絵本の世界と魔法の宝玉! First Season

□招集
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 あかねが宝玉の騒動に巻き込まれるよりも前の話。

 七色ヶ丘市内の公園にて、やよいは一人で静かに絵を描いていた。

黄瀬やよい「…………」

 黙々とキャンバスに向かう姿勢は、何をしているのか分かっていない者が見れば楽しそうとは思わないだろう。

 だが、好きなことに集中している、と思えばそれが楽しくないはずがない。

 黄瀬やよいは今、絵を描くことに楽しみを求めるようになっていた。

 元から絵を描くことは好きだったのだが、最近とある出来事がきっかけで絵を楽しむことが出来なくなっている自分がいる。

 やよいにとって、その苦痛から逃れるためにも、こういった物静かな場所で絵を描いていたかったのだ。

黄瀬やよい「(……やっぱり…、誰もいない場所で描いてた方が落ち着くなぁ…)」

 自分が描きたい絵を、最高の環境の中で描いていく。

 それが何よりの幸福に感じていたやよいだったが、その気持ちが吹き飛んでしまう事態が起きる。

 背後から、やよいの体を覆ってしまうほど大きな影が現れたのだ。

黄瀬やよい「……?」

 最初“あの先輩かな?”と思ったが、それにしては影が大き過ぎた。

 不思議に思って影の主を確かめようと振り返った、その時だった。





 肩に金棒を担いだ、まるで絵本の物語に登場するような赤鬼の大男が立っていた。





黄瀬やよい「ーーーきッ、きゃぁぁぁあああああッ!!!!!!」

 赤鬼が何か言おうと口を開きかけた時には、やよいはキャンバスを抱えて涙を流しながら逃げ出していた。

 つい数秒まで幸せだった気持ちは完全に吹き飛び、心の中は恐怖で隅々まで満たされていたのだった。

 しかし赤鬼は、泣きながら公園を飛び出していくやよいを追いかけようとはしなかった。







 絵本の世界より派遣された、宝玉の回収を頼まれし九人の選抜者たち。

 その中の一人、赤鬼の大男であるアカオーニは今でも宝玉の出処を掴めずにいた。

アカオーニ「むぅ……面白くないオニ…。宝玉は何処オニ…?」

 いつ何処に宝玉が現れても対応できるように、アカオーニは常に周囲の状況を把握しようと気を配っていた。

 しかし、元から好奇心が旺盛な性分が災いして色々なものに目を光らせては意識を持って行かれてしまう。

 少し強面な表情だが、遊ぶことも子供並みに大好きなアカオーニの心は、完全に人間界に魅了されていた。

 何よりアカオーニは……。

アカオーニ「……オニ?」

 ふと、七色ヶ丘市内の公園に目を向けると、一人で黙々とキャンバスに向かっているやよいの姿を見つけた。

アカオーニ「(公園の中で一人オニ…? たった一人で何してるオニ…?)」

 公園に子供がいるのなら、自然と思いっきり遊ぶものだと思っていた。

 不思議に思ったアカオーニは、気付かれて驚かせてしまわないように静かに背後から近付いていく。

 別に声をかけるつもりはない。

 それなら、遠くから気付かれた上で安心させる形で近付いていった方がいい。

 だからこそ、何をしているのかをこっそり確認した後で、またこっそりと離れていくつもりだった。

アカオーニ「(……何か…描いてるオニ…?)」

 やよいの背後に辿り着いたアカオーニは、キャンバスを覗き込もうとグッと顔を近付けた。

 その行為で、やよいの視界を自分の影で覆ってしまったのだが、アカオーニは気付くことができなかった。

アカオーニ「………ぉぉ…」

 この時、アカオーニはやよいが描いた絵に釘付けだったのだ。

黄瀬やよい「ーーーッ!!?」

 そして、気付かれた以上は何か言った方がいいかと思って声を掛けようとした時、既にやよいは走り出していた。

黄瀬やよい「ーーーきッ、きゃぁぁぁあああああッ!!!!!!」

アカオーニ「あッ、待つオニ! 別に怖がらせるつもりじゃなかったオニぃ!」

 そう呼び止めたが、伝わらなかった。

 しかしアカオーニは呼び止めようとしたものの、そのまま追おうとはしなかった。

 自分でも分かっているのだ。

 この赤鬼の姿が、多くの子供たちから恐怖の対象として見られることに。

アカオーニ「…………」

 アカオーニは人間界に魅了されている。

 誰よりも子供っぽく、幼心と言うか童心と言うか、好奇心旺盛な一面や遊ぶことが好きな性分も、きっと大きな要因だろう。

 何よりもアカオーニは……。

 人間のことが大好きなのだ。







 そして、そんな出来事から数日が経った今現在。

 先日、人間の協力者である星空みゆきの友達、日野あかねが新たに協力者として加わった。

 その件を始めとして、宝玉について新たに判明した案件があるとのことで、ふしぎ図書館に招集に応じることが可能な限りの絵本の住人が集まった。

 招集したのは当然、魔王である。

魔王「ウルフルン、フランドール、バットパット、アカオーニ、マジョリーナ、ホレバーヤ。集まったのは六人か」

マジョリーナ「残る三人は、今も何処かで回収探索中だわさ。今回の件は、後から一人ずつ報告しておけば大丈夫だわさ」

 魔王の言葉に対し、ホレバーヤと比べて随分と小さな背丈を持つ老婆、マジョリーナが返答した。

 緑色の衣服に身を包み、鷲鼻を覗かせてホレバーヤの淹れてくれたお茶を飲みながら席に座っている。

アカオーニ「それで? ウルフルンは何でそんなに傷だらけオニ?」

ウルフルン「……ルプスルンの野郎と絡んだんだよ。見た目ほど重傷じゃねぇから気にすんな」

 あかねを巻き込んだ騒動にて、ウルフルンはルプスルンと激しい攻防戦を繰り広げた。

 その際に負った傷は深かったものの、深刻な事態に至ることはなかった。

 みゆきの宝玉の力に傷を癒す能力もあったのだが、魂と結びついて体に取り込まれている宝玉の力を多用すると、異常なほど労力を消費することが判明した。

 現に、ルプスルンとの戦いで初めて能力を本格的に使用したみゆきは、戦いが終わった後は立つことも出来なくなったほどだ。

 今は回復しているだろうが、少し前までは車椅子に座って生活していた。

ホレバーヤ「何の罪もない人間を巻き込むのは心苦しいねぇ…。それも…まだ中学生の女の子なんだから、可哀想で仕方ないよ…」

ニコ「でも本人が認めたことよ。わたしたちは強制してない。それに宝玉さえ返してもらえば一般人に戻ることは簡単だわ」

魔王「ニコ。トゲのある言い方は慎むことだ」

ニコ「…ふん」

 すると、この場での話し合いが進まないことに限界が来たのか、人間の姿に変身しているフランドールが両足をテーブルの上に投げ出して強めの口調で言い放った。

フランドール「っつーかよぉッ、さっさと会議っつーモンを始めろってんだ。一刻も早く宝玉を集めなくちゃヤベェんだろ? ならさっさと終わらせて、回収と探索に戻ろうじゃねぇか」

バットパット「フランドールの態度には便乗し兼ねますが、意見には同感です。報告があるのでしたら早急に済ませた後、わたくしたちは探索を再開するべきです」

魔王「…ふむ、そうだったな。では、この話し合いは早急に済ませるとしよう」

ニコ「………」

 魔王が席に座り直し、フランドールを含めて全員が姿勢を改める。

 ふしぎ図書館にて、絵本の住人たち八人による会議が始まった。
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