絵本の世界と魔法の宝玉! First Season

□三度目の現出!
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 蘇我竜也と黄瀬やよいは、一年二組のクラスメイトだった過去を持つ。

 去年、やよいの絵を見た蘇我は、そこに確かな才能を見出していた。

 自分とは絵心のセンスが異なるが、芸術は一種類ではない。

 きっとやよいも、絵を極めれば何らかの頂点を取ることができる。

 そう思った蘇我は、早速やよいに接触を試みた。

蘇我竜也「美術部に入部しないかね? きっと楽しいぞ?」

 同級生に対して自分の所属する部活に勧誘するのも珍しくない。

 実際、友達に誘われたから、という理由で部活に参加する生徒など大勢いた。

 だがしかし、言うまでもなく蘇我とやよいは友達と呼べるほど親しい仲ではないのだ。

黄瀬やよい「ご、ごめんね…。わたし、そんなに自信ないし、人に見てもらうのって恥ずかしいから…」

 それがお決まりの断り文句。

 最初は蘇我も諦めることなく、何度も同じような勧誘を迫っていたが、結果は同じ。

 やがて、部活への勧誘を諦めた蘇我は、別の方法でやよいに迫ってきた。

蘇我竜也「…それなら仕方ない……。でもね? 僕は黄瀬さんの才能が埋もれていくのを、黙って見ていたくないんだ…」

黄瀬やよい「……え?」

蘇我竜也「僕が、個人的に指導してやるよ」

 勝手な申し出だったが、それで部活への勧誘を諦めてくれるなら一度くらいは付き合ってあげよう。

 そう思ったやよいは、蘇我の言うことに従ってしまったのだった。







 やよいがポスターを完成させるより、少し前のこと。

 やよいの悩みを明確にするために行動した天願は、とりあえず、と言った様子でメモを殴り書きで取っておいた。

天願朝陽「黄瀬さんもあんな性格だからよ。そのまま指導の申し出を断り続けることも出来なくなって、今に至るってわけか」

桜野準一「ま、まぁ……俺も蘇我の友達が言っとった話、盗み聞きしただけやけどなぁ」

 天願は、蘇我と同じ二年一組の桜野に接触していた。

 二人は“今年度の転校生”という以外に接点がなく初対面だったため、桜野の方は同性相手から声をかけられたことで少し緊張気味である。

天願朝陽「まぁ、噂話も二つ三つ同じ事柄が重なれば信憑性は上がる。つまりこれは、蘇我くんの噂話が真実だってことだからよ」

 天願は、蘇我が去年からやよいに接触している噂話を知っていた。

 そして、それがやよいの今の悩みに直結している可能性を立てていたが、今一つ証拠が足りなかったのだ。

 だからこそ、みゆきにもやよいが抱えている悩みの可能性として、この話をしてやることができなかったのだ。

天願朝陽「(つーか、思ってたより深刻な悩みだなぁ、これ。星空さんに話せば解決に向かうだろうけど、これって個人の問題だからよ)」

桜野準一「……? どないしたん? 急に黙って……」

天願朝陽「ん? あぁ、別に気にすんな♪ 情報提供の礼として、何を払おうかなぁ、って考えてただけだからよ」

桜野準一「ほぇぁ!!? れ、れれれ、礼なんてッ、別に大丈夫やで! で、でもなぁ〜、どうしてもっちゅーんなら、その、俺と、と、とと、友、だ、ち」

 天願がパラパラと生徒手帳のページをめくっている最中、まさかの展開に口が回らなくなっている桜野が焦りを見せていた。

桜野準一「(何でこないな時に口が回らんねんッ!! 友達作るチャンスやろが、アホぉ!!)」

 軽く一発頬を叩いたところで、天願が一つの情報を桜野に言い渡した。

天願朝陽「そういえばね、君が何度か話しかけようとしてる日野さんのことなんだけどよ」

桜野準一「え? 日野さん、って…誰?」

天願朝陽「うちのクラスの関西っ子」

桜野準一「あああ!! あの子かッ。そうか、日野さんっちゅーのか………って…!! 何で自分、俺が日野さんに話しかけようとしてるの知ってるんッ!!?」

天願朝陽「まぁ、色々と聞き回ってるから?」

桜野準一「もう俺怖いわッ! 自分、何なん!?」

 桜野の反応をガン無視して、天願は桜野に情報を提供する。

 最近、休み時間を見つけては屋上に向かっている。

 その情報を桜野にリークした人物は、天願だったのだ。







 そして現在、天願は悩んでいた。

 やよいがポスターを完成させた翌日、休み時間中にみゆきとやよいの会話を聞いていたのだ。

星空みゆき「黄瀬さーん。あのポスター、もう提出してきたの?」

黄瀬やよい「えッ」

星空みゆき「楽しみだねぇ。でも、黄瀬さんならきっと優勝できるよ!」

黄瀬やよい「あ、あの…ご、ごめんなさい…ッ」

 早々に会話を切り上げ……というより、会話するまでもなく打ち切ったやよいは、そのまま教室を飛び出していった。

星空みゆき「え? あ、黄瀬さん!?」

 みゆきの呼び止めも虚しく、やよいは教室から姿を消したのだった。

日野あかね「何や…? やよい、何かあったんか?」

星空みゆき「…分からない。どうしちゃったんだろう……」

天願朝陽「…………」

 一部始終を眺めていた天願は、何となく察した。

 きっと蘇我にポスター作成の件がバレたのだ、と。

天願朝陽「(勝手に指導していたとはいえ、自分の目の届かないところで作り上げた美術作品ってのは、当人にとって面白くないはずだからよ……)」

 天願は、人の笑顔を好む性分だ。

 だからこそ普段は明るく振舞うし、自分にできる助けがあるなら全力で協力したい。

 あらゆる情報を常にリークしているのも、自分の手札を増やすためだ。

 そして、今のやよいに笑顔はない。

天願朝陽「(苦しんでるクラスメイトがいるんなら、やっぱし笑顔にしてみたいだけだからよ、っと)」

 お節介かもしれないが、天願だって黙っていられない。

 そう思って教室から廊下に出た、その時。



 天願の目の前に、あの強面な桜野の姿が至近距離で現れた。



天願朝陽「ーーーどうぇああああああああッ!!!!」

桜野準一「え!? ええ!!? な、何やねん突然ッ、どないしたんやッ」

天願朝陽「鏡見て出直してこいッ!!」

 次の瞬間、桜野、ショックで三分ほど意気消沈。
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