絵本の世界と魔法の宝玉! Second Season

□魔句詠唱発動!
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 アクアーニが金棒ではなく小槌を使って攻撃したことに大きな意味はない。

 偶然、先ほど拾ったばかりの小槌を持っていたから、それを武器として咄嗟に用いた。

 だがその選択が、まさか無力状態だったウルフルンを復活させてしまうとは思いもしなかっただろう。

アクアーニ「……」

ウルフルン「まさかテメェに感謝する日が来るとはなぁ。おかげで完全復活だぜッ」

 吹き飛ばされていたアクアーニが体勢を立て直して立ち上がる。

 ふと見れば、吹き飛ばされた際に力んでしまったらしく、握っていた打出の小槌こと“チイサクナ〜ル”は潰れて壊れてしまっていた。

 とりあえず再び小さくなってしまう事故の心配もなくなったことを確認し、ウルフルンは腕に抱えていたみゆきを地面に下ろす。

 その肩に動物の姿に戻ったフランドールたちを乗せ、なおのところに急がせた。

ウルフルン「モタモタしてる場合じゃねぇぞ! 死なせたくねぇなら走れ!!」

星空みゆき「……ッ!! う、うんッ!!」

 頭が重くてクラクラするが、そんな症状に構ってなどいられない。

 マホローグに殺されかけているなおを助けるため、みゆきは急ぎ足で駆けつけていく。

 その様子を確認してみゆきの邪魔をしようとしたアカンベェも、その足をあかねの燃え盛る手によって掴まれていた。

遊具アカンベェ「アカッ!!?」

日野あかね「どこ行く気や? あんたの相手はウチやろがッ」

 しかし、マホローグものんびりと殺しにかかるわけではない。

 真下に横たわる目的を前に、何も躊躇う必要などないのだから。

 にもかかわらず、今現在までなおが延命し続けていることには理由があった。

青木れいか「なおーッ!!」

緑川なお「……ッ、れい…か…ッ」

 体を馬乗り状態で固定され、右手も関節ごと破壊され、左手で宝玉を背に隠すしか足掻く方法がない。

 そんななおを助けるため、真っ先に動いていたれいかが勢いのままにマホローグへと飛びかかった。

 なおの胸ごと宝玉を貫こうとしていた杖を掴み取り、何とか殺害を阻止しようとする。

マホローグ「ーーーッ!! 離せ、コラ!!」

青木れいか「離しませんッ!!」

マホローグ「こ、のぉッ!!」

 ひとまず敵意をなおかられいかに変更する。

 マホローグの殺意がれいかに向けられた瞬間、更なる襲撃がマホローグを襲った。

黄瀬やよい「れいかちゃん!! 避けてぇ!!」

青木れいか「……!! はいッ!」

マホローグ「ーーーなッ!?」

 杖を掴んでいたれいかが突然離れたことでバランスを崩し、マホローグはなおの体の上から転げ落ちる。

 その瞬間を見計らって、やよいの両手から雷の槍がマホローグに向けて放たれた。

黄瀬やよい「“ジャン拳・ピースボルグ”!!」

 放たれた雷の槍はマホローグに向かった。

 しかし、一度受けたことのある攻撃に何の対策も練らないマホローグではない。

 前回は雷に対して何の準備もしていなかったが、今回ばかりは違っていた。

マホローグ「ーーーふんッ!!」

 れいかから解放された杖を振るい、先端の水晶で雷の槍を受け止める。

 雷を反射させる魔法を施していたのか、やよいの放った雷は周囲へと無差別な落雷を降り注がせたのだった。

緑川なお「……!!」

青木れいか「ぁぁッ!!」

 巻き込まれないように撤退していたなおたちもその雷の凄まじさに耳を塞いで目を瞑る。

ウルフルン「チッ、次から次へと問題起こしやがって!」

 なおの命はとりあえず助かったようだが、これでは回収も困難だ。

 誰でもいいから宝玉の安全だけは確保に向かわなければならないところで、ウルフルンの前に新たな敵が姿を現す。

ルプスルン「腹ぁいっぱいで元気出てきたぜぇ!!」

ウルフルン「ーーーッ!!?」

 ルプスルンはアカンベェへの供給をやめていた。

 マホローグが不意を突かれたことでルプスルンにかけていた魔法が解けたのか、それともアカンベェに十分な力が行き渡ったのか。

 何であれ、もうルプスルンは自由を取り戻していた。

ルプスルン「アクアーニ!! ここはオレが引き受けてやるよッ。テメェはピンク頭のガキを仕留めてこい!!」

アクアーニ「言われずともそのつもりだ」

ウルフルン「……!! ま、待てッ!!」

 今のみゆきは鈍足だ。

 このままではなおの傍に到着するよりも早くアクアーニに追いつかれてしまう。

 だが、その窮地を助けに行こうとするウルフルンをルプスルンは許さない。

ウルフルン「退けッ!」

ルプスルン「オレたちは宝玉を壊してぇだけなんだよ……ッ。邪魔すんじゃねぇ!」

ウルフルン「勘違いしてんじゃねぇぞ? オレが邪魔なんじゃねぇ……テメェが邪魔なんだよッ、クソッタレがぁ!!」







 メチャクチャな落雷が周囲を襲う中、地面に倒れ込んでいたなおは左手に握り締めた宝玉の無事を確認する。

 使い物にならなくなった右手に激痛が走っていても、宝玉を見た時は不思議と安堵が込み上げてきた。

緑川なお「(よかった……。宝玉は、無事だ……)」

 すると、雷が空気を切り裂く音に混じって聞こえてくる声の存在に気付く。

星空みゆき「なおちゃんッ!!」

緑川なお「……ッ、みゆ、き…ちゃん…」

 指輪の力に溺れて前線に立っていたが、その力も失った。

 普通の女子中学生に戻ってしまったなおに、もう宝玉を守り抜く力も自信もない。

緑川なお「(渡さなくちゃ……ッ。あたしが動けなくなる前に…ッ、宝玉を……みゆきちゃん…に……!!)」

 右手は動かない。

 なおは、こちらに向かって近付いてくるみゆきに宝玉を手渡そうと、必死に左手を伸ばして地を這っていく。

 みゆきの影がなおに届くほど接近し、その宝玉がみゆきの手に渡るかと思われた…………その時だった。





 まるで意思を持つように、なおの左手から勝手に宝玉が脱出を謀る。

 その行き先はみゆきの手の中ではなく……なおの口の中。





星空みゆき「え?」

緑川なお「ぁ?」

 口の中に広がる異物混入の感覚をハッキリと理解する間もなく、グビッとそれを飲み下した。

 明らかに不自然だった宝玉の動きさえ判断が追いつかないというのに、なおの体は正直な判断を自然と下していく。

緑川なお「ーーーッ!!!!??? ああッ、が、はぁッ!! あがぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!!」

 直後、なおの体を内側からメチャクチャに攻撃するような、地獄の苦しみが襲いかかった。

 動かなかったはずのなおの右手が関節を無視してグルグルと動き、暴れ始めている。

 四肢が痙攣を起こし、首が折れないか心配になるほど異常な姿を晒していた。

 白目を剥いた両目が見る見る内に充血し、口の両端から血の泡を吹き始める。

星空みゆき「ーーーなおちゃんッ!!!!」

 目の前で起きた状況だったためにショックも大きな出来事だったが、だからと言って呆然としていられない。

 こういった状況を打破できる鍵を握っているのは、治癒能力を持つみゆきだけなのだから。

 ところが……。

アクアーニ「悪いが、その手は使わせない」

星空みゆき「ーーーッ!!?」

 みゆきの背後に立ったアクアーニが、そのままみゆきを押し倒して背中に乗り上げる。

 ただでさえ巨体のアクアーニに背中から覆い被され、みゆきは身動きが取れなくなってしまった。

星空みゆき「ーーーま、待って!! いやぁッ、離してぇ!!」

 みゆきの目の前で、なおが地獄の苦しみを味わっている。

 助けたくても、これでは能力も発動できない。

アクアーニ「あの雷の娘を救済する瞬間を見ていた。あの手で宝玉を取り込ませているというのなら、私にとっては不都合である」

 アクアーニはルプスルンと違って、自分から進んで人間の被害を出そうとは思っていない。

 しかし、それが宝玉に直接関わるというのなら別の話だ。

 なおが取り込みに成功するなら殺せばいいし、失敗するなら飛び立っていった宝玉を探して破壊すればいい。

 どちらにせよ果たすべき目的に変わりがないのなら、自分で手を下して命を奪わなければならない可能性を断つ。

 なおが生き残ろうと死のうとどっちでもいいアクアーニは、生き残る可能性が低い未来を選んだのだった。

 そんなアクアーニの目の前に、動物の姿だったフランドールたちが人型に変わって現れる。

バットパット「フロイラインから離れなさい!!」

フランドール「邪魔くせぇんだよッ、クソ野郎!!」

 みゆきの自由を取り戻させるため、二人はアクアーニに飛びかかっていく。

 しかし……。

アクアーニ「ウルフルンの幼馴染か」

 アクアーニに動揺はない。

 各々に手を伸ばし腕一本ずつで二人を掴み取った後、そのままみゆきと同じように地面へと組み伏せて押さえ込んだ。

アクアーニ「無力を知れ。君たちでは私には勝てないのである」

フランドール「ーーーッ!! 離せッ、ゴルァ!!」

バットパット「こ…このままでは……ッ…!!」

 なおが危ない。

 みゆきたちが動けない今、誰でもいいから動ける者はいないかと視線を巡らせる。

 やよいはマホローグに足止めされ、あかねは強化されたアカンベェの相手で手一杯だ。

 ウルフルンもルプスルンの相手から離れられず、アクアーニを退かせられる者は近くにいなかった。

星空みゆき「い、や……! いやぁ!! なおちゃんがッ。なおちゃん!! ぁ……」

 再びなおへと視線を戻したところで、みゆきは気付いた。

 なおの傍に、れいかが座り込んでいた。

 しかし、気付いたことというのはそのことに対してではない。

青木れいか「……な…お…?」

 先程まで地獄の苦しみを受けて無造作に暴れ続けていたなおの体は……。



 もう……ピクリとも動いていない。



星空みゆき「………ぇ…?」

 その状況に気付き、戦っていた他の全員も注目していく。

 なおの顔色に、もはや生気は伺えなかった。
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