絵本の世界と魔法の宝玉! First Season

□探索再開!
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 みゆきが絵本の世界から帰ってきた頃、人間界は既に夜の時間帯を迎えようとしていた。

 出発した時が夕方だったため、それも仕方ないだろう。

 両親には“引っ越してきたばかりの七色ヶ丘の町を見て回っていたせいで帰りが遅れた”と説明したところ、すんなりと納得してくれた。

星空みゆき「(でも、これから帰りが遅くなったりした時は、もうこの手は通用しないよねぇ……)」

 湯船に浸かり、今日一日の出来事を思い出しながら溜息を吐く。

 そのまま口元までお湯に浸かり、ブクブクと息を吐き出しながら魔王たちから言われたことを思い出す。



魔王『途中棄権も出来る。宝玉探しは強制ではない。やめたくなったら、いつでも宝玉を返しに来い』

ウルフルン『オレたちの目的は宝玉の回収だ。宝玉の破壊を企む連中は許せねぇが、わざわざ戦う必要もねぇ。そもそも、宝玉の力を取り込んでいようと所詮オマエは人間だ。危なくなったら尻尾巻いて逃げろ』



星空みゆき「(危険なことをさせないように、心配してくれてるんだよね……)」

 湯船に沈めていた両手を上げて、手の平に意識を集中する。

 すると、ホワァンッ、と薄桃色の輝きが放たれ、みゆきがイメージした通りの光の球体が現れた。

 それをお手玉のようにポンポンと弄びながら、みゆきは自分の中に宿る光の超能力を意識する。

 まるで絵本に登場する魔法使いのような能力が、光という形で自分の身に眠っているのだ。

星空みゆき「(まだ実感が湧かないけど……何だかウルトラハッピーなことが起きそうな予感…ッ。面白そう…!)」

 ウルフルンが聞いたら頭を抱えて思い悩みそうな感想を抱きつつ、シャワーを浴びるために湯船から上がった。

 と、そこで気付いた。

星空みゆき「……? あ、れ………何だろう、これ…」

 脱衣所で服を脱いだ時は気付かなかったが、お尻の下の辺りだろうか。

 正確には、左太股の裏にハートマークに似た痣か刺青のようなものが浮かび上がっている。

 言うまでもないが、みゆきは刺青など入れた覚えはないし、痣にしては綺麗すぎる印象があった。

 そこに手を触れてみれば、それが汚れや落書きではなく皮膚と同化していることも分かる。

星空みゆき「…何だろう……。もしかして、これも宝玉と関係あるのかな…?」

 こんな現象などそれ以外にありえないだろうが、経験のないことだったため不安になる。

 体を洗ったり髪を洗ったり洗顔したりと、風呂場で手を進めている最中でも、その左太股に浮かぶハートマークが気になって仕方がなかった。

星空みゆき「………あ…! そうだッ」

 不意の思い付きを実行すべく、みゆきは髪を乾かすのも早々に体の水気を拭き取ると、パジャマに着替えながら部屋の中へと駆け込んでいった。

 そして、部屋の中に置かれた絵本いっぱいの本棚を前に、魔王から教えてもらった手順で本を動かしていく。

星空みゆき「右に一回……左に一回……」

 カチッ、カチッ。

星空みゆき「真ん中を開いて、っと……」

 カチンッ。

 直後、眩い光が本棚から溢れ出し、みゆきの体を引き込んでいく。

 今、再び“ふしぎ図書館”に向けて、みゆきは自ら足を進めた。







 ふしぎ図書館は、絵本の世界から宝玉回収の任務を全うするために選抜された、九人の住人たちが仮の住まいとして利用している場所である。

 しかし、ほとんどの者は回収を第一に考えているため、その場に九人全員が集うことは滅多にない。

 いつ、誰が帰ってきても数多の対応に応じることができるように、ふしぎ図書館の“館長”として常に居座っている老婆がいた。

 それが、魔王たちの話にも登場した“ホレバーヤ”という人物だった。

ホレバーヤ「……ん?」

 ふしぎ図書館の一角で、いつものように館内全体を管理していた彼女は、星空みゆきが足を踏み込んできた現状に気付く。

ホレバーヤ「おやおや、また来てくれたみたいだね…。どれ、お茶でも持て成そうかしら…」

 既に魔王からの報告で、みゆきが自分たちの協力者になったことを知っていた彼女は、珍しき人間の客人を持て成す準備を始めていく。







 ふしぎ図書館に到着したみゆきは、改めて館内の広さを思い知り、呆然とする。

星空みゆき「……え、えーっと………ど、何処に行けばいいんだろう…」

 太股の痣のことを聞くために来てみたものの、ふしぎ図書館の何処にウルフルンたちがいるのか分からない。

 そもそも彼らは宝玉の回収に出向いていて、もしかしたら今も留守の可能性だってあるのだが、みゆきは気付いていないらしい。

星空みゆき「……あ…、あそこかな…?」

 しばらく草花の道を進んでいくと、本棚の壁に浮かぶいくつもの扉を見つけた。

 どうやら、その扉一つ一つが部屋になっているらしく、住人のみんながここで寝泊まりしている様子が思い浮かんだ。

星空みゆき「じゃあ、ここにウルフルンたちもいるのかも! お邪魔しま〜す♪」

 目的の目星を見つけたみゆきは、意気揚々と舞い上がってしまったせいで、最低限のマナーを省略してしまった。

 ノックもせずに一つの扉へと手をかけて、そのまま部屋の中へと入っていく。



 そこにいたのは、大きくて真っ黒なリボンを頭に結び、純白のロリータドレスに身を包んだ小学生くらいの女の子。

 どうやら一人で静かに紅茶を飲んでいたらしいが、突然現れたみゆきと目を合わせて硬直した。



ロリ少女「…………ッ…」

星空みゆき「…あ」

 驚いた様子で目を丸くする少女を前に、みゆきは“まるでお人形さんみたい”という印象を抱く。

星空みゆき「………かわいい…」

 思わず口から漏れた正直な感想を聞いた、目の前の少女は……。





ロリ少女「何でテメェがここにいやがる。こんな時間に何の用だ? あぁ?」





 その姿からは想像できないほどドスの利いた口調で、ギロリとみゆきを睨みつけた。

星空みゆき「え」

 お人形さんみたいで可愛い、などという印象が一瞬で吹き飛び、何だこの子メッチャ怖い、という印象に塗り潰される。

 思わず後退りして部屋から出てしまったみゆきだったが、扉が開けっ放しのため視界には少女の姿が残されている。

 みゆきの目の前で、不機嫌そうな少女はみゆきの目を睨みつけたまま視線を外そうとしない。

星空みゆき「ぁ……ぁ、ぅ…」

 幼い女の子を相手に恐怖して涙目になるみゆきの耳に、ようやく聞き慣れた声が聞こえてきた。

ウルフルン「あぁん? そこにいんのは……もしかして、みゆきか?」

星空みゆき「ーーーッ!!?」

 バッ!! と、声の聞こえた方に振り返ると、そこには人間バージョンのバットパットを連れたウルフルンが歩み寄ってきていた。

ウルフルン「あぁ、やっぱりそうだ。こんな時間に何の用d」

星空みゆき「ーーーうわぁぁぁあああああんッ!!!! ウルフルーーーンッ!!!!」

ウルフルン「ーーーうべごぼっはぁッ!!!!」

 直後、ついに泣き出したみゆきがウルフルンの腹に頭から飛び込んで抱きついた。

 予想外の行動を取られたウルフルンに成す術もなく、そのまま体を“くの字”に曲げて思いっきり転倒したのだった。

星空みゆき「女の子に睨まれたのッ、すっごく怖かったよぉ!! うわぁぁぁんッ!! こんなにショックだと思わなかったぁ〜ッ!!」

ウルフルン「…………」

バットパット「フロイライン。息が苦し気なウルフルンに代わりますが、きっと彼も同じ心境ですよ」

 声をかけただけで泣きながらの捨て身タックルを受けるなど、きっと誰も予想しなかった。
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