絵本の世界と魔法の宝玉! First Season
□素敵な出会い?
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七色ヶ丘市、とある住宅街の一角。
星空家の表札がかけられた玄関から、勢いよく飛び出していく少女が一人。
星空みゆき「うわぁぁぁあああああッ!!!! 遅刻ッ、遅刻ぅ〜ッ!!」
少女の名前は星空みゆき。
絵本が大好きな中学二年生で、この七色ヶ丘市に引っ越してきたばかり。
そして本日、七色ヶ丘中学に通い始める転校初日にもかかわらず、どうやら遅刻の危機を迎えているようだ。
星空みゆき「(でも……空はとっても綺麗だし、わたしもとっても元気だし……ウルトラハッピーなことが起こるかもッ♪)」
妙に前向きなポジティブ思考というか、急ぎ足を軽快な足取りに変えたみゆきは、そのまま通学をスキップで跳ねていく。
前方に見えるのは、日常なら何処にでも見受ける普通の曲がり角。
星空みゆき「おぉ! ドタバタ登校に曲がり角ッ、とっても素敵な出会いの予感ッ!」
意気揚々と曲がり角に向けて期待に胸を躍らせる。
言うまでもないが、そんな古典的な少女漫画的展開など待ち受けているはずもなく、ごく普通の桜並木が続くばかりだった。
星空みゆき「………絵本みたいにはいかないか…」
そりゃそうだよね、という納得と少しだけ湧いてくる残念な気持ちを抱いて落胆する。
どうせなら、食パンでもくわえていた方が素敵な出会いの確率は上がったのかもしれない。
何であれ、今はこんなことをしている場合ではないのだ。
星空みゆき「……って、いけないッ!! 遅刻ッ、遅刻〜ッ!!」
再び走り出そうと、七色ヶ丘中学の校門を目指して全力疾走を再開する。
ようやく軽快なスキップなどしている場合ではないと気付いたようだ。
と、その時だった。
別に意識してやったことではない。
本当に何気なく、時に意味もなく、走り出す直前に青空を見上げたことには理由などない。
ただ何となく上を向いてしまったみゆきの視界に、朝の空をスーッと流れていく光の筋を見つけたのだ。
星空みゆき「(…え? 流れ星…?)」
夜の空で見つけることも滅多にないのに、それが今みゆきの目の前で流れたのだ。
そんな不可思議な出来事を頭の中で描くこと、ほんの数秒程度。
みゆきは判断に遅れた。
その流れ星が徐々に大きくなっているように見えていたのは……。
みゆきに向かって、空から落ちてきているためだったことに。
星空みゆき「…わッ!」
気付いた頃には既に遅い。
流れ星と思われたものは、そのままみゆきの額にコツンッと当たって地面に落ちた。
コツンッ、などと軽い音に感じるだろうが、空から落ちてきた分の衝撃は相当なものだ。
星空みゆき「ーーーぁ痛ッ!!」
大きさはビー玉より少し小さく、パチンコ玉と同じくらいか少し大きい程度。
形は球体で、輪郭は半透明に輝いて見える。
玉の中心には薄桃色の輝きが常に放たれていて、まるで宝石のように美しいものだった。
星空みゆき「…あ痛たたた……」
その美しさを楽しむまでもなく、みゆきは額を抑えて屈み込み、少ししてから光り輝く玉へと手を伸ばす。
星空みゆき「……綺麗…。でも、何だろう…これ……」
手に取ってみると、見た目の大きさに対して意外と重く感じた。
これが空から降ってきて額に当たったのだから、そりゃ痛くて当然だろうと納得する。
星空みゆき「…………」
どれくらい眺めていただろうか。
ほんの数秒かもしれないし、一分は過ぎたのかもしれない。
その玉を眺めていると、まるで意識を吸い込まれていくかのようにボーッとしてしまうのだ。
星空みゆき「(………はッ…!!)」
こんなことしてる場合ではない、と意識が再覚醒し、みゆきは再び走り出した。
その仕草と同時に、拾った玉をスカートのポケットに落とし込みながら。
星空みゆき「(いけないッ、いけないッ。転校初日から遅刻なんて大変ッ!)」
もはやスキップで登校など愚の骨頂。
みゆきは今日一番の全力疾走で七色ヶ丘中学に向かったのだった。
この時、みゆきが光り輝く玉を見つけていなかったら……。
例え見つけていたとしても、それをポケットに入れて持っていこうとしなければ……。
この物語の展開は大きく変わっていたに違いない。
七色ヶ丘中学、職員室。
みゆきの転入してきたクラス、二年二組の担任を勤めている佐々木なみえ先生は、遅刻ギリギリのタイミングで職員室に飛び込んできたみゆきを見て苦笑いを浮かべる。
佐々木先生「…おはようございます、星空さん」
星空みゆき「……お、おはよう…ござい…ます…ゲホッ、ゴホッ!」
遅刻寸前を咎めるべきだろうが、この様子では遅刻しないように急いで走ってきたことは一目瞭然。
それに事実上、みゆきは遅刻したわけではないのだから怒ることでもないだろう。
佐々木先生「でも、時間には余裕を持って登校した方が良いですね?」
星空みゆき「は、はい……」
転校初日で遅刻は免れたものの、第一印象に善し悪しまでは分からなかった。
佐々木先生「それじゃあ星空さん、これから教室に向かうけど準備はいい?」
星空みゆき「あ、はいッ。大丈夫です」
佐々木先生「そんなに緊張しなくても大丈夫よ。転校生は星空さんだけじゃないから」
星空みゆき「え?」
そういうと、佐々木先生は職員室の奥で待機させていたもう一人の転校生を呼びつけた。
佐々木先生「天願くーん、お待たせ。星空さんと一緒に教室に行くわよー」
佐々木先生に呼ばれ、職員室の奥から顔を出してきた“天願”と呼ばれた少年は、佐々木先生とみゆきの顔を確認するとニコリと笑う。
星空みゆき「…………」
佐々木先生「先に紹介するわね、星空さん。あなたと同じ転校生の、天願朝陽くんよ」
天願朝陽「はじめまして、星空さん。僕も君と同じ転校生だからよ。宜しくしてね」
笑顔を絶やさず、みゆきと同じ歳にしては少し幼く見える顔立ちで挨拶する。
癖っ毛気味の髪を掻きながら握手を求める手を差し出してきたことから、どうやら積極性も持ち合わせているようだ。
星空みゆき「うん。よろしくね、天願くん!」
転校生同士の交流が終わったところで、佐々木先生に連れられて教室に向かう。
次は二年二組での紹介が待っているのだ。
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