絵本の世界と魔法の宝玉! Second Season

□どん底ハッピー?
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 大食堂にて、七色ヶ丘中学の二年生全員が夕食のために集まる。

 そんな中、食堂前で顔を合わせた天願と桜野だったが、二人の間で交わされた最初の会話は天願の大爆笑だった。

天願朝陽「あぁっはははははははッ!!!!!!」

桜野準一「笑いすぎやッ、ボケェ!!」

 本日、二人目のジャージ姿。

 みゆきと同じく大凶を引き当てた桜野も、京都の随所で散々な目に遭っていた。

 頬や目元に傷や痣が出来ていることから、何らかの暴力沙汰にまで巻き込まれてきたらしい。

桜野準一「ホンマ災難やった……。もう嫌や……」

天願朝陽「修学旅行は始まったばかりだからよ。あと二日は乗り越えなくちゃなぁ〜」

桜野準一「腹立つわぁ……。他人事や思うて……」

 とりあえず食事の席に着いていく。

 その際に、桜野と同じように凹んでいるみゆきを見つけ、あかねたちから励まされている光景を目の当たりにした。

天願朝陽「そういえば、今日って星空さんたちも不運だったみたいだからよ。何も準一くんだけがアンラッキーじゃなかったみたいだねぇ〜」

桜野準一「……不幸なヤツが増えたところで、別に幸運が待ってるわけちゃうやろ。何も解決せぇへんわ」

 各々で食事を終え、各自の宿泊部屋に荷物を置いた後は浴場での入浴時間になる。

 みゆきたちも着替えをまとめ、今日一日の疲れを取りに浴場へと向かった。

 一方で、男子に取ってお約束の活動が開始される。

桜野準一「ん? あいつら何してんねん?」

天願朝陽「どうせ覗きだろ。お約束事は守るみたいだからよ」

桜野準一「しょうもな」

 ある程度の自由が許されているため、別々のクラスといえども交流に制限はない。

 もちろん、自由の範疇に覗きなど許されているはずもないのだが。

天願朝陽「準一くんはどうなのよ?」

桜野準一「何がやねん」

天願朝陽「だからよ。覗きの話題から女子の話にシフトするじゃん? 気になる子とかいるのかなぁ〜ってさ♪」

桜野準一「いるわけないやろ。日常でもまともに話しかけられたこともないんやで? そないな子、見つける時間もあらへんわ」

天願朝陽「悲しいな、それ……」

 天願にも共感できる部分があった。

 明るい性格で誰からも好意的に見られる天願だが、逆に言えば誰も彼もが平等に接してきてくれるのだ。

 男子も女子も、みんなが平等に見えてしまうばかりに特別な気持ちで接することのできる友達はいなかった。

 言うならば、普通の友達は多い。

 反面、親友と呼べる友達はいなかった。

天願朝陽「そういう点じゃ、準一くんが一番かな♪」

桜野準一「え?」

天願朝陽「親友を挙げるなら、多分真っ先に思い浮かぶだろうなぁ、って話だからよ」

桜野準一「………そっか…」

 誰かに指摘されたり、言われるまでもなく自覚した。

 今、桜野は笑っている。

 友達なんて自分から作ったことなど一度もなく、試みたところで成功したこともない。

 大凶の影響か不幸続きだった今日一日の中で、やっと幸福に思えることがあった。

桜野準一「せやったら、俺もやな。朝陽が親友に違いないで」

天願朝陽「っていうか、俺以外に友達っている?」

桜野準一「…………」

天願朝陽「何かごめん」

 いないこともないが、友達と勝手に呼んでいいのか微妙な子ならいる。

 天願も知る、後輩のしずくだった。

桜野準一「異性やったら、やっぱしずくやな」

天願朝陽「あぁ……そうかもな。けど……」

 二人の脳裏に浮かぶのは、しずくの年不相応な巨乳スタイル。

 当然ながら直接見たことはなくても、制服の内側から盛り上がる双丘のインパクトから察するに、同級生女子の中にも太刀打ちできる者はいないだろう。

天願朝陽「しずくを知ってたら、他の女子の体って霞むよなぁ……」

桜野準一「せやなぁ。覗きとか、別にどうでもええわ」

 男同士の下らない会話にシフトしそうだったため、二人は早々に体を洗って浴場を出て行く。

 さっさと着替えを済ませて脱衣所も後にしたところで、ふと気付いたことがあった。

天願朝陽「あ、忘れ物した」

桜野準一「アカン、俺もや」

 こんなところでも息ピッタリなのかと笑いながら、二人は来た道を引き返す。

 その間、会話に夢中だったのか……進行方向を間違えながら……。







 一方、女湯の方でもみゆきたちが上がろうとしていた。

日野あかね「お先〜♪」

黄瀬やよい「あ! 待ってよ、あかねちゃん。わたしも出る」

青木れいか「二人とも。走ったら危ないですよ?」

 浴場の中をかけていく二人の後ろに、れいかがみゆきを連れて続いていく。

青木れいか「みゆきさんも上がりますか?」

星空みゆき「うん、そうだね」

 お風呂に入って少し落ち着いたのか、みゆきの顔には少なからず笑顔が戻っていた。

 こうして四人揃って脱衣所に向かったところで、本日最大の大凶効果が奇襲する。





天願朝陽「あれ? さっきの脱衣所ってこんなだったっけ?」

桜野準一「気のせいとちゃうか? って、あれ? 俺らの荷物どこや……」





 ちょうど脱衣所に入ってきたばかりの男子二人。

 言うまでもないが、ここは女湯の脱衣所である。

星空みゆき「え?」

日野あかね「は?」

黄瀬やよい「ぇ?」

青木れいか「……」

 二人に気付き、呆然とする四人。

 その四人に気付き、思わず視線を巡らせる二人。

天願朝陽「へ?」

桜野準一「あ?」

 女湯の脱衣所に入り込み、着替えを漁ろうとしている二人の男子。

 その目の前には、タオルを持っているにもかかわらず、タイミング悪く体を一切隠していない三人の女子。

 あかねのみ、宝玉を取り込んだ証である背中の刺青を隠すためにタオルを巻いていたが、四人揃って裸を見られたも同然の状況。

星空みゆき「き」

天願朝陽「き?」





星空みゆき「ーーーきゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!!」

桜野準一「ーーーどわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!!」





 大凶コンビによる絶叫が、周囲一帯に反響した。

青木れいか「あ、あなたたち!! いったい何を考えているのですかッ!!?」

黄瀬やよい「最ッ低ッ!!」

桜野準一「いやいやいやいやッ!! わざとやないねんて! ホンマに間違えたんや!!」

天願朝陽「これってまさか準一くんの大凶パワーか!? こればかりは仕方ないみたいだからよ! とりあえず先生には内緒にッ」

日野あかね「っちゅーか、いつまで見てんねん!! 早よ出てかんかいッ!!」

天願&桜野「「すんませんしたーッ!!!!」」





 ちなみに、騒ぎを聞きつけてきた先生方に見つかった二人は、誤解を聞き入れてもらえずにお説教を食らうことになる。

星空みゆき「ぅぅ〜、見られたぁ……。どん底ハッピー……」

 結局、みゆきにとっては散々な一日のまま終わりを迎えそうな勢いだった。
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