絵本の世界と魔法の宝玉! Second Season

□イーヤーサーサー!
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 沖縄の伝統芸能、エイサー。

 太鼓を用いた団体で、マスゲームのように巧みに動き回る見栄えが特徴的な舞踏である。

 クラス全員で一斉に踊るため、上手くいけば高いクオリティで成功できるだろう。

 また、エイサーを構成するそれぞれの役柄も定められている。

 まずはエイサーの先頭に立って全体を鼓舞するように、大きな旗を持って動き回る“旗頭”という役回りだが……。

岡部かつとし「そんなの言いだしっぺの天願でいいんじゃね?」

岡田まゆ「でも旗頭って重要なポジじゃない? だったらクラス委員の青木さんが妥当でしょ」

 などの意見が出された結果、旗頭はれいかが担当することになった。

 他にも、太鼓を持って打ち鳴らしながら動き回っていく“太鼓打ち”は男子が担当。

 その太鼓に合わせて、扇を振るって舞い踊る“手踊り”は女子が担当することになった。

井上せいじ「なぁ? 次の“地謡”って何だ?」

天願朝陽「それは三線っていう弦楽器を弾いて歌う、楽器の演目だからよ。できれば、楽器ができる人に頼みたいけど〜……」

 それを聞いて、クラスの複数人が一部の男子に目を光らせた。

 幸運にも、このクラスには楽器に精通している男子が数名在籍している。

豊島ひでかず「……それ、弦楽器なんだろ? 仕方ねぇから引き受けてやるぜ」

天願朝陽「マジか! 助かったぁ〜ッ」

 豊島の他にも楽器を任せられるクラスメートはいる。

 地謡に問題はないだろう。

青木れいか「では最後ですね。この“京太郎”というのは、どういったものなのでしょうか?」

天願朝陽「あぁ、それはエイサーの中で一番重要な役割だからよ。みんなが演奏したり歌ったりする中で、道化役を演じてとにかく踊り回るんだ。あとは、全体が動く際の隊列をまとめたりとか、そういう整理役な意味もあるよ」

 そういう役回りならば、もう全員の意見は一致していた。

 この舞踏案を出した以上、この役回りは彼以外に考えられない。







 七色ヶ丘、某所。

 グツグツと煮え滾る鍋の中から手を伸ばし、全身を真っ赤に茹で上がらせたマホローグが姿を現す。

マホローグ「ーーーぶっはぁッ!! はぁ……ッ…はぁ……ッ…」

ルプスルン「何やってんだ、テメェ」

アクアーニ「責を感じて自ら罰を受けたのであるか?」

マホローグ「そんなわけねぇだろ。お前たちが死のうが生きようが知ったことか」

 熱湯から上がったマホローグが体を拭くと、その身の傷が消え、披露も抜けているように思えた。

 マホローグは、みゆきたちの修学旅行先である大阪で、激怒したマジョリーナに瀕死の重傷を負わされた。

 過程が非常に苦しいものの、効果も非常に強力なものとして習得している治癒魔法。

 それが、今まで浸かっていた熱湯の鍋風呂だった。

ルプスルン「そのまま茹だって死んじまっても良かったんだぜ?」

アクアーニ「同感である。私たちも君に殺されかけたようなものだ。鍋に蓋をされなかったことをありがたく思うが良い」

マホローグ「何度も言わせるな。お前たちが死のうが生きようが知ったことじゃないんだよ。それと、僕がお前たちに簡単に殺されてやると思うな。蓋をされたって脱出してみせたね」

ルプスルン「相変わらず、減らず口を叩きやがる……ッ」

 着替えたマホローグは、自分の杖を握り締める。

 その先端に輝く水晶玉は修復できたものの、自身の魔法強化に使える指輪は破壊されたまま。

 それだけは修復が叶わなかったのだ。

マホローグ「…チッ……胸糞悪い…」

アクアーニ「さて、今日も宝玉探しに向かうとするか……」

ルプスルン「あの小娘どもの監視だろ? 奴らが宝玉を見つけたところで横から奪い取るッ。それがオレたちのやり方だぜ!」

 回復したマホローグを連れて、ルプスルンたちが七色ヶ丘の町に繰り出す。

 三人で協力して出陣するようにニカスターから命令されていなければ、とっくに単独行動を起こしている。

 居心地の悪い空気だけは、今でも三人の周りに顕在していた。







 二組のエイサーを含め、体育祭に向けて各クラスが競技の練習をする期間が続いていた。

 体育祭のメインは、あくまで体育競技。

 最後の最後で開かれる締めの催し物など、おまけ程度に考えて妥当な競技だった。

 しかし、みゆきたち二年二組はそういうわけにもいかないらしい。

桜野準一「……ん? あれは…」

森山しずく「どうしたんですか、桜野先輩」

 しずくを連れて廊下を歩いていた桜野は、窓を開けてグッタリした様子の天願を見つける。

 いつも元気いっぱいな印象が強い分、その様子は少しだけ新鮮だった。

森山しずく「天願先輩? どうしたんですか?」

 両腕と頭を窓の外に出して涼んでいるようにも見える。

 とりあえず声をかけた後、しずくは天願の両肩に手を添えて揺さぶりをかけてみた。

天願朝陽「……何か…、柔らかいものが当たってくる……。背中とか脇腹に…」

森山しずく「おっぱいが大きいからです。気にしないでください」

桜野準一「いや、気にするやろ。アホか」

 しずくが天願の体を揺さぶる度に、二人の体の間で揺れるしずくの胸がたゆんたゆんと当たってくる。

 この分では天願が起き上がるまで揺さぶり続けると思い、仕方なく天願も顔を上げた。

桜野準一「珍しいなぁ、自分がグッタリしてるとこ初めてみたで?」

天願朝陽「そんなことないだろ……。僕だって疲れることもあるんだからよ」

森山しずく「何かあったんですか?」

 天願は、体育祭の競技練習も含めた舞踏演技のことも話してくれた。

 自分の提案したエイサーが受け入れられたものの、経験者がいるはずもない。

 どんなものなのかは各自で調べてきてくれたようで大体のことは把握してくれている。

 自分たちの役割を把握して、一つ一つを復習しながら練習してくれるまでは良かったが、初の試みという事実は変わらない。

 結果、悪戦苦闘の連続でなかなか形にならないのである。

天願朝陽「その間、僕も動きっぱなしで……。もう本番前に疲れちまったんだからよ〜……」

 グデーッ、と倒れ掛かるようにして天願はしずくに覆い被さる。

 よしよしと背中に手を回してくれるしずくだったが、天願の体の前ではふよふよと柔らかいものの自己主張が激しい。

 当人のしずくがまったく気にしていない分、気持ちいいのだが質が悪かった。

桜野準一「そんなんで本番、大丈夫かいや?」

天願朝陽「そこが心配だからよ……。そういや、準一くんのクラスは何やんの?」

桜野準一「LOVE&JOY」

 桜野が踊ってる姿を想像し、二人揃って吹き出した。

 ちなみに一年生は合唱がテーマらしいが、しずくはそれ以上の重役を任されている。

天願朝陽「女子リレーのアンカー?」

桜野準一「すごいやん」

森山しずく「うー……、あんまり乗り気じゃないんですよ」

天願朝陽「……まぁ…、色々と重たそうだしね…」

桜野準一「…せやなぁ……。肩凝らんように気ぃ付けや…」

 この程度の会話なら、普通に交わせるくらいには仲が良くなっていた。



 そんな三人が親交を深めるきっかけになった事件と同等の何かが……息を潜めて迫ってきている。

 その状況に、この時の三人が気付くことはなかった。
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