絵本の世界と魔法の宝玉! First Season

□迫り来る恐怖!
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 七色ヶ丘中学の屋上にて。

 ヒキガエルのフランドールとコウモリのバットパットを両肩に乗せたウルフルンが、ここに来て妙な事態と遭遇していた。

ウルフルン「……? あん…?」

フランドール「気のせいじゃないわよ、ウルフルン」

ウルフルン「…そうかよ。だがそれを聞いて、オレは安心すりゃいいのか? それとも首を捻りゃいいのか?」

バットパット「宝玉の気配が、パタリと途絶えましたねぇ……」

 三人(三匹?)の探し物は、独特の気配を発している。

 もちろん人間に察知することなど出来ないものだが、その気配を頼りにすることでウルフルンは宝玉を探し出そうとしていた。

 物が小さいため、この広い世界を探し渡るには微弱な気配が唯一の道標だったのだ。

ウルフルン「今朝に感じ取った宝玉の気配が、この学校周辺から漂ってんのは間違いねぇんだ。必ず何処かにある」

フランドール「でも、不思議ね。まるで突然消えちゃったみたいに、気配を感じなくなっちゃった」

バットパット「宝玉そのものに瞬間移動の能力でも備わってるんでしょうかねぇ〜」

ウルフルン「冗談じゃねぇッ。そんなモンを探し続けるなんざ、時間がいくらあっても足りねぇっつーの!」

 ウルフルンは再び町へと飛び出していく。

 この学校の図書室に隔離されてしまったみゆきが、自分たちの探し物を持っていることに今も気付かないまま。

ウルフルン「とにかく急ぐぞ……。宝玉が現出した事態は“ヤツら”も気付いてるはずだ…。何が何でも“ヤツら”より先に見つけ出さねぇと、宝玉を拾っちまった人間の命が危ねぇ…ッ」







 そして、外の世界とは空間を遮断されてしまった七色ヶ丘中学の図書室にて。

 みゆきは、猫を思わせる奇抜な少年と対峙していた。

 文字通りの“ニヤニヤ”笑いを浮かべる少年は、真っ黒な眼球に浮かぶ金色の瞳孔を光らせてみゆきを見つめていた。

 いや……この視線は獲物を見つけた捕食者のような独特な睨みがあるように思える。

星空みゆき「(…何……? 何なの…? この子、何かおかしい……ッ)」

 直感でその結論を出したみゆきだったが、この図書室に逃げ道はない。

 出入口は何故か施錠され、窓はロックを外しても開くことがない。

 この不可思議な自体を引き起こしているのも、こんな状況でも慌てていない眼前の少年の仕業だと予想できる。

ネコさん?「お嬢さん、お嬢さん。オレの探し物を知ってるかい?」

星空みゆき「……え?」

ネコさん?「キラキラ輝く、不思議な宝石。見るも美しい魅惑の宝玉。オレはね? それを探してるんだ♪」

 道化のようにクルクルと踊りながら、図書室に並ぶテーブルの上に飛び乗る猫の少年。

 しかし、その最中でもみゆきから視線を外すことはない。

 体はクルクルと回っているのに、その頭だけはみゆきに向けたまま動いていないのだ。

 まるで胴体と首が繋がっていないかのように、もしくは骨や肉がゴムのように伸び縮みするように。

 頭だけを動かさずに、猫の少年は踊り続けていた。

ネコさん?「知っているなら教えておくれ。見かけたのなら答えておくれ。持っているなら……」



ネコさん?「それを寄越せ」



 最後の一言は、耳元で聞こえた。

 振り返ってみれば、少年の顔がキスが届きそうなほど至近距離まで近付いている。

星空みゆき「ーーーひッ」

 振り返る直前まで目の前のテーブルの上にいたのに、その時は既に耳元から声が聞こえていた。

 至近距離で見てしまった少年の真っ黒な瞳と、吸い込まれてしまいそうな黄色い瞳孔が恐ろしく輝いているように見えた。

ネコさん?「ニーヤニヤニヤ! 驚いた驚いた♪ でもでも腰は抜かすなよ? まだまだ訊きたいことは山ほどあるんだッ」

星空みゆき「…い、いや……ッ。いやぁあああッ!!」

 既にみゆきはパニックだった。

 これが例えば演劇部の誰かが衣装を来て驚かせているだけなら、まだ驚くだけで済んだだろう。

 だが今の環境を振り返れば、それが都合のいい夢物語だと気付かされる。

 テーブルの上で見た、普通の人間には出来ない芸当。

 至近距離から感じた、人ならざる恐怖感。

 間違いない。

 この化け猫の少年は、人間ではない。

星空みゆき「た、助けて……ッ。誰かぁ!」

 慌てて駆け出すみゆきだったが、出口などこの場に存在しない。

 図書室に並ぶ本棚の間へと駆け込んでいき、何とか少年の視界から外れるより他にない。

ネコさん?「ニーヤニヤニヤ♪ どうした、どうしたの、お嬢さん。オレを相手に追い駆けっこかい?」

 スカートのように腰から下がった何十本もの鎖をジャラジャラと揺らしながら、化け猫の少年は口角を吊り上げて笑っていた。

ネコさん?「それは相手が悪かったね? オレの体は神出鬼没♪ 何処から飛び出すか、分からないよ……?」







 図書室に並ぶ本棚の一つ。

 その隅に身を寄せて震えるみゆきは、化け猫の少年の気配を探りながら状況を再認識する。

 少年から離れたことで、彼の目的の本筋が見えてきた。

星空みゆき「(もしかして……これを、探してるのかな……?)」

 ポケットから取り出したのは、今朝の登校時に見つけた薄桃色に光り輝く玉。

 大きさはビー玉よりも小さく、パチンコ玉と同じか少し大きく思えるものだ。

 見た目以上に重いためポケットの中でも存在感が強かったのだが、あの少年から感じられた恐怖心の方が強かったため今の今で玉の存在を忘れてしまっていた。

星空みゆき「(これを渡せば、わたしは助かるの…? でも、あの子って普通の人じゃない……。本当に…渡しちゃっても大丈夫なの…?)」

 選択を強いられる。

 迷っている場合ではない。

 今も図書室に響く少年の足音と、文字通りの“ニヤニヤ”笑いが近付いてくる。

星空みゆき「(…どうしたらいいのッ…?)」

 自分が取るべき選択に迷っていた、その時だった。

 ちょうどみゆきが隠れていた本棚の向かい側。

 みゆきの目の前の本棚の一角が、不思議な色を発して光っていることに気付く。

星空みゆき「……なに…?」

 光の元手を探ろうと、光っている本棚の中の本を一冊取り出してみる。

星空みゆき「(何だろう、この光……。本棚の奥から…?)」

 本を取り出し、本棚の中に隙間ができる。

 光が溢れてくる隙間を正体を探ろうと、空いたスペースに手を伸ばして右側へと掻き分けた。



 カチッ。



星空みゆき「あれ?」

 何か、音が聞こえた気がした。

 すると今度は別の場所も光り始め、不意に同じような動作を繰り返す。

 今度は、左側に掻き分ける。



 カチッ。



星空みゆき「…またッ」

 同じような音が聞こえた。

 そして、また再び別の場所が光り始める。

星空みゆき「………よーし…ッ…」

 今度は右でも左でもなく、光っている箇所を左右に開いてみようと試みる。

 みゆきが本棚の中に手を差し入れた、その時だった。

ネコさん?「ニーヤニヤニヤ♪ 見〜つけた!」

星空みゆき「ーーーッ!!?」

 本棚の上に飛び乗ってきた化け猫の少年が、みゆきを笑いながら見下ろしてくる。

 しかし、そんな彼の笑顔溢れる表情も、みゆきの目の前で光り輝く本棚に気付くと。

ネコさん?「ーーーなッ!?」

 今まで見たことのない焦りの色を見せたのだった。

星空みゆき「わぁッ!! 見つかっちゃったッ!!」

 慌てたみゆきが自然と腕に力を込めたためか、手を入れていた本棚の本が両サイドに開かれた。

ネコさん?「待てッ、やめろッ!」



 カチンッ。



 制止も虚しく、道は開かれる。
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