絵本の世界と魔法の宝玉! First Season

□魔法の宝玉!
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 敷かれたレールを走り続ける。

 おむすびを落としたお爺さんは、ネズミさんたちから小判を貰った。

 旅に出た少女は、雪の女王に連れ去られた少年を救い出した。

 バナナが大好きな少女は、踏切に飛び出して遠い地に旅立った。

 猿と河童と豚の妖怪を連れたお坊さんは、インドを目指して西に向かった。

?????「………退屈だ…」

 物語の筋書きに変わりはない。

 お婆さんの家に向かう途中で狼と出会った少女は、その狼を無視することはありえない。

 魔法のランプを手に入れた少年が、それを擦らないはずがない。

 罠にかかった鶴を見捨ててしまうお爺さんなどいるはずがない。

 森に置き去りにされた双子が、お菓子の家を探し出せないはずがない。

?????「……変わり映えのない絵本の日常など…、わたしには地獄に等しい苦しみだ…」

 完成された物語を変えるということは、一つの物語を作り上げた者のみに宿る特権だ。

 それを分かっているからこそ、髭面の男は退屈な日常に嫌気を感じ、宛もないまま絵本の世界を歩き続けていた。

 彼を見かけた他の絵本の住人たちは、いつも通りに彼を避けていく。

 彼の登場する絵本の物語の中で、彼はそういう立ち位置だった。

?????「(…ふん)」

 自分を避けていく者たちを睨みつつ、内心で失笑していた彼は、ふと足を止める。

 どれくらい歩き続けていたのか、気が付けばとんでもない場所まで足を運んでいたようだ。



 宝玉堂。



 そこは“絵本の世界”そのものを構成している魔法の宝玉を納めている聖堂だった。

?????「…………」

 その宝玉に手を伸ばしてはいけない。

 絵本の世界の住人ならば、誰もが知っている常識だった。

 手を伸ばし、その宝玉を得てしまえば……どんな目に遭うことか知らぬ者はいない。

?????「…………」

 しかし、彼は己の身に何が起きてしまうのかを知っていながら、その宝玉へと躊躇いなく手を伸ばしていく。

 ただ、退屈だったから。

 今までにない、日常以外の日常が。

 非日常が欲しかった。





 全ては、そこから始まった。

 たった一人の男の心によって動き出した因果は、やがて絵本の世界を……否。

 人間界をも巻き込んで、事態は大きく広がっていく。

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