絵本の世界と魔法の宝玉! First Season

□思いを一つに!
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 周囲に広がる、黄金色の空間。

 立っているのか浮いているのかも分からない現状の中、やよいは呆然とした様子で周囲を見渡す。

黄瀬やよい「……?? なに……ここ……??」

 突然の事態を明確に把握する前に、やよいの体に地獄の苦しみが襲いかかる。

 何の前触れもなく、四方八方から数十万ボルトクラスの超高圧電流が放たれ、やよいの全身を一瞬で包み込んだ。

 目視することができるほど強力な稲妻を浴び、全身のあちこちから火花が飛び散る。

黄瀬やよい「ーーーッ!!!!!?????」

 叫ぼうとした瞬間に喉が塞がり、行き場を失った腹からの絶叫が体内で暴れまわる。

 眼球の水分が瞬く間に弾け、やよいの眼窩から滝のような血が飛び散る。

 しかし、それだけで終われない。

 叫びたくても叫べない絶叫が喉を裂き、血の泡となって口から漏れ出す。

黄瀬やよい「ーーーおぼぶッ!! おばがッ、ばぼごぼぉおおおおッ!!!!」

 ゴボゴボと気泡が弾ける声を漏らしながら、やよいの体は暴れまわるように痙攣する。

 もちろん全身の痙攣だけでは済まず、腕や足など体中のあらゆる場所から火花が散った。

 やがて雷で焼き尽くされた左腕が炭と化し、痙攣して振り回した反動で胴体から切り離される。

 気が付けば、既にやよいの体から四肢の全てが失われていた。

黄瀬やよい「げぇぇえッ!! うごぁ!! あぎぃぇえええあがぁはッ!!!!」

 でも死ねない。

 地獄の苦しみに“死”という快楽はない。

 命が完全に燃え尽きて絶命するまで何度でも殺され続ける。

 更に言えば、現実世界でやよいを救おうと施されている治癒行為が、この苦しみを延長しているのだ。

 その事実をやよいは知らないだろうが、もう考える頭も働きはしない。

 もう死なせて、と思えば最期。

 死にたくない、と思い続ければ希望はある。

 尤も、やよいの精神面が耐えられずに絶命を受け入れてしまえば、もうそこでバッドエンドなのだが……。







 河原にて、地獄の苦しみと戦うやよいをみゆきたちが取り囲んでいた。

 やよいの事態を見て、なおやなおの弟妹たちは救急車を呼ぼうとしたのだが、それをあかねが制止した。

日野あかね「気持ちは嬉しいんやけど、それじゃ意味がないねん……」

緑川なお「でもッ、このままじゃやよいちゃんが!」

アカオーニ「大丈夫だオニッ。そのために、みゆきが頑張ってるオニ!」

緑川なお「……ぁ…うん…」

 なおたちは、今でもアカオーニの存在に困惑している。

 弟妹たちに至ってはアカオーニの姿が怖いらしく、ずっとなおの背後に隠れたままだった。

 しかし、こうして一緒にやよいを心配してくれている様子から、敵意がないことは既に明らかだった。

緑川なお「(星空さんの力とか、あかねの炎とか……。それと、この赤鬼も…。いったい何なの…?)」

 しかし、今それを訊くことは躊躇われた。

 血を吐きながら暴れまわるやよいを前に、両手をかざして集中しているみゆきの様子から、声をかける気になれなかった。

日野あかね「……やよい…ッ。死んだらアカンで…ッ」

 あかねが普段、そんな冗談を言う性格ではないと知っている分、その言葉が真実だと伝わってくる。

 比喩表現なしに、今のやよいは“死にかけている”のだ。

緑川なお「…………」

 そう認識したなおは、そっとやよいの手を取った。

 やよいの血管を破って溢れた黒っぽい血が、ベタッ、と付着してくる。

 決して少なくない血に触れると、これほどまで粘性を感じるのかと戦慄した。

 それでも、なおはやよいの血塗れの手をギュッと握った。

緑川なお「やよいちゃん……大丈夫だよ…。あたしたちが一緒にいる…ッ。だから、死んじゃダメだよ…ッ…!」

 言葉にすると、こんなにも重いのか。

 言い切ることを躊躇うほど、死を身近に感じたのは初めてだった。

 目の前で死にかけている人を前に、死んでほしくないと思うこと。

 それがこんなに怖いとは思わなかった。

 なおの手も震えだす様子を見て、みゆきは少しだけ口元を緩めた。

星空みゆき「……黄瀬さん…。緑川さんも、応援してくれてるよ……。だからお願い……逝かないで…ッ……」

 みゆきの治癒も力が増す。

 宝玉の能力を使い続けるのは負担でしかなく、既にみゆきも苦しそうだった。

 ただでさえ先ほど脱臼したばかりで痛みの残る両方が、今にも倒れそうなほど震えていた。

 そうなると、やよいにかざしている両手も自然に震え始める。

日野あかね「…みゆき……ッ」

 すると、そんなみゆきの両肩にあかねが優しく手を置いた。

日野あかね「きっともう少しや…。やよいも必死に戦ってる…。せやから、もうちょっと頑張ろな……」

星空みゆき「……あかね、ちゃん…」

 あかねには何も出来ない。

 せめて、こうして寄り添うことしか出来ないのが心苦しかった。

 そして、それはアカオーニも同じだ。

アカオーニ「…………」

 目の前で苦しんでいるやよいに、何もしてあげることができない。

 アカオーニの脳裏に、絵を描いていた時のやよいの真剣な表情が思い出される。

アカオーニ「…………」

 あの姿を二度と見れなくなるかもしれない。

 そう思うと、アカオーニは怖くて仕方がなかった。







 市外に行くことを断念し、ニコと魔王が河原に到着した。

 そこで、やよいを取り囲んで無事を願うみんなの姿を見つける。

魔王「……ッ。何てことだ…、また関係ない人間を巻き込んだか…ッ」

ニコ「あかねの時と同じね……。みゆきが治癒しようとしてる……」

 この事態に、二人は最悪の場合も想定した。

魔王「チェイサーを呼んでおく…。もしもの時のためだ……」

ニコ「…そうね……残念だけど……」

 繰り返さないようにしていた悲劇が再び起きるかもしれない。

 出来ることなら、これ以上誰かの存在を消してしまうことは避けたいと、そう思っていたところだったのに……。







 そして、やよいは既に声も上げていない。

 今でも四方八方からの感電攻撃は止まず、全身はズタズタに焼き尽くされていた。

 手足を失い、ダルマ状態になってしまったやよいの耳に、ようやく届いてくる声があった。

黄瀬やよい「…………」

 その声に、雷を受けながらもピクっと反応する。

黄瀬やよい「………」

 今まで何度も、ここで死ねば天国のお父さんに会えるかも、と思っていた。

黄瀬やよい「……」

 その反面、こんなところで死にたくないとも思っていた。

黄瀬やよい「…」

 やりたいこともあるからこそ、生きるか死ぬかを迷い始めていた時に、その声が届いたのだ。



 やよいは、もう迷わなかった。
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