絵本の世界と魔法の宝玉! First Season
□宝玉の覚醒!
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人型に変身していたバットパットが、お姫様抱っこで抱えていたみゆきを地面に下ろす。
その瞬間、ボゥンッ!! と大きな音を立てて煙が上がり、バットパットは元のコウモリの姿に戻ってしまった。
星空みゆき「わッ!!? ビックリしたッ」
バットパット「申し訳ありません、フロイライン。わたくしは、昼時の活動が苦手でして」
星空みゆき「…こ、コウモリさんだったの……? っていうか、あなたたちは一体…」
フランドール「自己紹介は後回しよ。今は目の前の問題を乗り越えることだけを考えなさい」
みゆきの両肩に飛び乗ったヒキガエルのフランドールとコウモリのバットパットは、今も睨み合う二人(二匹?)の狼を示した。
星空みゆき「ね、ねぇ…、これってどういう状況なの? わたしはどうしたら…」
ウルフルン「おい、女」
星空みゆき「ひゃいッ!!」
茶色い方の狼からは視線を外さず、みゆきに背中を向けたままウルフルンが話しかけてきた。
突然のことに驚いて変な声を上げてしまったが、ウルフルンは気にせず話を続ける。
ウルフルン「気配で分かるが、宝玉を持ってんだろ? 何が理由で持ち続けてんのか知らねぇが、そいつをオレたちに渡せ」
星空みゆき「え?」
狼さん「ざけんじゃねぇッ!! それを見つけたのはオレが先だ! テメェらに横取りされてたまるかよッ!!」
言うが早いが、もう一人の狼は鋭い爪を構えて勢いよく跳躍する。
ウルフルンを軽々と飛び越えて、その爪が狙うのはみゆきの体。
星空みゆき「ひッ」
狼さん「ぶっ殺してでも奪ってやるさッ!! 宝玉を寄越しやがれぇ!!」
フランドール「走りなさいッ!!」
耳元でフランドールに指示され、ほぼ反射的に走り去るみゆき。
狼たちに背を向けて全力疾走する瞬間、飛びかかってきた狼の一撃を寸前で回り込んでくれたウルフルンが防いでくれている光景が目に映った気がした。
狼さん「テ、メェ……ッ!!」
ウルフルン「ウルッフフフ! 獲物ってのは奪い合うモンだろぉが。狼の本筋を忘れてんじゃねぇよッ」
学生鞄を抱え、両肩から振り落とされないようにしっかりと捕まっているフランドールとバットパットを振り回しながら、みゆきは息も絶え絶えに走り続けた。
フランドール「落ち着いて聞いて。わたしたちはあなたの味方よ。宝玉さえ返してくれれば、あとは何もしないと約束するわ」
星空みゆき「さっきから、宝玉宝玉宝玉って、一体何の話ぃッ!!?」
バットパット「光り輝く小さな玉に覚えはありませんか、フロイラインッ。あなたは今日、この町の何処かでそれを拾い、わたくしたちの勘が正確ならば今も所持しているはずです」
星空みゆき「……ッ!」
みゆきにも心当たりはある。
だが、今の今で確証がなかった。
しかし、この二人の言い分が正しいのならば、これでやっと頷くことができる。
星空みゆき「(やっぱり…わたしが今朝拾ったあの玉が、みんなが言ってる宝玉なんだ…ッ)」
フランドール「もう一度言うわ。わたしたちは味方よ。バットパットもウルフルンも、あなたに危害を加えるつもりはないの」
バットパット「しかし、先ほどの狼は話が違います。単刀直入に申し上げますと、宝玉を所持しているあなたを殺してでも奪おうとするはずです」
星空みゆき「ーーーッ」
殺そうとしてでも。
その言葉を聞いた瞬間、先ほどの恐怖が思い出されていった。
ウルフルンたち三人は、みゆきに危害を加えるつもりはなく、宝玉を返してもらえばそれでいい。
しかしあの狼は、宝玉を奪うためならばみゆきを殺す手段も躊躇わないというのだ。
星空みゆき「か、返すよ! わたし持ってるもんッ。返したらわたしは助かるんだよねぇ!?」
フランドール「ええ、もちろんよ」
バットパット「宝玉は今どこに?」
星空みゆき「ぽ、ポケットの中、って、わッ!! きゃぁッ!!」
スカートのポケットの中に手を入れながら、前方に意識も向けずに走っていたことが災いした。
何かに足を取られたみゆきは、宝玉を掴み取ったものの思いっきり体を転倒させる。
フランドール「きゃあッ!!」
バットパット「うおっととッ!!」
その拍子に両肩の二匹も投げ出されてしまい、三人仲良く地面に転がっていく。
星空みゆき「ぁぅぅ……何か今日のわたし、痛い思いしてばっかり………、あれ…?」
すぐに起き上がったみゆきは、自分の手を見て首を傾げる。
スカートのポケットから取り出し、転ぶ寸前まで手に握っていたはずの宝玉がない。
キョロキョロと辺りを見渡しても近くに何かが転がっている様子はなく、あえて言うならフランドールたちが起き上がっているところだった。
星空みゆき「ほ、宝玉は…? 何処にいっちゃったの…?」
そんな時、ちょうど今朝と同じ状況が繰り出される。
その行為に意味などない。
周囲を見渡して何もなかったため、何気なく上を見上げただけだ。
反射的に空を見上げたみゆきの視界に、探していた宝玉の光が視界いっぱいに映り込んだ。
星空みゆき「あ」
どうやら、みゆきが転んだ際に空中に投げ出されていたらしき宝玉は、みゆきが空を見上げた時には目前に迫っていた。
つい口を開けて呆然と見送ってしまったみゆきは……。
グビッ、ゴクンッ!
口の中に放り込まれた何かを、つい丸呑みにして胃袋に収める。
何が起きたのか理解するまで、みゆきは空を見上げた体勢のまま硬直状態を続けてしまった。
星空みゆき「………え…?」
何が起きたのか理解するまで、残り五秒。
七色ヶ丘商店街の外れで攻防を繰り広げていた狼たちは、みゆきが走り去った方角から感じ取っていた気配の変化に気付く。
ウルフルン「………ッ」
狼さん「…あぁッ!?」
戦いの手を止め、みゆきたちがいなくなった方向を同時に見据えた。
ウルフルン「……宝玉の気配が、消えた?」
狼さん「………ッ…」
この現象は本日二度目だ。
みゆきが七色ヶ丘中学に持ち込み、放課後を迎えた時も同じことが起きている。
だがそれは、あの化け猫の少年が図書室を外の空間と隔離したことが原因であることを二人は知らない。
二度目の今回も、また一時的に宝玉の気配が消えているだけだと思ったのだ。
狼さん「チッ! せっかく見つけ出したってのに……ッ。だが諦めねぇぞ!」
ウルフルンを無視し、宝玉の再探索に向かう狼。
一度消えた宝玉の気配がもう一度復活することは、みゆきが七色ヶ丘商店街に現れたことで証明されている。
きっとまた現れる。
そう信じて飛び立った狼を追うようにして、ウルフルンも宝玉を探すついでにみゆきたちの姿を探しに行った。
ウルフルン「フランドールたちが宝玉を取り返すことに成功して、そのまま“絵本の世界”に持ち帰ったことで気配が消えた。そのシナリオが一番嬉しいんだけどな……」
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