絵本の世界と魔法の宝玉! Second Season

□険悪解消!
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 鏡の前に立って身嗜みを整える。

 久しぶりの制服を着て、長い髪をポニーテールに結ぶ。

 大勢の家族みんなと朝食を食べた後、なおは意気揚々と玄関に立って七色ヶ丘中学へと登校していく。

緑川なお「行ってきまーす!」

 部活の強化合宿だと知らされていた緑川家のみんなは知らないだろうが、なおにとっては久しぶりの登校になる。

 ふしぎ図書館での療養期間を経て、ようやくの復帰を果たしたのだった。

緑川なお「(いい天気……ッ、風が気持ちいい〜♪)」

 すっかり元気を取り戻し、体力も万全状態で整っている。

 そんな小走り状態をキープしつつ学校に向かっていた際のことだ。

 前方の空を、何かがサァッと横切って流れていく。

 まるで夜空を走る流れ星のように光ったそれらは、見間違いでなければ地上に落ちていったように思えた。

緑川なお「……え…? 流れ星…?」

 普通に考えればそんなはずはないのだが、流れ星以外の何かが地上に落ちてきた可能性はある。

 そして、なおはそんな非日常的な出来事に心当たりがある。

緑川なお「(今のって……もしかして……!!)」

 あれが現出した際の気配を感じ取ることはできないが、現出した物が見えないわけではない。

 この時、なおは思った。

 自分は運良く、宝玉が現出した瞬間を目撃したのではないか、と。

 気配を感じることはできなくても、それを目視することは可能なのだから。

緑川なお「(確かめなくちゃッ!! もしも今のが本当に宝玉だったなら、あたしが回収に行かないと!!)」

 他の誰かが見つけて被害が出る前に。

 デッドエンド・バロンに先を越されて破壊される前に。

 チェイサーたち絵本の世界の誰かが駆けつける手間が省けるように。

 なおは、流れ星のようにも見えた何かが落ちていった場所へと進路を変えて、先ほどとは比べ物にならないほど足早に駆け出していった。

 しかし……。

緑川なお「……何…これ…」

 現実はそう甘くはなかった。

 落ちてきたものは宝玉でなければ、流れ星でもない。

 何かが落ちたと思われる地点に到着したなおが見つけ出したものは、緑色に輝く指輪だった。

 宝玉の現出を目撃したと思って急ぎ足だった分、落胆の色は隠せない。

緑川なお「……まぁ、しょうがないか。そう上手くはいかないもんね」

 拾った指輪を眺めては、右手の中指に嵌めてみたりと、何となく弄んでみる。

 あとで落とし物として届けておこうと思いつつも、なおは空を見上げながら思っていた。

緑川なお「(…でも……この指輪、何処から落ちてきたんだろう…?)」







 なおが七色ヶ丘中学に到着し、二年二組の扉を開ける。

 そこには、珍しく遅刻を免れたみゆきを始め、あかねたちも既に勢揃いしていた。

緑川なお「みんな、おはよう!」

星空みゆき「あ! なおちゃんッ!!」

黄瀬やよい「おはよう!」

 なおの事情を知っていたみんなは心から復帰を喜んでいるが、それを表に出し過ぎてはいけない。

 学校側は、ただの休学、という事情で長期休みを取っていると思われているのだ。

 命懸けの大怪我を負って、ようやく完治しての復帰という空気には不釣り合いだろう。

日野あかね「せやけど、まぁ良かったわ。これでやっと元通りやな?」

緑川なお「心配かけちゃってごめんね。それからみゆきちゃん、本当にありがとう」

 重傷だったなおの復帰が早かったのも、みゆきの能力が大きく活躍していた。

 その意味を込めてのお礼もあったが、当人のみゆきは気にしていない様子。

 とにかく戻って来れて良かった。

 それで十分だった。

天願朝陽「よぉ〜っすぅ♪ おっはよう!」

星空みゆき「あ、天願くん。おはよー」

 すると、ここで顔を出してきた天願もなおの復帰に気付いた様子で歩み寄ってきた。

天願朝陽「おぉ、緑川さん! 休学明けだねぇ?」

緑川なお「うん。勉強の遅れを取り戻すの大変そうだよぉ」

天願朝陽「はははッ、そりゃ確かに」

 そんな感じで陽気な雰囲気が流れていたと思われた、その時だ。

豊島ひでかず「おーっす」

星空みゆき「あ、豊島くん。おはよー」

豊島ひでかず「おう……。ん?」

天願朝陽「…………」

 席が近いため、みゆきたちの傍には自然と豊島も天願も集まる。

 必然的に顔を合わせることになる面子だが、みゆきはここで始めて気付くことがある。

星空みゆき「……?」

豊島ひでかず「…………」

天願朝陽「…………」

 席が近かったので何度か教室内での二人を見かけることは多々あるが、二人が話している光景は見たことがない。

 正確には、自分と一緒に転校してきた初日が最後のやり取りだったような気もする。

星空みゆき「……ねぇ、あかねちゃん」

日野あかね「ん?」

星空みゆき「豊島くんと天願くんって、何か喧嘩中だったりするのかな?」

 その言葉を聞いて、あかねは豆鉄砲を食らったハトのような顔を浮かべる。

日野あかね「みゆき……気付いてなかったんか…?」

星空みゆき「え…?」

日野あかね「豊島も天願も、転校初日の時から一言も話してないねんで? まぁ、初っ端から最悪な出だしやったし…無理もないねんけどなぁ…」

 天願は、自分の名前を変に指摘されることを嫌っていた。

 転校初日の自己紹介にて、それを知らない豊島はクラスメイト数人をリードするようにして天願の名前を嘲笑ったのである。

 それから天願との間には険悪な空気が流れ始め、五月も終わりに差し掛かろうとしていた今になっても雰囲気は続行中。

 転校初日の交流が最初で最後の会話になってしまい、今では顔を合わせても挨拶さえしない仲になっていたのだった。

黄瀬やよい「みゆきちゃんはみゆきちゃんで、いっぱいいっぱいだったもんね」

青木れいか「転校してきてから、すぐに宝玉に関わったようですし……気付かなかったのも無理ないですね」

星空みゆき「…………」

 みゆきは、チラリと隣りの席を見る。

 相変わらず周囲の状況に目を光らせて情報収集的な行為に及んでいるらしき天願と、その前の席でボーッと時間を潰している豊島。

 こんなにも席が近いのに、二人の間には見えない壁があるような完全なる隔たりが生まれている。

 せっかく同じクラスだというのに、何だか居心地が悪かった。

星空みゆき「……よし…ッ、わたし決めた!」

日野あかね「へ…? 何がや?」

 みゆきの言葉に興味を示した様子のあかねたち四人が注目する中、みゆきは今一番の目標を例の二人に聞こえないよう提示する。

星空みゆき「二人に仲直りしてもらうッ。天願くんと同じ転校生のわたしが、こんなにいっぱい友達できたんだもん。天願くんだって、早く仲直りしたいと思ってるはずだよ!」

 仲良しが一番、険悪な関係など解消するべし。

 みゆきはあかねたちに、豊島と天願の仲直り作戦を持ちかけたのだった。







 七色ヶ丘市内、山中の某所。

 おにぎりを食べながら七色ヶ丘の町並みを眺めていたアクアーニの傍で、マホローグは必死に何かを探し回っていた。

マホローグ「ない!! ないないないないッ、ない〜ッ!!」

アクアーニ「…………」

 アクアーニ、無関心を貫く。

 そんな時、先程まで近場で眠っていたらしいルプスルンが目を擦りながら近付いてきた。

ルプスルン「あぁ〜……腹が減って力が出ないぜぇ……」

アクアーニ「…………」

 アクアーニ、素早くおにぎりを完食。

 分け与える気は毛頭ないらしい。
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