絵本の世界と魔法の宝玉! First Season

□休日の出会い
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 七色ヶ丘中学、昼休みの中庭にて。

 みゆきたちの前に現れた二人の先輩が、場所を譲るように迫ってきたところ、クラスメートの緑川なおが現れた。

星空みゆき「緑川さん…」

 あかねと言い争いに発展しようとしていた矢先のことだ。

 後から来たにもかかわらず、場所を横取りすることは先輩であってもおかしい。

 そう指摘してきた。

美村みきこ「横取りだなんて…ッ」

小林ももり「人聞きが悪いわね」

緑川なお「中庭はみんなの場所です。先輩たちの言っていることは、少し筋が通っていないと思います」

 先輩の態度に臆する様子はない。

 あかねのように反論することもできず、ただ成り行きを見ていることしか出来なかったみゆきにとって、なおの姿は勇気に溢れていた。

小林ももり「あんたねぇ…ッ、二年のくせに誰にものを言って…!」

美村みきこ「…待って、もも」

 対する小林先輩も、なおに負けじと噛み付こうとする。

 しかし、それを美村先輩が制止した。

小林ももり「……?」

美村みきこ「入江生徒会長が来たわ……。こんなところ見られたら、どう思われるの?」

小林ももり「……」

 二人が視線を巡らせると、美化週間の見回りに中庭を訪れる二人の人影があった。

 七色ヶ丘中学生徒会長の入江先輩と、副生徒会長の青木れいかだった。

 どうやら先輩たちは、あの生徒会長に恥ずかしい姿を見られたくはないらしい。

小林ももり「……チッ」

美村みきこ「…行くわよ」

小林ももり「ふん…」

 悔しさと腹立たしさを含んだ様子のまま、先輩たちは中庭から離れていった。

 噛み付いてきたことに対する謝罪の一つもないままだったが、みゆきたちは窮地を脱したらしい。

黄瀬やよい「…こ、怖かったぁ〜……」

日野あかね「はぁ…」

星空みゆき「緑川さん、ありがとう!」

 ようやく肩の力を抜く一方で、みゆきはなおにお礼を言った。

日野あかね「おかげで助かったでぇ」

 あかねの言葉は、おそらく二つ以上の意味が込められていたことだろう。

 火の粉が舞い上がっていた右手は、既に元通り鎮まっていた。

緑川なお「あたしは当たり前のことを言っただけだよ。じゃあ、部活の自主練あるから行くね?」

 そう言うと、なおは足早に中庭を後にする。

 やよい曰く、なおは一年の頃からサッカー部のレギュラーで、昼休みになっても自主練を行うほどのスポーツ熱心らしい。

 そして今ここで先輩を言い負かした時のように、相手が誰であろうと正しいことをズバッと言い放ってみせる子、というのがあかねの談だった。

星空みゆき「へぇ〜、何かカッコいいね!」

日野あかね「せやな。見てて気持ちのええ子やねん」

 と、中庭でなおのことを話題にしていた時だった。

 三人が座っているベンチの下から、ジャラジャラと鎖の音を立ててチェイサーが現れる。

チェイサー「ニーヤニヤニヤ♪ 確かに、なかなかいないよねぇ〜? ああいうお嬢さんはさ♪」

日野あかね「どわぁあああ!! ビックリしたぁ!」

黄瀬やよい「…あッ、この前の……」

星空みゆき「ち、チェイサー!? そこで何してるのッ!?」

 器用に体をくねらせて、チェイサーはベンチの下から抜け出してくる。

 呆然とする一方で、みゆきとあかねは警戒心を抱いていた。

 やよいに至っては、いまだに恐怖心を覚える雰囲気を漂わせている。

 仲間といえど、どうにも彼だけは好くことが出来そうにない。

チェイサー「ニーヤニヤニヤ♪ 言ったろぅ? オレは神出鬼没。いつ何処で現れるか、分からないのよ〜ん」

日野あかね「……こないなところまで宝玉探しか? 乙女の足元から顔出すんは、ちょいと礼儀知らずなんちゃうか?」

チェイサー「ニーヤニヤニヤ♪ そりゃ失礼したね、炎のお嬢さん。もし覚えてたら、次から気を付けるよ♪」

 そう言うと、チェイサーは中庭を出ていこうとする。

チェイサー「今日は金曜、明日は土曜。せっかくの休日に予定もないなら、宝玉探しを忘れずにね〜?」

星空みゆき「……言われなくても…、そのつもり…」

チェイサー「それを聞けて安心したよ♪ ニーヤニヤニヤ!」

 最後に一つ、不要な釘まで刺すことを忘れずに、そのままチェイサーは三人の前から去っていった。

日野あかね「……嫌味なヤツ」

黄瀬やよい「何か、ちょっと怖いね…。でも、あの子も仲間なんでしょ…?」

星空みゆき「うん……そうだよ…。そうなんだけど………」

 あの独特な雰囲気に、どうしても嫌悪感を覚えてしまう。

 スカートのように腰から下がる鎖の騒音が、耳障りなことに今も響いて離れなかった。







 チェイサーが三人に近付いたのは……より正確に言えば、みゆきとあかねに接触してきたことには理由があった。

チェイサー「(ふ〜むふむ、やっぱり予想は当たってたのかなぁ〜ん……)」

 みゆきの取り込んだ光の宝玉と、あかねの取り込んだ炎の宝玉。

 取り込んでしまった以上、その宝玉の気配を感じ取ることは出来なくなってしまったが、その身に宿った能力の感覚なら何となくでも察することができる。

 そして運が良いことに、あの中庭であかねは少しだけ能力の兆しを見せてくれた。

 火の粉を散らしていたあの瞬間を、ベンチの下からチェイサーも観察していたのだ。

チェイサー「(光と炎……。あの感覚の正体が偶然かどうか、ちょーっと調べてみる必要があるのかにゃ〜ん)」

 みゆきとあかねを改めて観察した結果、以前から疑問に思っていた“あのこと”に着目している。

 その疑問を解決するため、チェイサーは一度ふしぎ図書館に戻ることにした。

 否、正確には図書館ではなく、故郷である絵本の世界へと戻るために。







 その夜。

 みゆきは明日の予定を思い返していた。

 と言っても別に何か用事があるわけではなく、むしろ逆に何の予定も入っていない。

星空みゆき「…………」

 昼間、チェイサーに指摘された言葉が思い出された。

星空みゆき「…言われなくたって、宝玉探しはやるつもりだったんだけどなぁ……」

 ああいう風に指摘されると、どうにも気が進まなくなってしまう。

 宿題を片付けようと思っていた矢先、母親から宿題をやりなさいと言われてしまった時の、あの感覚に近いのだろうか。

 みゆきは、明日の宝玉探しに気乗りする調子ではなくなっていた。

星空みゆき「……でも、早い内に全部回収しないとダメなんだよね…」

 みゆきの内に取り込まれた、光の宝玉。

 あかねの炎の宝玉を残り数から除いたとしても、まだ十個の宝玉が未回収のままだ。

 そして厄介なことに、その内の一つは七色ヶ丘市の外に散ってしまった。

 チェイサーに言われたからではなく、みゆきは自分の意思で明日は宝玉探しを行わなくてはならない。

 それが、協力を買って出た自分の義務だと思い直して。
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