絵本の世界と魔法の宝玉! Second Season

□宝玉発生?
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 脱衣所で着替えを済ませ、みゆきたちは宿泊部屋へと戻ってきた。

 ドライヤーを使って、髪を乾かすれいかと制服を乾かすみゆき。

青木れいか「はぁ…、いいお湯でした」

星空みゆき「池の水、冷たかったでした…」

 お土産を広げ、かんざしを手に取るやよいと髪の割れた小芥子を眺めるみゆき。

黄瀬やよい「お母さん、喜んでくれるといいなぁ」

星空みゆき「お母さん、怒らないといいなぁ……」

 大凶効果のせいなのか、髪を失った小芥子の頭が光を反射させて輝いていた。

星空みゆき「はぁ……大凶パワーって凄いかも……」

日野あかね「溜息なんて吐いたら、ハッピーが逃げてまうで?」

 布団を敷きながら、あかねはみゆきを励ました。

 いっそのこと枕投げでもして気分転換したいところだが、生憎と今日はクタクタだった。

 早々に電気を消して布団に入る四人だったが、そこはやっぱり女子中学生。

 本格的な睡魔が襲い来るその瞬間までは、もう少しお喋りに花を咲かせていた。

黄瀬やよい「こういう時って、みんなはどんなこと話すのかなぁ?」

日野あかね「そんなん決まってるやん。修学旅行の夜っちゅーのは、告白タイムが王道や」

青木れいか「告白タイム、ですか?」

 あかねが振った話題のトップバッターとして指名されたのは、本日最も不幸な目に遭い続けていたみゆきだった。

日野あかね「みゆきくん、好きな人を述べよー♪」

 あかねの口調にはお遊び感覚が滲み出ていた。

 にもかかわらず……。

星空みゆき「えッ!? すッ、好きな人ぉ!!?」

 当人のみゆきは、顔を真っ赤にして慌て出す。

 こちらはどう見てもお遊び感覚では済まない反応だった。

青木れいか「え!? みゆきさん、好きな人がいるんですか!?」

黄瀬やよい「わたしたちの知ってる人!?」

日野あかね「(…あー……、何となく想像できるわ……)」

 話題を振っておいて、他のみんなの食い付きが良かったのはいいが、あかねの内心は複雑だった。

 みゆきに関する心境など、あかねにとっては見え透いているようなものである。

 やよいの問いに素直に頷いたところで、その人物の特定も絞られていくが、あえて話題を長引かせるためにも、あかねは遠回しの予想を並べてみせる。

日野あかね「手近なとこやと、豊島か?」

黄瀬やよい「明るくて元気だもんね♪」

青木れいか「年上なら……入江会長?」

日野あかね「勉強できるし、人望も厚いでぇ〜」

黄瀬やよい「転校生同士だし、天願くんは?」

青木れいか「その可能性も大きいですね!」

 瞬く間に広がるみゆきの恋相手予想。

 だがいくら予想しようとも、結局は可能性の域を出ない。

 ここは本人の口から直接答えさせる他になかった。

黄瀬やよい「みゆきちゃん! ヒントッ、ヒント!」

星空みゆき「…う〜………」

 少し恥ずかしげだったが、それほど待つこともなくみゆきは口を開き始めた。

星空みゆき「…とっても身が軽くて……」

青木れいか「……」

日野あかね「(……ん…?)」

星空みゆき「……永遠の少年で…」

黄瀬やよい「……」

日野あかね「(…は……?)」

 やよいとれいかが固唾を飲んで答えを待ちわびる中、あかねの脳裏に疑問符の波が連鎖する。

星空みゆき「わたしの……好きな人は……」





星空みゆき「“ピーターパン”ッ!! いやぁあああッ、言っちゃったぁ!!!!」

日野あかね「ーーー何でやねんッ、アホかぁ!!」





 あかね、渾身のツッコミとしてみゆきの顔面に枕を叩きつけた。

星空みゆき「ーーーぶへッ!!」

日野あかね「予想斜め上にも程があるわ! 何やねんッ“ピーターパン”てッ!!」

青木れいか「……ですが、確かにわたしたちの知ってる方でしたね…」

黄瀬やよい「会ったことはないけど…みゆきちゃん、嘘は吐いてないもんね…」

 みんなが思ってた以上に、みゆきの心は純真だった。

 ただそれだけの話である。

星空みゆき「あ、そっか! ピーターパンだって絵本なんだし、もしかしたら絵本の世界にいるかもしれないんだ!!」

 あかねに叩きつけられた枕を除けながら、やよいの言葉を聞いたみゆきは瞳を光らせて起き上がる。

 絵本の世界を捜せば、本物のピーターパンにだって会えるかもしれないのだ。

青木れいか「みゆきさんは、本物のピーターパンをどのように想像しているのですか?」

 この言葉の真意は、絵本の世界の住人と自らの予想が大きく外れている可能性を示唆している。

 みゆきをガッカリさせたいわけではないが、今現在のみゆきの脳内を知っておくのも重要だと思われた。

星空みゆき「えーっとね♪ わたしがベッドで眠ってる時に、ネバーランドから妖精さんを連れて窓から部屋に入ってきてくれるの!」

黄瀬やよい「お話の冒頭と同じだね。それで?」

星空みゆき「わたしに魔法をかけてくれて、一緒にネバーランドまで連れて行ってくれるの! そこで思いっきり遊ぶんだぁ♪」

日野あかね「絵本の中の人物像まんまやな。それなら絵本の世界で本物も見つけられるやろ」

星空みゆき「でしょでしょ! はぁ〜、会えたら何て言おうかなぁ〜♪」

 その後、しばらくみゆきとピーターパンの初対面時会話予想が繰り広げられる。

 しかし、その会話の節々には少しずつ引っかかる点が見受けられた。

 二人の出会いの図。

星空みゆき「“ピーターパン、わたしをネバーランドに連れて行って!”“あぁ、お安い御用だぜ。はぐれないように、しっかりついてきな!”」

青木れいか「……? 何だか、随分と男らしい方ですね?」

 ネバーランドで遊んだ後の帰り時。

星空みゆき「“楽しかったわ、ピーターパン…。でも、そろそろ帰らなくちゃいけないの…”“チッ、仕方ねぇな。家まで送ってやるよ”」

黄瀬やよい「……何か、聞き覚えある口調だね……?」

 帰宅して本当の別れ時。

星空みゆき「“ねぇ、ピーターパン。わたしたち、また会える?”“当たり前だろ。オレはいつだってオマエの傍から離れやしねぇさ”」

日野あかね「……オレ…? オマエ…?」

 そして、別れ際の最後の一言。





星空みゆき「“あばよ、みゆき! また会う時も迎えに来てやるぜッ、ウルッフフフ!!”」

日野あかね「ーーーって!! そいつの中身、ウルフルンやないかぁぁぁいッ!!!!」





 あかね、本日二度目の枕投げ。

星空みゆき「ーーーぶべらッ!!」

日野あかね「せやけど、よかったわぁ〜……。やっぱいつものみゆきやった……」
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