絵本の世界と魔法の宝玉! First Season
□鬼ごっこ開始!
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偶然にも宝玉を見つけた蘇我は、それを手に取りながら美術室へと歩を進めていた。
蘇我竜也「……何かは知らないが、宝石とは違うだろうな。あとで職員室にでも届けておくか」
そんな独り言を呟きながら、蘇我は美術室の扉を開けた。
そして当然ながら、そこには涙を流して顔を覆っているやよいと、やよいを泣き止ませようと焦っている赤鬼の大男がいた。
蘇我竜也「……へ?」
アカオーニ「…オニ?」
黄瀬やよい「ふぇ…?」
三人の視線が交差し、数秒の沈黙。
あまりに予想外な光景に、蘇我は口をパクパクと動かしているものの声が出ていない。
アカオーニ「…んん? あ…ッ!!」
蘇我竜也「ひぃッ!!」
ようやく蘇我が声を出したのは、アカオーニが何かに気付いて少し大きな声を上げた時だった。
アカオーニの目は、蘇我の手に握られた宝玉を捉えている。
アカオーニ「お前ッ、それ何処で見つけたオニ!? 俺様に返すオニぃ!!」
蘇我竜也「うッ、うわぁあああッ!!!! たッ、助けてくれぇぇぇえええええッ!!!!」
アカオーニ「って、ええ!!? 何処に行っちゃうオニぃ!? 待つオニぃ!!」
あまりの事態に、アカオーニを前にした蘇我は美術室を飛び出した。
やよいの安否など気にならない。
むしろ、あの赤鬼がやよいに手を出している最中に逃げられればそれでいいとさえ思っていた。
蘇我竜也「うわあああああッ!!!! 何であんな部外者がいるんだッ!! 誰かぁ!! 警察に連絡してくれぇえええッ!!」
アカオーニ「何か勘違いしてるオニッ。俺様、ちゃんと用事があって学校に来てるオニぃ! 宝玉を返せオニぃ!!」
黄瀬やよい「あ、あのぉ……」
不意に声をかけられ、ようやくアカオーニは今まで放ったらかしだったやよいの存在を思い出した。
だがしかし、その目にはもう涙はない。
むしろ、改めて今何が起きているのか分かっていない様子で呆然としているように感じられた。
アカオーニ「…………」
やよいは宝玉と無関係だ。
巻き込むべき人間ではない。
そう思い至ったアカオーニは、その大きな手をやよいに向けて伸ばした。
黄瀬やよい「……ッ」
出会った頃に比べれば大したことではないが、それでも恐怖心はある。
このまま捕まって食べられてしまうのではないか、という子供っぽい発想が頭を過ぎった。
しかし……。
アカオーニ「もう泣いちゃダメだオニ。俺様、ホントにどうしていいか分からなくなるオニ」
そう言って、アカオーニはやよいの頭部など簡単に包み込んでしまうほど大きな左手を、ポン、と優しく頭に置いた。
そのままワシワシと優しく撫でてくれる。
黄瀬やよい「……!」
アカオーニ「それじゃあ、俺様はもう行くオニ。これから大事な任務が待ってるオニぃ」
黄瀬やよい「任、務…? ぁ…」
アカオーニの大きな手がやよいの頭から離れ、やよいは少しだけ名残惜しそうな声を漏らした。
それに気付かず、アカオーニは右手に持った金棒を担ぎ直すと、そのまま蘇我を追って廊下へと飛び出していく。
アカオーニ「待つオニッ、さっきのクルクル頭ぁ! 何処に行ったオニぃ!!」
こうして、やよいは再び美術室内に一人で残された。
黄瀬やよい「…………」
みゆきの言葉と、アカオーニの指摘。
絵は心を映す鏡。
やよいの絵らしくない。
蘇我に言われて嫌々ながら完成させたポスターには、何の感情も込められてなどいない。
黄瀬やよい「……ッ」
やよいは、ポスターを手に取った。
蘇我に言われて描いたものは当然のこと、みゆきとあかねの二人と一緒に完成させたポスターも持って。
自分の口で言おう。
自分の力で立ち向かおう。
蘇我から言われたポスターではなく、やよいは自分の力で描き上げたポスターを提出して、コンクールに出る。
黄瀬やよい「……わたしも、行かなくちゃ…ッ…」
向かうのは職員室ではなく、蘇我。
ポスターを突き返してでも、ここで悩みの種を打ち消すために、やよいは二枚のポスターを持って走り出した。
今年度より、七色ヶ丘中学に入学したばかりの一年生“森山しずく”は、所属する部活動を決めるために色々な部へと足を運んでいた。
元から音楽が好きだったため、吹奏楽や声楽などの部活動を見て回り、今は廊下を歩きつつ印象を思い返しているところだった。
森山しずく「う〜ん……、楽器がやりたいなら吹奏楽だけど…そこまでガッツリやるのもなぁ……。軽音部とかあったらいいのに…」
ヴァイオリンが得意なしずくだったが、部活ばかりに熱を注ぐ性分ではない。
勉学の方も疎かにしないよう真面目な気質が働いているのか、今でも所属するべき部活動に悩みを見せている。
そんな時だった。
しずくの栗色に輝くサイドテールを思いっきり揺らすように、廊下を全力疾走していた蘇我がしずくの傍を走り抜ける。
森山しずく「……! せ、先輩!? 廊下を走っては危ないですよッ」
蘇我竜也「ーーーッ。ち、ちょうど良かったぁ!! 頼むッ、助けてくれぇ!」
森山しずく「…は、はい?」
逃げていた先で出会った一年生に助けてもらおうと、蘇我は自らの足に急ブレーキをかける。
すぐに引き返して駆け寄ってきた蘇我は、しずくの両肩にガシィッと掴みかかる。
蘇我竜也「見たこともない鬼の大男に追われているんだッ。誰でもいいから、近くに先生はいないか!?」
森山しずく「はい?? お、鬼…?」
蘇我竜也「信じられないのは分かる!! だがしかしッ、僕は本当に見たんだッ!!」
信じてもらえそうにないことだと分かっていたからこそ、蘇我の口調は自然に強まる。
しずくの両肩に置いた両手をブンブンッと大きく揺さぶりながら、蘇我はどうにか信じてもらおうと必死さだけでも伝える。
身長は低いくせに、相応以上に発育しているしずくの胸がボインボインと否応無しに揺れていた。
森山しずく「せ、先輩ッ、落ち着いてください! 頭がクラクラ、気持ち悪くなってしまいますッ。あと地味に胸も痛いですッ」
それは内面的な意味か身体的な意味か、おそらく両方だろう。
と、その時だ。
蘇我竜也「ーーーッ!!!!???」
森山しずく「きゃあッ!」
しずくの両肩を揺さぶる行為を止めた蘇我は、廊下の窓から見える外の景色に気付いた。
急に体を解放されたせいで、しずくはそのまま尻もちを突いて転倒する。
乱れた髪や制服、ズレてしまった下着などを手直しながら立ち上がると、しずくは目の前の蘇我の表情が青ざめていることに気付いた。
森山しずく「先輩? どうしt」
蘇我竜也「ーーーうわぁぁぁあああああッ!!!!」
森山しずく「あッ。せ、先輩ッ!!?」
しずくの声など聞かず、蘇我は再び廊下を掛けて何処かへと逃げてしまった。
何を見たのかと廊下の窓の外に視線を向けてみたが、そこには何もおかしな点はない。
しずくは気付かなかった。
蘇我が見た、窓の向こうに広がる空中に立つ青鬼の姿を。
声は聞こえなかったが、青鬼は蘇我の存在を見つけて確かにこう言った。
アクアーニ『見つけた』
口の動きから言葉を察した蘇我は、しずくを突き放すようにして逃げ出した。
そして、しずくが窓の外に視線を向ける前に、青鬼のアクアーニは蘇我を追って移動したのだった。
七色ヶ丘中学の校内にて、文字通りの“鬼ごっこ”が始まった。
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