絵本の世界と魔法の宝玉! First Season
□交差する感情
1ページ/4ページ
みゆきが宝玉探しに加わり、これで絵本の世界に安息の日が訪れるのも近い未来になるかと思われた。
しかし、それを快く思っていない者もいる。
特に、魔王の側近的な立場であり、絵本の世界の統括を魔王と共に助け合ってきた少女がそうだった。
魔王「待て、ニコ。少しはオレの話を聞き入れろ」
ニコ「嫌よッ。わたしを抜きにして、勝手なことばかり始めて!」
翼のような形をした白銀色の髪に、黒色を基調としたゴシックロリータのドレスと紫色のタイツを履いている少女。
魔王とニコと呼ばれた彼女は、大きな絵本を腕に抱えながら不機嫌全快で廊下を歩いている。
その後ろには、人間の姿に変身して追いかけてくる魔王の姿があった。
ニコ「どうしてみゆきが来たことを教えてくれなかったのよッ」
魔王「もしも教えていたら、オマエは協力させることを反対しただろ」
ニコ「当然よ! みゆきの助けなんかいらないッ。寄りにも寄って、何でみゆきが……ッ」
魔王「何の苦しみも負わず、宝玉を取り込んで力を得たことはオレたちにとっても大きい。それに、オレたちもよく知っているあの子のことだ。きっと全力で協力してくれるはずだ」
ニコ「みゆきが断らない可能性が高いって知ってて協力を頼んだんでしょ? でもね、わたしがみゆきと一緒にいたくないって気持ちを知ってて、それを無視したのも事実じゃない!」
魔王「………ニコ…」
ニコは、みゆきを嫌っている。
魔王もニコも、ずっと昔からみゆきを知っていた。
その経緯には簡単に語った程度で明かしきれない過去があるのだが、それこそが今のニコの感情を形作っているといっても過言ではない。
そしてその過去には、少なからずみゆき本人も関わっているのだ。
ニコ「わたしは認めない。みゆきの力なんて、絶対に借りないんだからッ」
魔王「待て、ニコッ。何処に行くつもりだ」
ニコ「決まってるでしょ!」
そう言って辿り着いたのは、魔王の城の内部にある大きな図書室。
もちろん、この場所でもふしぎ図書館への扉を開けることは可能なのだ。
ニコ「わたしも行く! みゆきより先に宝玉を掻き集めて、さっさと絵本の世界を救ってやるわッ」
そして、放課後を迎えた七色ヶ丘中学にて。
帰り支度を整えたみゆきは、窓の向こうで身を隠して待機させていたフランドールとバットパットに合図を送る。
といっても、それは窓をノックすることで“今から教室を出るよー”と伝える程度に過ぎない。
星空みゆき「さて、と……あれ?」
ふと気が付けば、目の前の席に座っていたあかねの姿が既に見当たらない。
別に用事があるわけではなかったが、何となく気になって教室を見渡してみる。
天願朝陽「ん〜? 星空さん、どうしたの〜?」
星空みゆき「あ、えっと……日野さんはもう帰ったのかなぁ、って思って」
天願朝陽「あぁ、違う違う。何かダッシュで部活に行ったっぽいよ? ほら、今が大事な時期だから張り切ってるんじゃない?」
二年になったからには、三年が引退することになる。
もしかしたら、あかねはバレー部に学園生活の熱意をそのままぶつけているのかもしれなかった。
星空みゆき「……よし…、ちょっと覗いてみようっと…!」
鞄を持って早々に教室を出ると、昇降口を出てからバレーコートへと向かっていく。
その姿を見つけたフランドールたちは、空からみゆきの両肩へと着地して問いかけた。
フランドール「どうしたの?」
星空みゆき「うん、ちょっと日野さんの部活動を覗いてみようかなぁ、って思って」
バットパット「ご友人の応援ですか。では、わたくしたちも周囲を見渡して、ついでに宝玉探しを行うとしましょう」
みゆきの足がバレーコートに進む最中、両肩の二匹は周囲に意識を向ける。
残念ながら、今のところは宝玉発生の気配は感じられない。
七色ヶ丘市内に散らばった宝玉は、何も常に何処かに存在しているわけではない。
普段は姿を完全に隠しており、何の前触れもなく突然と姿を現していく。
もしかしたら空の上に突然現れ、そのまま降ってくるかもしれない。
もしかしたら川の中に突然現れ、そのまま何処かに流されてしまうかもしれない。
もしくは民家の庭や家の中に現れ、赤の他人の家にお邪魔することになるかもしれない。
だが、宝玉が現れた瞬間に、それが秘めている強大なマジカルエナジーは周囲に独特な気配を発するのだ。
それを察知できるのは絵本の世界の住人だけだが、いつ何処にどんな形でどのタイミングで現出するか分からない以上、七色ヶ丘市内の全域を見張っていなければならない。
そのため、ウルフルンを含めた九人の選抜者たちは個々に自由行動を行って、七色ヶ丘市内全域に散らばているのだ。
ウルフルン「……都合よく探してた場所の近辺に現出してくれりゃ…、一番いいんだけどなぁ…」
宝玉発生の気配に気付ないみゆきのために、フランドールとバットパットを護衛の意味でも預けてきた。
一人きりで探索を続けるウルフルンの近くで、まだ宝玉発生の気配は現れなかった。
バレーコートに到着した時、みゆきがあかねを見つけるよりも早く、向こうから先に声をかけられた。
日野あかね「あれ、星空さん。どないしたん?」
星空みゆき「日野さん。えっと……ちょっと様子を見に来ちゃった、かな?」
日野あかね「様子?」
みゆきは、体育の授業でも何気なく耳に残っていた言葉を思い出した。
クラスメイトのれいかは、あかねをバレー部のエースアタッカー候補だと言っていたのだ。
星空みゆき「エースアタッカー候補って、すごいね」
日野あかね「おぉ? ウチの活躍を見に来たっちゅーことか? そんならゆっくり見ていきや♪」
絶対にエースアタッカー候補になりたい。
その意志の強さを知っていたからこそ、みゆきはあかねを応援したかった。
しかし今日の部活動でみゆきが目の当たりにしたのは、あかねにとっても厳しい現実を明確に突き付けるものばかりだった。
→
次へ
[
戻る
]
[
TOPへ
]
[
しおり
]
カスタマイズ
©フォレストページ