絵本の世界と魔法の宝玉! Second Season

□出会いと別れ?
1ページ/4ページ


 物陰に隠れ、みゆきたちの姿を盗み見ながら、伊勢崎は手元のノートパソコンを操作して資料を取り出す。

伊勢崎青葉「………やっぱり…」

 既視感の正体に気が付いた。

 伊勢崎は、実際にみゆきたちと顔を合わせるのは初めてだったが、彼女たちの姿は捜査資料の中に偶然にも写り込んでいたのだ。

 伊勢崎が調査しているのは世界各国で頻発している変死の怪事件。

 逆に言えば、その事件現場の証拠写真にみゆきたちが写り込んでいるということ。

 これは本当に偶然だろうか。

伊勢崎青葉「この京都でも事件は起きて、実際に現場に居合わせてるわね……。意図的に現場へと足を運んでるなら、彼女たちは怪事件に関与してるってこと……? でも、どうやって……」

 信じられないことだったが、可能性は十分に高かった。

 みゆきとやよい、そしてアカオーニの姿が写り込んでいる事件現場の証拠写真は手元にある。

 れいかのものだけ伊勢崎は持ち合わせていなかったが、それ以上に重要な立ち位置にいるのはあかねの存在だ。

 かつて某動物園を調査していた際に、彼女と思われる人物に尾行されたことがある。

 当時、伊勢崎は当然の如くあかねの存在に気付いていたのだ。

伊勢崎青葉「好奇心旺盛な一般人の遊びかと思って野放しにしてたけど……こうなってくると見過ごせないわね…。こうなったら、私も好きに動かせてもらおうかしら。これで尾行はお互い様よ…」

 怪事件の真相を追っていた伊勢崎の中で、みゆきたちの存在が大きく膨らんでいく。

 中吉……重要な事柄に進展なし、大きな出来事のきっかけを掴む。

 昨日のおみくじ結果に寄れば、伊勢崎にとって重要な進展になるかもしれないのだ。







 宝玉の回収に間に合わず、京都で犠牲者を出してしまった。

 その現実を前に、再びみゆきの心が揺らいでいく。

星空みゆき「わたしのせい、かな……。わたしが大凶だったせいで、また間に合わなかったのかな……」

日野あかね「みゆき…、そんなんちゃうで!」

黄瀬やよい「こんなのどうしようもないよ…。わたしたちには、宝玉が発生しても気配を掴むことなんて出来ないんだもん!」

青木れいか「気を落とさないでください。これはみゆきさんのせいなんかじゃありません」

星空みゆき「みんな……」

 これまでの事情を知らず、みんなの会話を聞いていただけのアカオーニでも気付いた。

 原因はよく分からないが、宝玉回収の失敗についてみゆきが責任を感じているということを。

アカオーニ「今回は俺様にも非があるオニ。気にすることないオニ」

黄瀬やよい「…? アカオーニ、何かやってたの?」

アカオーニ「京都の町に浮かれて記念撮影してたオニ。歴史ある町は鬼としてテンション上がっちゃうオニ」

日野あかね「緊急事態になにしてんねん!」

アカオーニ「ウッハハハハ! ごめんオニ!」

 緊張感がないというか、危機感がないというか、かなり重大な失態と思われる場でもアカオーニは笑っていた。

 もしも彼が大凶を引き当て、みゆきと同じ目に遭ったとしたら凹むだろうか。

 否、きっと今と同じように自分の失態を自分でおかしく思って笑い転げているだろう。

日野あかね「みゆき、昨日も言うたやろ?」

星空みゆき「え?」

日野あかね「溜息吐いたらハッピーが逃げる。落ち込んでる時も一緒や。いつだって笑顔を絶やさへんのが、みゆきの取り柄やろ?」

黄瀬やよい「宝玉を回収しなくちゃならなかったのに、こうしてアカオーニも笑ってるよ?」

青木れいか「この程度の失態、大凶なんかではありません。例え運のない出来事が連続したとしても……」

 あかねがみゆきの手を取って、いつものように歯を見せながら“にしし”と笑う。

 いつもみゆきがみんなに向けている笑顔と同じように、人を元気にする笑顔だった。

日野あかね「大凶なんて関係あらへん。ウチらもみゆきも、一緒におったら大吉や!」

星空みゆき「あかねちゃん…。みんな……ッ…」

 笑う門には福来たる。

 毎日が笑顔だったみゆきにとって、本当なら大凶など何も関係ないほどの幸福を招いている。

 文字通りの結果に囚われて気持ちで負けてしまえば、不幸の連鎖は止められないのだ。

 だからこそ、こうして笑顔の力で大凶を克服したみゆきたちの前に……。

アカオーニ「オニ? 何か来たオニ」

黄瀬やよい「え? あッ!!」

 当初の目的だった、舞妓さんだって姿を現してくれるのだ。







 祇園でのみゆきたちに、隠れながらも一部始終付き合っていた天願たち。

 桜野はみゆきも自分と同じく大凶を引いていたことを知り、気が付けば大凶と記されたおみくじ結果の用紙をビリビリと破り捨てていた。

天願朝陽「準一くん?」

桜野準一「アホらしい。こんなんに縛られて、俺もどうかしてたわ。思えば俺なんか、この顔のせいで生まれた時から大凶やねん。この程度の不幸、今更やったわ」

 大凶を自らの手で抹消した桜野の顔は、ほんの少しだけ清々しかった。

 元が強面なせいで、その変化が分かりづらい点は生まれつきの大凶なのかもしれないが。

天願朝陽「……まぁ、前向きになったんなら良かったよ」

桜野準一「すまんなぁ。俺の大凶に何度も巻き込んでしもうて」

天願朝陽「そんなの気にする必要ないって♪ 何でか分かるか?」

桜野準一「……?」

 破られた大凶の紙片を一枚拾い上げ、天願も便乗して更に細かく破り捨てた。

天願朝陽「“友達”だからよ。そんだけだ♪」

桜野準一「……そっか」

 そんな彼らにも、最後の最後で幸運が訪れた。

 既に十分以上も先生の傍を離れてしまったが、この間に先生は別の問題児たちの指導に当たっていたらしく、天願たちのことに構っていられなかったのだ。

 結果、嘘を吐いて抜け出していたことに関する罰則はなし。

 明日の大阪では、他の生徒たちと同等の自由行動が約束されたのだ。







 舞妓さんとの記念撮影を終え、アカオーニとの別れが来る。

 ここに宝玉がなくなってしまったのなら、もう京都にいる必要はない。

黄瀬やよい「わたしたち、まだ明日も修学旅行なの。一日だけでも、一緒に回れたりしない?」

アカオーニ「う〜ん……楽しそうだし、回ってみたいオニ。でもごめんオニ。俺様、明日は用事があるんだオニ」

 それは、京都で宝玉が発生するよりも前のこと。

 宝玉探索のため山形の奥地まで足を運んでいたアカオーニとマジョリーナは、こんな会話を交わしていた。

マジョリーナ『ないだわさ! 大事に取っておいた飴がないだわさ!』

 宝玉探索の休憩中、マジョリーナはおやつの時間にと取っておいた飴を食べ尽くしていた。

 そんな時、大阪に珍しい飴があると聞いて宝玉探しどころではなくなったほど。

 このタイミングで日本の京都とロシアのモスクワで同時に宝玉が発生してくれたのは幸運だっただろう。

アカオーニ『京都オニ!! 俺様が行くオニ!』

マジョリーナ『ぐぬぬぬ……ッ、こんな時に……!』

アカオーニ『明日にでも付き合ってやるオニ。今は宝玉を最優先オニ』

マジョリーナ『言っただわさ! 約束だわさッ、明日は大阪に集合だわさ!』

 こうして、マジョリーナは現在ロシアまで宝玉を探しに出かけているらしい。

 だが、思い返せば既に気配が断たれており、マジョリーナから何の朗報もないということは……向こうでも京都と同じ結果を迎えたのかもしれない。

青木れいか「ということは、アカオーニさんも明日は大阪に?」

日野あかね「偶然やな! ウチらも明日は大阪やねん!」

アカオーニ「オニ! それ本当オニ!? それなら俺様、もうちょっと残るオニぃ!」

黄瀬やよい「やったぁ! ねぇねぇッ、一緒に回ろう!」

 言うが早いが、やよいはアカオーニの手を取って京都の町を歩き出す。

 昨日のガールズトークでの言及を思い返すと、当人にその気があるのかないのか疑問が浮かんでくるほどだ。

日野あかね「ホンマしゃーないなぁ」

青木れいか「さすがに宿泊先までご一緒できませんが、ここは一緒に回ってみましょうか」

星空みゆき「そうだね。あ、待ってよー! やよいちゃーん!」

 こうして、京都を巡る修学旅行の二日目は幕を下ろした。

 明日は修学旅行の最終日。

 あかねの故郷、大阪がみゆきたちを待っている。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ