絵本の世界と魔法の宝玉! First Season

□明かされる大事件
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 四方八方に水辺線が広がる、見渡す限りの大海原。

 ウルフルンに抱えられたみゆきがやってきたのは、何処の海域にも存在しない異世界の海上。

 その海に浮かぶ一つの大きな島国に向けて、空を飛んでいたウルフルンはゆっくりと降下を始めていく。

ウルフルン「着いたぜ。ここがオレたちの故郷、絵本の世界だ」

星空みゆき「うわぁ〜ッ!!」

 文字通り、両方の瞳をキラキラと輝かせるみゆきは、ウルフルンの腕の中でウズウズと体を震わせていた。

 きっと地に足が着いていたなら、両手足を奮って大はしゃぎだったことだろう。

星空みゆき「ねぇねぇ! ここに住んでる人たちって、みんな絵本の登場人物なんだよね!?」

フランドール「えぇ、そうよ。わたしたちにだって、それぞれ自分が登場してるの絵本作品が存在してるもの」

バットパット「ですが、ここに来た大きな理由は観光ではありません。申し上げにくいのですが、まずはわたくしたちの用事に付き合っていただきますよ、フロイライン」

 そんな話を続けていた中で、ようやくウルフルンが絵本の世界の島国に降り立った。

 地に降ろされたみゆきは、まだキラキラとした瞳をあちこちに向けながらこの世界を堪能している。

ウルフルン「そのうち羽でも生やして飛んでくんじゃねぇか?」

フランドール「いいえ、既に光の宝玉を取り込んでるなら、光の速さで走り回るんじゃない?」

ウルフルン「洒落になんねぇからやめろ」

 話も早々にみゆきの手を掴んだウルフルンは、右へ左へと首を振って周囲を飽きることなく見渡しているみゆきを引きずっていく。

 辿り着いたのは、島国の中心に位置する場所に建てられた大きなお城だった。

星空みゆき「うわぁ!! おっきいぃ〜! ここって、王子様とかお姫様が暮らしてるお城でしょ!?」

ウルフルン「ウルッフフフ、残念ながらハズレだぜ」

星空みゆき「え?」

バットパット「この城に住まうのは、この世界を統括している支配者。この国の王様が暮らしているのですよ」

星空みゆき「おぉッ、それも凄い! 本物の王様かぁ〜♪」

 王子様やお姫様ではなかったが、絵本の世界の王様に会える。

 そう思うと胸が高鳴るみゆきだったが、フランドールの一言で思考が少しだけ停止した。

フランドール「王様って言っても、魔王様なんだけどね」

星空みゆき「……ぇ…?」

 そして思い出した。

 絵本の世界には、必ずと言っていいほど悪役が登場することに。

 更に思い出した。

 ここに来る前に、あの化け猫の少年やルプスルンというオオカミに襲われてきたことを。

星空みゆき「ま、魔王…様……?」

 その上で、自分が今“絵本の世界の魔王の城”に入り込んでいる事態を再認識すると、どう考えても良い転換になるとは思えない。

星空みゆき「ま、待ってよ! 待って待って!! 魔王の城に連れてきて、わたしをどうするつもりなのッ!?」

ウルフルン「あぁん? 城に入ったなら、まずは主に会いにいくのが正解だろ」

星空みゆき「その主っていうのが魔王様なんでしょ!? わたし、もう怖い思いするの嫌だよぉ!!」

バットパット「……どうやら、何か勘違いしているようですね」

フランドール「まぁ、絵本の世界の魔王様、って聞いただけじゃ無理もないわ」

ウルフルン「チッ、めんどくせぇなぁ。別に取って食いやしねぇよ。いいから黙ってついてこい」

 みゆきの手をギュッと握り締めて逃げないように離さない。

 その強引な仕草に成す術もないみゆきは、大人しくウルフルンについていくことしか出来なかった。

星空みゆき「(ぁぅ〜……。オオカミさんとはいえ、男の人に手を握られるの……何だか慣れないなぁ……)」

 こうして到着した、この城の最奥。

 魔王との面会が許される、謁見の間。





 の、前の廊下にて。





????「待っていたぞ」

ウルフルン「あ?」

 謁見の間の前の廊下に、一人の男性が立っていた。

 見た目の歳は、二十代後半くらいだろうか。

 紫色の髪を持ち、頭の上から黄色に染めたアホ毛が二本、触覚のように後ろに伸びている。

 赤い瞳孔が光る顔には、緑色の稲妻のような刺青が左頬に刻まれていた。

 そして何よりも、二メートルを超える長身が男性の威圧感を垂れ流しにしている。

星空みゆき「(に、人間…? でもここは絵本の国だから、何処かの作品の登場人物、ってことだよね……?)」

 何となくウルフルンの背後に隠れたみゆきは、チラリと目の前に立つ男性の様子を覗き見する形で出方を伺う。

 すると……。

ウルフルン「何だ、パズーズ。今日は人間の姿でお出ましか? いつもみてぇに餡ころ餅みてぇな姿の方が好印象だぜ?」

魔王「本名で呼ぶな、余所余所しく“魔王”と呼べと言ってるだろ」

フランドール「餡ころ餅の姿には突っ込まないのね」

魔王「自覚はしてるからな」

星空みゆき「………………」

バットパット「あぁ、ご紹介が遅れましたね」





バットパット「フロイライン。このお方が、絵本の世界を統括している支配者。魔王パズーズ様です」

星空みゆき「ーーーえええええッ!!!??」





 だから名前で呼ぶな、という魔王の言葉はみゆきの叫びに掻き消された。

星空みゆき「魔王、って! えぇ!? 背が高いだけの普通の人にしか見えないけど!? あと、何かちょっと怖い!」

魔王「立場上、魔王にとっては褒め言葉に他ならないぞ。それに、人間と話すならばこの方が都合がいいと思ったんだが……」

フランドール「思いっきり失敗してるわね。怖がらせてどうするのよ」

魔王「むぅ……仕方がない」

 ボゥンッ!! と煙を上げて姿を隠した魔王は、煙が晴れた時には姿形を変えていた。

 今度は、餡ころ餅のような黒くて丸い身体に、悪魔の角と羽が生えたような姿である。

星空みゆき「…あ、何か可愛くなった」

魔王「こっちが本当の姿だ」

ウルフルン「な? そっちの方が愛嬌あるだろ?」

バットパット「立場上、魔王としては屈辱でしょうけどね」

魔王「むぅ……」
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