絵本の世界と魔法の宝玉! First Season

□開幕するリベンジ戦!
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 ルプスルンが声をかけると同時に、あかねも明確な敵意を感じて振り返っていた。

 そこには、バレー部を襲った恐ろしき人狼の姿が立っている。

日野あかね「ーーーッ」

名倉ゆか「ひぃッ!!」

ルプスルン「プークスクス。ちょこまかと逃げ回りやがって」

 一歩、また一歩、とゆっくり近付いてくるルプスルンは、その鋭い爪を牙を光らせて舌舐りをする。

 その眼光に照らされているのは、やはりゆかが持つ宝玉のようだった。

名倉ゆか「ま、待って!」

ルプスルン「あん?」

名倉ゆか「こ、これでしょ……? あなたが…欲しがってるもの…」

 そう言って差し出された宝玉を見て、ルプスルンも目付きを変えた。

ルプスルン「おぉ? 何だ、分かってんじゃねぇか! なら何で逃げてやがったのか知らねぇが、もうどうでもいいぜ。さっさと寄越しな」

 だが、あかねは見逃さなかった。

 ルプスルンは、自分たちに向ける敵意を鎮めたわけではない。

 その鋭く光る爪も牙も、構えを解いたわけではない。

日野あかね「(……アカン…。何や、よぉ分からんけど…これはヤバいで…ッ)」

 次の瞬間、あかねの脳裏に浮かんだのは……宝玉を手渡そうとした直後に引き裂かれる自分とゆかの姿だった。

日野あかね「ーーーッ」

名倉ゆか「…えッ!?」

 すると、あかねはゆかから宝玉を奪い取り、ステージ裏の反対側から猛ダッシュで抜け出していった。

名倉ゆか「ち、ちょっと…ッ! あかねぇ!!」

 一瞬、ゆかは“置いて行かれた”と思った。

 ステージ裏という狭い空間で、ルプスルンと二人きりにされて見放された、と思い込んだ。

 しかしルプスルンは、もうゆかなどには見向きもしない。

 結果、ゆかはステージ裏に取り残される形で難を逃れたのだった。







 ルプスルンは、あかねの行動に驚愕すると同時に感心していた。

ルプスルン「(敵意に気付いたか……明確だな、あの小娘)」

 ルプスルンの目的は、宝玉を破壊すること。

 それを正確に成し遂げることが出来るならば、人間の犠牲など何とも思っていない。

 二人を見つけた際に強襲しなかった理由は、油断させてから食い殺す狼の習性が働いたからだ。

 だからこそ敵意を失うことなどありえなかったし、武器として使っている爪と牙の構えを解こうなどとは思わなかった。

 だが、その仕草を見抜かれた。

ルプスルン「懸命な判断だったが、最後の最後で誤ったな……。ダチを助けても、その狙いが自分に向いただけだ! オレはテメェを食い殺すぜッ」

 宝玉に手を伸ばした瞬間、ゆかも含めて引き裂いてでも破壊を達成しようとした。

 その狙いが変わっただけ。

 ルプスルンは宝玉を持ち去ったあかね諸共、宝玉を確実に破壊するために走り出す。







 あかねがゆかの持つ宝玉を手に取って走り出したのは、ほぼ反射的な行動に等しかった。

日野あかね「(ウチ、何してんねん……ッ。こんなん引き受けても、どうしたらええか分からんやろッ)」

 単純な話、捨ててしまえばいい。

 狙いが宝玉だと分かったなら、何も直接渡すことはない。

 自分への狙いを逸らしたいなら、本物の目標そのものを手放してしまえばいい。

 でも……出来なかった。

日野あかね「(そもそも、何なんや…? この玉…ッ)」

 あかねの手の中に眠る宝玉は、妙に温かく感じた。

 まるで所持している者を奮い立たせていくように、玉の中から情熱的な感情が沸き上がってくるのを感じる。

日野あかね「(………ぁ…、そういえば…ゆかも…)」

 部活のミーティング中に起きた、ゆかの豹変を思い出した。

 あんな練習メニューを考えて、バレー部の戦力そのものを高めようとするような、努力の方向性を間違える熱血な性格ではなかったはず。

日野あかね「まさか……この玉、持ってたのが原因なんか…? ホンマ何やねん、これ…」

 だがその疑問を解決している時間はない。

 どうにも手放す気が起きない宝玉を抱えながら、あかねは背後から迫るルプスルンから逃れるように走り回る。

 とりあえず校舎を出よう。

 あかねの当面の目標が決まった。







 みゆきはウルフルンたちと一緒に体育館を目指す。

星空みゆき「あの渡り廊下を渡ったら、もうすぐ体育館だよ!」

ウルフルン「宝玉の気配も近いッ。こりゃビンゴだぜ!」

 渡り廊下に突入し、そのまま体育館を目指していく。

 と、その時だった。

日野あかね『ーーーわぁあああッ!!』

ウルフルン「あん?」

星空みゆき「……今の声ッ!」

 渡り廊下の外。

 体育館から出てきたばかりと思われる女生徒が、見覚えのある人狼に襲われていた。

星空みゆき「日野さんッ!!」

ウルフルン「この気配は……ッ。チッ、そういうことかッ!」

 あかねから感じられる宝玉の気配に気付き、ウルフルンは渡り廊下を離れる。

 目指すのは、ルプスルンの魔の手が伸びるあかねの眼前だった。







 体育館からの脱出に成功したものの、部活終わりだったせいか体力が持たない。

 そもそも、ゆかを捜して校舎内を駆け回っていたため、あかねも限界が近かったのだ。

ルプスルン「追いかけっこは終わりだぜ!!」

 背後から飛びかかってきたルプスルンの衝撃が背中を遅い、あかねは前のめりに倒れ込んでしまった。

日野あかね「ーーーわぁあああッ!!」

 突然の衝撃に悲鳴を上げ、そのままゴロゴロと地面の上を転がっていく。

 体の節々に痛みが走るが、ここで痛みに苦しんでいる暇はない。

ルプスルン「さて、ここまでだな?」

日野あかね「ーーーッ」

 ルプスルンの魔の手が伸びた、その瞬間。





 もう一匹の人狼が現れ、あかねの盾になるよう目の前へと割り込んできた。
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