑った。
こんな経験などない桜野は、どうしたらいいか分からなかったが、恐る恐るその手を取って握手を交わした。
天願朝陽「よっしゃ! 俺は天願朝陽だからよ、改めて宜しくな♪」
桜野準一「あ、あぁ……お、俺…桜野準一……。そっか、天願か…。はは、変わった名前やな?」
天願朝陽「あ゙?」
メキッ!! と天願の右手に力が加わり、握手していた桜野の右手が悲鳴を上げる。
友達作り……成功?
失敗……?
そして、放課後。
真っ先に教室を出て行ったやよいを見て、みゆきは心配そうな表情を浮かべた。
日野あかね「やよいもやよいなりに、やっぱ何かあるんやろな……」
星空みゆき「……黄瀬さん…、まだ何か悩んでるのかなぁ…」
話し合っていたところで解決しない。
とりあえず、あかねは今日もバレー部の練習に向かうことにした。
日野あかね「今日は早く終わる予定やねん。せやけど、部活終わりにちょっとだけ個人練習したいんやけど、ええか?」
星空みゆき「うん。それじゃあ、わたしも付き合うよ。部活が終わるまで待ってるね」
日野あかね「にしし、おおきに♪ その後はいつも通りの宝玉探しやな? ほな、また後で〜」
あかねも教室から出ていき、またしてもみゆきは一人になった。
と、思ったのだが……。
天願朝陽「宝玉探し、って何?」
星空みゆき「わぁあああッ!! ビックリしたぁ!」
天願朝陽「いや、今回は普通に横から話しかけたじゃん……。星空さん、ビビリ過ぎだからよ」
みゆきの隣りの席に座って残っていた天願が、ボーッとしていたみゆきに声をかける。
天願の存在感が薄いわけではなく、ただやよいのことを心配して周りが見えていなかったのだろう。
星空みゆき「…………」
天願朝陽「……これは独り言だからよ…。サラッと聞き流しといてね…」
星空みゆき「……?」
天願朝陽「黄瀬さん……多分、まだポスター提出してないよ」
星空みゆき「……え…ッ…!?」
そう切り出した天願は、桜野を通じて知り得た事柄を全て話した。
天願も、ようやく決心したのだろう。
天願朝陽「以上が、黄瀬さんの抱えている悩みの種だからよ。まぁ、結局は俺の予想だけどよ」
星空みゆき「…………」
天願朝陽「黄瀬さんを助ける? でも、蘇我くんだって、別にとんでもなく悪いことしてるわけじゃない」
星空みゆき「……でも…、それじゃあ黄瀬さんが可哀想だよ…」
天願朝陽「だからよ。俺は、これが個人の問題かも知れない、って考えてる。そこに俺や星空さんが首を突っ込むのも、少し違うんじゃない? って話だからよ」
天願は人の笑顔を好む。
それは良くも悪くも変わらない。
だからこそ、蘇我を討つような真似をしてやよいを助けたとして、その後のやよいがどうなるかは分からない。
もしかしたら、癇に障った蘇我の指導が更にエスカレートするかもしれないのだ。
結局のところ、これは蘇我とやよいの問題。
当人同士で平和的に解決させる方が、最も自然なのではないか。
天願朝陽「俺はそう思ったから、星空さんには話せなかった。そんな方法を取ったって、絶対にみんなが笑顔になることはないはずだからよ」
星空みゆき「…………」
天願朝陽「黄瀬さんを助けたい気持ちは俺にも分かる。だからよ、丸投げでごめん。あとは星空さんの判断に任せる」
こうして、長い長い独り言を終えた天願は、挨拶もなしに教室を出ていく。
今度こそ、みゆきは本当に教室に一人きりで残されたのだった。
放課後の美術室にて。
やよいは蘇我から、コンクール提出用のポスターを新たに描くように指示されていた。
その指導は、以前よりも厳しさを増している。
蘇我竜也「いいかねッ、黄瀬さん! 芸術(アート)は爆裂だッ!! 黄瀬さんの抱く魂の全てをッ、そのキャンバスに描き殴るのだぁぁぁあああああッ!!!!」
蘇我の絵画センスは、抽象的なものだ。
絵の具をキャンバスいっぱいに描き殴り、本能の赴くままに作風を仕上げる。
やよいとは異なるが、それも一つの芸術センス。
そのセンスを高く評価されているため、蘇我は美術部の部長を満場一致で任されている天才なのだった。
黄瀬やよい「…………」
しかし、変身ヒーローものなどのマンガ的な作風を得意とするやよいにとって、それは苦痛でしかない。
蘇我には才能がある。
やよいにも才能がある。
しかし二人の持つ才能は、同じ絵画の才能であっても、中身はまったく異なっているのだ。
蘇我竜也「いいかね、黄瀬さんッ。今日中に描き上げてみたまえ!」
黄瀬やよい「…え?」
蘇我竜也「焦りこそ、きっと魂は正直な姿を見せるはずだ! 時こそが究極のスパイス!! さぁッ、思う存分に描き殴ってくれたまえぇ!」
黄瀬やよい「……は…、はい…」
いつからだろう。
同級生なのに、元クラスメイトなのに。
蘇我を相手に、やよいが敬語を使うようになったのは。
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