殺戮の天使 Revive Return

□殺天R2 JC3
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 新学早々、小テストが出された。

 小学校での学習をどれだけ理解しているか、という名目なのだが……レイチェルの通うクラスだけは異なっているようだ。

レイ「……これ…なに?」

グレイ「見ての通り、小テストの問題用紙だ。さて、君は満点を取れるかな?」

レイ「…テスト……?」

 いくつかの問題を提示すると、以下の通りだった。



 Q.次の計算式を解きなさい。

  1+1=



 ほぼ全てがこの程度。

レイ「…………」

 確かに小学生の問題なのかもしれないが、あまりにも極端すぎる。

レイ「これ、満点を取れない人っているんですか?」

グレイ「もちろん」

レイ「え?」

グレイ「ほら、そこに」

 そっと指を差した先にいる人物。

 グレイに続いて視線を向けてみれば、退屈そうに椅子を傾けては天井を仰いでいるザックの姿があった。

 チラリとテスト問題用紙を覗き見てみると、そこには信じられないものが書かれていた。

レイ「……先生、あれは何て書いてあるの?」

グレイ「さぁな。あれは私にも読めんのだ」

 まだ“11”などというベタな回答であった方が可愛げがある。

 しかしザックの回答欄には、およそ“文字”とは読めない何かがグチャグチャに書き残されていた。

 もはや“記号”か“呪術”の類いである。

グレイ「まぁ無理もない。ザックは文字の読み書きが出来んのだ」

レイ「え?」

グレイ「七回も留年している理由が分かったかね? 真面目に勉強しろと言っているのだが、なかなかやる気を出してくれんのだよ」

 日常会話に触れ続けていれば、書くことは出来ずとも読むことくらいは出来そうなものだ。

 そもそも人の言葉を話しているのだから身に付いていないはずがない。

 しかし、それでもザックは“学習すること”を放棄していた。

レイ「ザック」

ザック「あ?」

レイ「勉強、嫌いなの?」

ザック「……別に嫌いってわけじゃねぇよ」

レイ「じゃあ、どうして勉強しないの?」

 レイの真っ直ぐな意見。

 その質問に対する答えは、グレイたちからも訊ねられた時と同じで常に決まっている。

ザック「必要ねぇからだ。勉強できねぇからって死ぬモンでもねぇだろ」

 横着な答えだ。

 確かに死ぬことはないかもしれないが、生活していく上では非常に困難だろう。

グレイ「実を言えばな……君をこのクラスに招いた理由の一つは、このザックが原因でもあるのだ。レイチェル」

レイ「え?」

ザック「あ?」

 グレイの言葉に、先程まで退屈そうにしていたザックも顔ごと視線を向ける。

 招いた理由の一つ、ということは他にも理由が複数あることになる。

 が、ここで原因の一つを教えてもらえるのならレイチェルとしても嬉しいことだった。

 しかし、その内容というのが……。

グレイ「教師という立場から、今の彼を卒業まで導くことに壁を感じたのだ。そこで君には、生徒同士の立場からザックの教育を頼みたいと思っている」

レイ「……え?」

ザック「おいッ、待てバカ野郎!」

 グレイの意図など知らずとも、その申し出が普通ではないことくらい、さすがのザックにも理解できたようだ。

ザック「教師が生徒に教育を任せるだぁ?」

グレイ「もちろん教育だけではない。学校生活を送っていく中では、あらゆる場面でシンクロしてもらう」

ザック「ふざけんなッ。もしそんな馬鹿げたやり方に決めたとしても、もっと他に誰かいたはずじゃねぇのかッ」

 ザックは、性別も年齢も違いすぎる、と言っているのだろうが……。

グレイ「君以外に七度も留年を経験している二十歳近くの小中学生がいるとでも思うのかね?」

ザック「…ッ」

グレイ「ましてや、そんな適合者がいたとして……自分と同じ境遇の同性を相手に“お前を教育する”と言われて納得するのかね?」

ザック「ぐ…ッ」

 テスト問題以上の問題を突き付けられた気がした。

 ちなみにレイチェルは、これらの小テストで満点を取り、ザックは(奇跡的に正解が見つかって)18点を取った。

 だが小学校低学年レベルの問題で20点も取れないのでは中学一年として大問題である。

グレイ「明日以降から、ザックはレイチェルと同等扱いの授業にて、その学習速度にも付いてきてもらう」

ザック「あぁ!?」

グレイ「置いてけ堀にしないだけマシに思うのだな。お前の留年には学校側も頭を悩ませているのだ」

 そう言い残して、グレイは教室を出て行く。

 テストは終わり、休み時間に入る。

 最後までグレイに何か言おうとするも結局は何も浮かばず、ザックは力なく机に突っ伏していた。

 その傍らで……。

レイ「(……わたしみたいな新入生じゃなくて、もっと先輩の方から教育者を連れてきた方が普通なんじゃないかなぁ……)」

 と、レイチェルは一人で考えていた。

 それに、不思議に思う点はこれだけではない。

レイ「(七回も留年してたら、さすがに強制退学とかで家庭内学習とか別の学校に転校とか、そういう処置が取られるんじゃ……)」





 隔離校舎の廊下にて。

 グレイは、黙って教室内での会話を聞いていたダニーと顔を合わせていた。

ダニー「随分と無理矢理な理由ですね?」

グレイ「盗み聞きとは感心せんな」

ダニー「そう仰らずに。でも、これで上手くいきそうです」

グレイ「……さて、どうだろうな」

 二人の教師は、教室に残された二人を思って振り返る。

 ザックもレイチェルも気付いていないのだ。

 ダニーとグレイが抱え続けている、とある問題と、その解決法に。

ダニー「レイチェルなら大丈夫ですよ。きっと僕たちの期待に応えてくれる」

グレイ「それを願おう。とりあえず今は、ザックの教育が最優先だ」

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