絵本の世界と魔法の宝玉! Second Season

□宝玉だけは渡さない!
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 まだ七色ヶ丘市内にも宝玉が残されていた。

 その気配を察知した以上、今までのように誰かが被害に遭ってしまう可能性も否めない。

 最悪の事態を避けるためには、一刻も早い回収が望ましいのだが……。

青木れいか「(あかねさん。この状況でお二人を帰してしまうのは、さすがに不自然です)」

日野あかね「(しゃーない。そのまま外に連れ出して、回収したら即刻退散や)」

 宝玉発生の現状をみゆきから聞いたれいかは、あかねにも状況を説明。

 既にお好み焼きが焼けてしまっている以上、このまま手渡して“はい、さよなら”では、先程までの流れを考えて不自然に移るだろう。

 みゆきたちだけ宝玉探しに向かわせても問題はないのだが、少人数での探索は先に被害が出る可能性も高まるのだ。

青木れいか「今日は天気もいいですし、まだ夕方まで時間もあります。外で食べるのは如何でしょうか?」

豊島ひでかず「外で?」

天願朝陽「いいねぇ〜♪ 僕は賛成だからよ」

日野あかね「よっしゃ、ほな準備するから待っててな!」

 言うより早く準備に取り掛かる。

 二人の意見が何であろうと、適当に理由をつけて外に向かうつもりだったのだ。

 全員分のお好み焼きを手提げ袋に入れたあかねたちが、少しだけ急ぎ足になりつつ店を出て行く。

星空みゆき「(それで、場所はどの辺りなの?)」

 ウルフルンたちを連れているみゆきが行き先を先導する。

 豊島たちにウルフルンたちの存在がバレないように、今は肩から手の中へと移して運んでいた。

ウルフルン『そう遠くねぇな……。あっちだ』

 ウルフルンの案内に従いながら、みゆきたちが訪れた場所は公園だった。

 以前やよいがスケッチに訪れ、アカオーニと初めて出会った場所である。

緑川なお「それじゃあ、この辺で食べよっか」

天願朝陽「んー? 外で食べるって言うから、てっきり景色とか見晴らしの良い場所かと思ってたのになぁ」

豊島ひでかず「普通にいつもの公園じゃねぇか」

黄瀬やよい「ま、まぁ……そう言っても放課後だったし。あんまり遠くには行けないでしょ?」

 さすがに怪しまれるかとも思ったが、二人はあまり気にしなかった。

 適当に場所を見つけてお好み焼きを開けていく反面、みゆきたちは公園内に目を光らせていく。

 幸いにも人の気は少なく、誰かが先に見つけて被害が出るようなことはなさそうだった。

星空みゆき「(ウルフルン……どの辺かなぁ……?)」

ウルフルン『メチャクチャ近ぇが、この傍にはねぇな……。公園の中にあることは確実だ。探せ』

緑川なお「(そう言われてもなぁ……)」

 建前上、ここには食事に来たようなものだ。

 事情を知らない二人は既にお好み焼きに手を付けているが、みゆきたちは食事どころではない。

 だがここで食べなければ、みゆきたちが妙に浮いて見えるのは確実である。

 と、ここで……。

黄瀬やよい「あー、わたしちょっと食べ過ぎちゃったかなぁ〜」

緑川なお「あ! あたしもー。ちょっと待っててねぇ〜」

 満腹を装って、お手洗いに駆け込むふりをする。

星空みゆき「わたし、もうお腹いっぱいかもー。ここ公園だし、ちょっと体動かしてお腹減らしてくるねー!」

日野あかね「(みゆき……それはちょっと無理あるでぇ……)」

 全員が席を立って怪しまれないためにも、あかねとれいかが豊島たちと同席を続ける。

 やよいとなおがお手洗いに行っている……と見せかけて外からは見えにくい茂みの中などを探しに行き。

 みゆきは公園の遊具で遊ぶ……ふりをしながら、外からも見える公園内全体を見渡していく。

 今更だが、宝玉は手の平の中に収まるほど小さい。

 ザッと見わたす程度では簡単に見落としてしまうこともあるのだ。

豊島ひでかず「何か忙しねぇな?」

天願朝陽「別に全部食い尽くすつもりはねぇんだからよ。わざわざお腹空かせる必要もないんじゃない?」

青木れいか「えーっと……どうせなら、みんなで楽しく食べたいじゃないですか」

日野あかね「せやせや! ウチらもハイペースで食べる必要ないねんて。もうちょいゆっくり食おな?」

 あかねたちが可能な限り時間稼ぎをしようと頑張っている際、なおも苦戦を強いられていた。

 茂みの中を探し始めたのはいいが、なおの虫嫌いが災いを呼ぶ。

緑川なお「(ーーーッ!!!??)」

 豊島たちに気付かれないように声を押し殺しているが、それがなかったら何度絶叫しているか分かったものではない。

緑川なお「(宝玉〜ッ、何処にあるのよぉッ!!)」

 日頃から虫がいそうな場所には近付きもしなかった分、こういった物を探すことには慣れていなかった。

 虫を警戒しつつ、せめて範囲の絞られた公園内を探して回る。

 たったそれだけのことが、なおにとっては過酷な労働そのものだった。

 そんな時だ。

緑川なお「………あ…」

 なおの目に、見覚えのある物が映り込む。

 色や大きさは異なるが、形状は記憶と一致していた。

 中心が黄緑色に輝くその玉を手に取った時、なおは確信した。

 間違いない……これは宝玉だ。

緑川なお「…宝玉……、見つけた…ッ」





マホローグ「そうか。それはご苦労様♪」





 次の瞬間、なおは背後から現れたマホローグが大きな杖を振りかざす。

緑川なお「ーーーッ!!?」

 なおがその存在に気付くと、振り返るよりも早く身を守ることを優先して体を丸く屈める。

 大きな杖が振り払われ、茂みの外まで殴り飛ばされたなおだったが、ゴロゴロと転がって受身を取ったおかげかダメージは軽い。

マホローグ「チッ、勘が鋭い…」

 茂みから飛び出してきたなおの存在は、豊島たちも含めてみゆきたち全員が目撃していた。

 当然、みんなの目にはマホローグの姿も捉えられている。

星空みゆき「ーーーッ!」

黄瀬やよい「マホローグだ!!」

天願朝陽「……あいつは…ッ」

 天願は覚えている。

 七色ヶ丘中学生徒会主催の読み聞かせ会。

 あの時の会場に襲来してきた魔法使い姿の少年。

 分からないことばかりで理解が追いついていない天願にも、あの少年の危険度は察することができた。

 そしてあの時の会場に居合わせていたからこそ、この問題に立ち向かえるのはみゆきたちだけだということも察していた。

天願朝陽「……豊島…、ここは逃げるぞ…」

豊島ひでかず「はぁ? 逃げるって、何で…? つーか、何処に…」

天願朝陽「いいからッ、行くぞ!」

 豊島の手を引いて、天願はみゆきたちを残して公園を出て行く。

 そのことに関して豊島に何か言われようが知ったことではない。

 みゆきたちなら残していっても大丈夫。

 みゆきたちだからこそ、解決しなければならない問題が起きている。

 その答えを知りたいのは、豊島をリードしている天願も同じなのだから。







 なおを一撃で仕留められなかったマホローグは、確実に宝玉を破壊するためにも手段は選ばない。

 幸いにもここは公園。

 頼りになる素材に申し分ない。

マホローグ「いでよ! アカンベェ!!」

 滑り台、ブランコ、鉄棒、スプリング。

 ありとあらゆる遊具が何体ものアカンベェに変貌していく。

 特異能力も持っていない人間が相手ならば、戦力として不足はなかった。

星空みゆき「なおちゃん!!」

日野あかね「アカン! 早よ助けなッ!!」

 しかし、みゆきたちの行く先を邪魔するのもアカンベェたちだった。

 先にも言ったが、戦力に不足はない。

 なおだけではなく、みゆきたちの相手をさせても十分すぎる使い魔たちだった。

遊具アカンベェ「アカンベェ!!」

黄瀬やよい「邪魔しないで!」

 みゆきの光が、あかねの炎が、やよいの雷が。

 何体ものアカンベェに放たれていくものの、そのほとんどに効き目はない。

 避けられ、弾かれ、跳ね返され、アカンベェもあの手この手で対応してくるのだ。

マホローグ「ウヒヒヒッ。今回は僕の勝ちだ」

緑川なお「……ッ」

マホローグ「さぁ、宝玉を渡せ」

 杖を構え、威圧するようにして迫るマホローグ。

 しかし、なおは宝玉をしっかりと握り締めたままゆっくりと後退していくだけだった。

緑川なお「……渡さない…ッ」

マホローグ「…………」

緑川なお「絶対に…渡さない……!!」

マホローグ「そうか……。なら良い」

 マホローグの持つ大きな杖の先端、水晶が強く光り始める。

 表情に殺意はない。

 彼にとって殺人行為とは宝玉を壊すことに等しく、単純な作業の一つでしかないのだ。

マホローグ「宝玉ごと、粉々に吹き飛ばしてやるッ!」
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