殺戮の天使 Revive Return

□地獄の調理場
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 夢を見た。

 いつも見る、あの夢だ。

ザック「…………」

 しかし、今のザックにこの夢の真相を探る余裕はない。

 路面電車の中で眠ろうとして、結局は見ることが出来なかった夢。

 あの“白い男”を前にした今、その正体を突き止められないことが悔やまれた。

ザック「……てめえが何者か…。その話は“また今度”だ」

白い男「…………」

ザック「勝手に消えんじゃねぇぞ…。この夢から覚めて、俺はレイを助けに行かなきゃならねぇんだ」

白い男「…………」

ザック「…すぐに終わらせてくる。それまで大人しく待ってやがれ」

 ザックは夢から覚めていく。

 夢の世界から去る間際、あの白い男が………笑った気がした…。







 獄都、閻魔庁にて。

 ダニーとフリッツは肩を並べて走っていた。

 その背後から、赤黒い金棒を振りかざした谷裂が追いかけてくる。

谷裂「こ、のぉッ……待ちやがれぇえええッ!!!!」

フリッツ「いやぁッ。参ったねぇ、こりゃどうもッ」

ダニー「今までの獄卒とは威圧感が桁違いじゃないか……ッ。とにかく走るんだ!!」

 ダニーの手には、閻魔庁に忍び込んでまで探していた“あの情報”の最新版が記載された手記が握られていた。

 エディとキャシー。

 二人の逃走経路とそこから割り出された予想現在地が、その手記には正確に明記されている。

ダニー「危険も承知で入手したんだ。このまま黙って終われないよ!」

フリッツ「はは、言えてるねぇ。しかし、それだけじゃこのピンチは切り抜けないよ?」

 ものの数秒ほど稼げれば、ダニーはフリッツの力を借りて現世に戻ることができる。

 しかし、何の準備も整えないまま現世に戻ったとしても、追ってきた獄卒に捕まってしまうのがオチだ。

 現世ではフリッツは獄卒と干渉できないし、対抗できる武器の用意も完了していない。

 今この場で捕まるわけにも、現世に帰るわけにもいかず、ダニーには逃げる以外の選択がなかった。

ダニー「フリッツ! この状況で確認するのもおかしいと思うけど……さっき話してくれたことは本当かい?」

フリッツ「んん? ザックが見ている夢のことかい?」

 谷裂に見つかる前、フリッツはザックが見ている夢について懸念していることがある、とダニーに語っていた。

 その詳細を聞いたダニーも、ザックが見ている夢の真相について興味が沸いたらしい。

フリッツ「あくまでも僕も勝手な憶測さ。だが十中八九は間違いないだろうね」

ダニー「そうか……。もしもその予想が的中してた場合、僕にも何か出来ることがあるんじゃないか? このままじゃ、ザックは“完全”になれないんだろう?」

谷裂「逃げながらお喋りとは……ナメてくれるなよッ、亡者共ッ!!」

 谷裂の威勢が倍増し、そろそろ本気の全力で逃げなければ捕まってしまいそうな状況になる。

 今まで以上に速く走ることを意識しつつ、フリッツはダニーの質問に答えてくれた。

フリッツ「そうだねぇッ。現世にしかいられないザックに代わって、君には君にしか出来ない役割があるさ!」

ダニー「はは…、ならその役割を教えてもらおうかな! 後ろから迫る獄卒の魔手から逃れた後でねッ!」

谷裂「チッ、往生際の悪い…ッ。いい加減ッ、大人しく捕まらないかッ!!」







 血生臭い調理場の奥で、三人の少年少女が吊るされていた。

 両手首を縛られ、天井から吊るされた子供たち。

 その内の少年は……もうすぐ死んでしまうだろう。

少年「…………」

 少年は天井から下がる鎖に両手首を縛られた後、両方の脇腹に深い切り込みを入れられていた。

 彼の足元にはタライが置かれており、既に大量の血液が溜まっている。

 いわゆる“血抜き作業”が行われた状態だった。

アル「おぉ? そろそろ全身の血が抜け落ちる頃か……」

 足元のタライに溜まった鮮やかな血液で見えにくいが、少年の両足は足首から切り落とされている。

 よくこの状態で今まで生き存えてきたものだと感心するが、所詮は普通の命。

 もう……助からない。

アル「どれ、下ろしてみるか」

 鎖を解いた直後、少年の体がバシャァンッ!! と音を立てて自らの血溜まりに沈む。

 やっぱりピクリとも動かなかった。

アル「はぁ〜。この後の解体が面倒だが……まぁ仕方ない♪ 料理に手間は必要不可欠だッ」

 赤黒く変色した手首を持ち上げて、そのままズルズルと別の部屋に移していく。

 その様子を眺めながら、少年と同じように吊るされていた少女は目を見開いて黙っていた。

少女「………ッ………ッ……」

 というより、彼女は口元を汗拭きタオルで塞がれていて喋れないのだ。

 だから黙るしかない。

アル「さてと……次は」

少女「ーーーッ!!!!」

 帰ってきたアルの視線と、吊るされた少女の視線が交差した。

アル「血抜きを施さずとも食える方法だってあるんだ。何より……今回のメインディッシュは君ではない」

 そう言いつつ、アルは壁に立てかけていたチェーンソーを掴み取った。

 そして何の躊躇いもなく電源を入れて、やかましい刃を勢いよく回転させる。

少女「ーーーッ!!!! んんんんんんんんんんんんんんんんんんッ!!!!!!」

 何をされるのか想像したくもないが、あの刃が自分に向けられることは確実だろう。

 恐怖のあまり顔を涙と鼻水でグシャグシャにしながら、叫び声にもならない声を上げつつ、少女は頭をブンブンと振って抵抗した。

 失禁しつつシタバタと暴れてアルに歯向かうが、両手首を縛られて吊るされた状態では力も入らない。

 対するアルは、その手に持つチェーンソーの刃を悲痛な姿を晒す少女の膝元に当てて……。

 体重を乗せるように、一気に切断に掛かった。

少女「ーーーングゥゥゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッ!!!!!!!!」

 チェーンソーに押さえ込まれて身動きが取れなくなり、泣き呻きながら全力で首を振る。

 その仕草を黙って眺めながらも切断作業を止めようとしなかったアルは、不意に少女の口元に縛られたタオルを取ってやった。

少女「ーーーぶはッ!! あああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!!」

 しかし、再び口が塞がれる。

 今度はタオルではなく、アルのキスによって少女の口が塞がれたのだ。

少女「ーーーッ!!!??」

 だが次に聞こえてきたのは……。



 ブチブチブチッ、と何かを噛み切って咀嚼する音。

 それに合わせて、アルと少女の繋がった唇の間からドクドクと大量の血が溢れ出てくる。



少女「ーーーッ」

アル「アグッ、む、ぐむ、ゴフ」

 アルは、少女の舌を食べていた。

 その間に少女の両足の切断が完了し、片手間に電源を落としたチェーンソーを放り投げ、少女の後頭部を掴み上げる。

 第三者から見れば、自分の唇に押さえつける形の濃厚なディープキスに見えるだろうが、ビクビクと痙攣を繰り返す少女と、二人の口元から溢れる血液の量がその雰囲気をブチ壊した。

 舌を食べ終えたアルは、そのまま少女の歯茎を抉り、歯を噛み砕き、唇を引きちぎって、ようやく少女を解放した。

 当たり前だが……口元を全体的に削ぎ落とされた少女に、もう生命の色は宿っていない。

アル「男の肉は硬くて調理が必要だが、女の肉は踊り食いも出来る♪ 全身が驚くほど柔らかいからなぁ」

 そう言いながら、アルは最後の一人に目を向けた。

 先の二人と同様、手首を縛られて天井から吊るされた少女……レイチェルに向けて血塗れの顔で微笑む。

アル「だが生きた死体を食うのは初めてだ……。お前さんの味が楽しみだよ、レイチェル♪」
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