殺戮の天使 Revive Return
□スリラーパーク
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闇市、南東地区。
ザックたちと別れたレイチェルとグレイは、掃除屋の少女を捜して町中を歩いていた。
アリエル・キャッスル。
チェシャ猫の情報によれば、懸賞金400万相当の実力を持っているとのこと。
レイ『それって強いってこと? それとも、掃除屋の腕?』
グレイ「どちらだろうなぁ。チェシャ猫のように職業の実績を示した額なら問題ないが、犯罪者としての犯罪の実力が示した額ならば……所詮20万相当の私では太刀打ち出来まい」
闇市で暮らしている住人は全員が犯罪者で、その大半に懸賞金が掛けられている。
一般的な平均で約100万キラン。
だがそれは、決して“殺しの実力”に比例しているわけではない。
グレイ「だが掃除屋の収入で生活しているのならば、それなりに顧客も多い証……。これは職業の実績で評価されていることを祈るとしよう」
レイ『神父様は、やっぱり戦いたくない?』
グレイ「必要とあらば殺意も抱こう。しかし、君やザックがいる前では……もう矢を構える手など引いていたいものだ」
レイ『…………』
そんな会話を交わす内に、二人は目的の場所へと到着した。
貸出用の巨大冷凍倉庫。
同じ形の倉庫が群れを成すようにズラリと並んでいる。
チェシャ猫によれば、掃除屋のアリエルは倉庫の一つを借りて死体を保管しているという。
レイ『……どうして保存してるんだろう』
グレイ「むぅ?」
レイ『だって、取っておく必要がないもの。神父様だって、掃除屋が回収する死体は“片付けるべき可燃ゴミ”って言ってた』
そもそも、レイチェルの遺体が残っているかどうかも賭けだったのだ。
燃やされてしまっていたら、そこで終わり。
しかし行き着いた先の答えは、アリエルが冷凍倉庫で保管している、というもの。
死体が残されていたことに安心したが、深く考えてみれば不思議なことだ。
アリエルは何故、回収した死体を燃やさずに冷凍保存しているのだろう。
グレイ「確かに妙だ……。何か別の目的があるのか…?」
レイ『……死体マニア…』
グレイ「もしそうだとすれば、君の体を私たちに返却してくれるかどうかは、また考えものだな」
歩きながらも会話を続けていたグレイの足が止まる。
到着した。
倉庫の扉に下げられたナンバープレートを照らし合わせて、ここが目的の冷凍倉庫であることを確認する。
アリエルが借りている、回収した死体を保存しておくための倉庫。
取っ手を掴み、重い扉を一気に横に引いた。
グレイ「ふ、んッ」
重苦しい音を小さく立てながら開いていく扉の隙間から、冷凍倉庫特有の冷気が流れ出てくる。
開いた扉の隙間に体を滑り込ませたグレイは、巻貝を持つフランス人形に憑依しているレイチェルを抱え直して内部を見渡した。
元々は、解体前の牛や豚を吊るしておくための倉庫だったらしい。
今この場所には、そんな動物たちの代わりに……。
レイ『死体が、いっぱい…』
グレイ「これは……なかなか捜し当てるのも難航しそうだ…」
老若男女、あらゆる死体が首の後ろにフックを掛けられて吊るされていた。
そのほとんどは、腕や脚が片方だけだったり、頭が割れていたり腐敗が進んでいたりと、既に損傷が激しいもの。
見た目の状態が良さそうな死体は、脇の下にロープを通されてブラ下がっている状態に近かった。
グレイ「必要最低限の損傷を避けているのか……」
レイ『どうして?』
グレイ「さぁな。もしかしたら君の推理していた“死体マニア”の説は、あながち間違いではないのかもしれないぞ」
あまりにも数が多い死体を前に首を巡らせるのも疲れてきた。
と、グレイが何気ない溜息を吐こうとした、その時だった。
レイ『ーーーあッ!!』
グレイ「んむッ?」
珍しく大声を上げて驚いたレイチェルに、溜息を吐きかけていたグレイも思わずビビる。
グレイ「ど、どうした…レイチェル」
レイ『あれッ、神父様! あそこッ』
グレイ「自分の体を見つけたのか?」
レイ『違うのッ。ほら、あれ!!』
とりあえずレイチェルが示す方に向けて駆けていくグレイ。
すると、グレイの目にも飛び込んできた。
レイチェルが……誰を、見つけたのか。
グレイ「ーーーッ。これは……」
記憶が確かならば……。
エディーとキャシー。
二人の死体は冷凍倉庫の中で、吊るされた状態で並んでいた。
レイ『エディーと…キャシーだ…』
グレイ「なんと……この二人の体まで回収されていたとは……」
あまりに予想外のことで、グレイはレイチェルを抱えたまま少しだけ呆然とした。
だからこそ、気配に気付いたのは奇跡にも近い。
いつの間にか……グレイの真後ろには誰かが立っていた。
グレイ「ーーーッ」
素早く後ろを振り返り、間合いを取る。
気配に気付いていなかったレイチェルが、グレイの腕の中で慌てた声を上げる中、グレイは背後に立っていた者の顔を確認した。
グレイ「……ッ。君は…」
そこにいたのは……。
ところ変わって、闇市の遊園地“マモンパーク”にて。
観覧車を降りたザックとチェシャ猫は、次なるアトラクションを求めて園内を歩いていく。
チェシャ猫「にゃーんにゃーん、にゃにゃ〜ん♪ 次は何に乗ろっかにゃ〜ん♪」
ザック「はぁ〜、腹も減ってきたなぁ。おい、あそこで売ってる長細いモン、あれ何だ?」
鼻歌を歌いながらパンフレットを眺めるチェシャ猫と、通路脇で売られていたチュロス(シナモンorチョコレート)に釘付けのザック。
そんな二人の背後に、人間に成り済まして堂々と歩いている平腹と田噛が続いていた。
平腹「楽しいなッ、田噛♪」
田噛「俺はもうしんどい…。早く帰りてぇ…」
平腹「え〜!? せっかく来たのにぃ!」
田噛「俺らの仕事はレイチェル・ガードナーの魂を獄都に葬送することだろ。もう見つかりそうもねぇと判断したら今日は帰るからな」
この任務は既に未達成で終わる予感がしていた。
観覧車の際にも思っていたが、今のザックからはレイチェルの気配が感じられない。
今回の平腹と田噛の任務先は完全に的外れだったようで、もう田噛は“ここにレイチェルはいない”と半ば結論づけていた。
田噛「時間の無駄だ。帰るぞ」
平腹「えー…」
田噛「えー、じゃない」
平腹「いー」
田噛「…………」
平腹「うー! うー!」
田噛「殴るぞ」
平腹「ごめんなさい…ッ!!」
右手を上げた田噛に対して、平腹が“ひゃあ!”と身を竦める。
と、その時だ。
二人の前方を歩いていたザックとチェシャ猫に変化があった。
チェシャ猫「あ!! にゃーにゃーッ、お兄ちゃん! ここ入ろうよぉ!」
ザック「あ? 何だここ?」
両手に別々の味のチュロスを持ちながら代わり番こに食べ比べているザックのパーカーを、チェシャ猫がテンション高く引っ張っている。
二人の目の前には、リニューアルの際に新しく導入されたばかりのお化け屋敷が公開されていた。
ザック「お化け屋敷ぃ?」
チェシャ猫「にゃーん! 面白そうッ。行ってみようよー♪」
ザック「暗い中を歩き回って、無駄にビビらせてくる連中に耐えろってのか? 怠りぃなぁ、おい」
チェシャ猫「これコースター式にゃんだって♪ 乗り物だから自分で歩かにゃくていいみたいだよ?」
ザック「ふーん」