殺戮の天使 Revive Return

□リビングデッド・ワークス
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 お化け屋敷の中で蠢いているお化けたち。

 その動きは鈍く、鈍く、とにかく遅い。

 さながら本物のゾンビのようだった。

田噛「……間違っちゃいないな」

平腹「あっはは! ゾンビだゾンビだ!」

 獄都に住まう者たちは、生者か死者かの分類上では死者になる。

 死者は生者に干渉することができず、命あるものに触れようとすればその身がすり抜けて触れることができない。

 無機物ならば触れることができるため、地面に足を付けて歩くことができるし、乗り物に乗ることも食べ物を食べることもできる。

 だが、それらの中でも内傷や外傷などを伴う有害な要素が含まれていた場合は、例え無機物が相手でもすり抜けてしまう結果になる。

 獄都の者たちは、現世の高層ビルから飛び降りても、戦闘機に跳ねられようとも、毒を盛られても、決してダメージを負うことはない。

 その上で、目の前で蠢くゾンビたちには干渉できるのか、といえば……普通にベタベタと触れ合うことができた。

平腹「生前は女の子かな? 見た目おっさんだけど」

田噛「外と中身は別人なのか……めんどくせぇ」

 彷徨うゾンビを捕まえて、頭や顎、胸などを軽く押すなり叩くなりして、死体の中から霊体を抜き出していく田噛。

 平腹は、自分に寄ってきた子供の霊体(が入ってる成人)を中心に浄化を繰り返していた。

平腹「どういうカラクリだ?」

田噛「浮遊霊なんてのは、いくらでも現世に溢れてる…。品質のいい死体を入手、改造して、そいつらを集めて動かしてんだろ…」

平腹「すっげぇな、それ! でも、それって可能なのか? 聞いたことないぞ?」

田噛「俺だってねぇよ。でも人間って奴らは、時代と共に馬鹿みたいに進歩していく……」

 ここには、子供でも大人でも関係なく多くの死体が集められている。

 だが中身に拘りはないようで、子供や大人の他に、犬猫などの動物から昆虫や鳥など、様々な霊体が入り込んでいる。

 彼らに敵意はないようで、アトラクションに乗っていた時に田噛に触れてきたように、ダメージを与えないのなら獄都の者でも触れられる。

 あくまでお化け屋敷の演出として機能しているようだが、それにしては技術が高すぎる気もした。

田噛「科学技術だか何だか知らねぇけど……馬鹿と天才ってのは、何処の世界でも紙一重みてぇだな……」







 一方で、ザックも無意識に浄化の活動を行っていた。

 先にも述べたが、ここのゾンビは頭や顎や胸などを軽くたたくだけで、その死体に入り込んだ霊体が抜け出ていくほど不安定な作りだ。

 レイの体を捜しているザックの前に、フラフラと出しゃばってしまったゾンビたちは……。

ザック「退けッ。邪魔だ!」

 蹴られ、殴られ、頭突きを入れられ、ある時は鎌まで振るわれ、二度目の死を迎えられている。

 と、その時だ。

チェシャ猫「お兄ちゃんッ、待って!」

ザック「あぁ!?」

 持ち前の足の速さを活かしてチェシャ猫が追いつき、ザックの目の前で携帯を見せた。

チェシャ猫「グレイ神父様から連絡! レイチェルの体を探してて、にゃにか進展があったみたい!」

ザック「あいつが…ッ」

 足を止めて携帯を受け取る。

 とりあえず耳に当ててみると、すぐにグレイの声が聞こえてきた。

グレイ『ザックか?』

ザック「…グレイッ。おい! そっちでレイの体は見つかったのかッ!?」

グレイ『すまんが、色々と事情が重なり、こちらでの回収は不可能だ。今は一旦そちらに向かって……』

ザック「だろうなッ。レイの体はこっちで見つけたぞ!」

グレイ『……どういうことだ?』

 ザックは事の次第を簡単に説明する。

 チェシャ猫と遊んでいたマモンパークのお化け屋敷に入った時、中にいるお化けの中でレイチェルを見かけたこと。

 それを追ってアトラクションの内部に乗り込んでみたら、レイチェル以外のお化けたち全員が動く死体であったこと。

グレイ『…動く…死体?』

ザック「こうなってくりゃ、あの時に見かけたレイが見間違いなんかじゃねぇって俺でも分かるッ。そっちでレイの体を見つけられなかったんじゃ尚更にな」

グレイ『仮に見つけたとして、どうやって回収するつもりだ? 動く死体の原理は分からぬが……』

ザック「んなモン俺だって知らねぇよ! 殴るなり蹴るなりすりゃ動かなくなってんだッ、それでいいだろ!」

 原始的だが、偶然にも浄化作業の前段階を踏んでいたザック。

 死体から離されて元の浮遊霊に戻ってしまった霊体たちは、今も何処かで活動中の平腹か田噛が見つけてくれるのを願おう。

 そんな手当たり次第に試していく他に方法がないことを知って、二人の会話を聞いていたレイチェルが割り込んできた。

レイ『ザック、乱暴はしないで』

ザック「……分かってる」

レイ『痛くしないでね?』

ザック「優しく扱ってやっから安心しろ」

グレイ『…………』

チェシャ猫「…………」

 ほんの数秒の沈黙が経った後、グレイの背後から路面電車のアナウンスが聞こえた気がした。

グレイ『東方地区に到着した。とりあえず、私たちもマモンパークに向かおう』

ザック「おー」

グレイ『それと、これは掃除屋のアリエルから得た情報だが……レイチェルの体は数日前に買い取られたため、こちらには残っていなかったというわけだ』

ザック「買い取られた? 誰にだ」

グレイ『科学を生業としているマッドサイエンティスト、ジェフリー・アーネット』

チェシャ猫「……ジェフリー…、アーネット…?」

 チェシャ猫の声色が変わる。

 何か思い当たる節に触れたようで数秒ほど黙った後、思い出したチェシャ猫は思わずピョンッと飛び跳ねてしまった。

チェシャ猫「ーーーあぁ!!?」

ザック「あ? 何だ、どうした?」

チェシャ猫「ジェフリー・アーネット! このお化け屋敷で働いてたスタッフの名前だよッ、お兄ちゃん!」







 ザックとの電話から数十分が経ち、レイチェルが憑依している人形を抱えたグレイも、ようやくマモンパークに到着する。

グレイ「思っていたより遠かったな」

レイ『ザックたちがいるお化け屋敷って、何処なのかなぁ?』

 園内に入り、お化け屋敷を探していく。

 そこそこ広いため到達も難しいかと思われたが、意外にも目的地はすぐに見つかった。

 システム点検と復旧作業中のため、現在立入禁止。

 そう書かれた看板の向こうで人払いがされたお化け屋敷のアトラクションが、異様な存在感を放っていたのだ。

グレイ「ここか」

レイ『まだ、ザックたちも中にいるよね…』

グレイ「そのはずだ…。さぁ、私たちも行くぞ」







 ザックは単独で動いていた。

 現在、チェシャ猫はレイチェルの体を捜すためにお化け屋敷の中を駆けてくれている。

 ザックはレイを捜していない。

 捜しているのは、スタッフのジェフだ。

ザック「あの野郎…ッ、何処に行きやがった…!」

 バイトスタッフとしてザックたちを迎え入れ、シレっとした顔で案内をしていた男。

 それがまさか、レイチェルの体を購入して動く死体に作り上げ、こんなお化け屋敷で働いていたなど。

ザック「とっ捕まえて…ブチ殺すッ」

 と、決意を言葉で表した瞬間……前方から見覚えのある男が一人、ゆっくりと姿を現した。
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