絵本の世界と魔法の宝玉! Second Season

□通天閣崩壊?
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 大阪の観光名所として知られる展望塔、通天閣。

 その正面に立ち並んだみゆきたちは、通天閣の内部に発生した宝玉の気配を再確認していた。

黄瀬やよい「アカオーニ。間違いないの?」

アカオーニ「間違いないオニ。この中に宝玉が現れたオニッ」

天願朝陽「……なぁ…、さっきから何言ってんの…? 宝玉とか、気配とか、現れたとか……」

 これも問題だった。

 宝玉の事件に、いまだ関係のない天願まで巻き込むわけにはいかない。

 みゆきたちの知る由もないところで少なからずの事情を察している天願だったが、この事柄の核心まで迫っているわけではないのだ。

 分からないことも多く残された状態で、ここで別れるのもおかしな話だろう。

 と、そんな時だった。

日野あかね「見つけた!! みゆきーッ!」

星空みゆき「……あ…ッ、あかねちゃん…!」

 マジョリーナの案内で、あかねたちも通天閣の前に到着した。

 大阪城で別れて以来の合流だったが、今はそれどころではない。

 みゆきの方には天願が、あかねの方には桜野が同行している。

 関わらせるわけにはいかない以上、ここはれいかに足止めさせておいて、みゆきたちのみで通天閣の内部を探索するしかない。

青木れいか「お二人とも。少しよろしいでしょうか?」

 思い至ったが吉日、れいかが二人を連れ出そうと声をかけた……その瞬間だった。





ルプスルン「プークスクスクス!! 何をモタモタしてやがんだ、小娘どもッ」





 大阪の上空より、デッドエンド・バロンの三幹部たちが舞い降りる。

星空みゆき「ーーーッ」

日野あかね「あんたら……ッ、何でここにおんねん!!?」

アクアーニ「君たちが宝玉を見つけ次第、横取りしてでも破壊を試みるつもりで控えていた」

マホローグ「でもなぁ……。なかなかお前たちが通天閣に入ろうとしないせいで、僕たちも痺れを切らしたのさ」

ルプスルン「所詮、今まで通りの早い者勝ちってわけだ。悪いが宝玉は頂いていくぜ!」

 そう言うと、ルプスルンたちは我先にと通天閣へと向かっていった。

 ルプスルンは塔の中腹あたりの窓ガラスをブチ破って、アクアーニは変なところで真面目に真正面から、マホローグは大きな杖を使って展望スペースまで飛行していく。

 このままでは三幹部に宝玉を先取りされ、回収も間に合わずに破壊されてしまうかもしれない。

星空みゆき「大変ッ、急がなくちゃ!」

天願朝陽「何だよ…今の……」

桜野準一「いったい…何が起きてんねん……」

 二人はマホローグを見たことならあった。

 しかし、人狼のルプスルンも青鬼のアクアーニもこの時になって初めて見る。

 だが例え初めて会った二人だとしても、天願と桜野はマホローグから得た第一印象の影響で察していた。

 あの三人は、みゆきたちにとって何らかの“敵”であるということを。

アカオーニ「とにかく俺様も入るオニ! アクアーニに負けていられないオニ!」

黄瀬やよい「あ、待ってアカオーニ! わたしも行く!!」

 アカオーニの腕に縋り付き、やよいもアクアーニを追って通天閣へと入っていく。

マジョリーナ「あたしはマホローグを追いかけるだわさ!」

 一方で、箒に飛び乗ったマジョリーナが展望スペースまで一気に向かっていったマホローグを追いかけていく。

 残されたみゆきたちも、各々の行動を始める前に天願たちへと向き直った。

星空みゆき「ごめんね。上手く説明してあげられないのッ」

日野あかね「ウチら、ホンマに急いでんねん。せやからそっちで避難しててやッ」

青木れいか「ここは危険かもしれません。ご一緒できなくて恐縮ですが、わたしたちのことは心配いりません」

 みゆきとあかねがルプスルンを追いかけるために従業員用の外階段を駆け上がっていく。

 最後に残されたれいかは天願たちに避難するよう念を押した後、やよいたちと同じく正面から通天閣へと駆け込んでいった。

天願朝陽「…………」

桜野準一「…………」

 残された二人は、無言で顔を見合わせる。

 分からないことばかりだし、事情は何も知らない。

 何となく分かっていることは、みゆきたちは宝玉と呼ばれる物を探し集めていること。

 その目的はあの三人も一緒だが、みゆきたちとはその先の目的が異なるようで敵対していること。

 読み聞かせ会で偶然聞いてしまった情報によれば、この世界とは別の絵本の世界と呼ばれる場所が大きく関係していること。

 全てが中途半端で、ひどく大雑把にしか把握していないものばかりだったが、たった一つだけ明確なこともある。

桜野準一「同い年の女の子が頑張ってて、俺らが尻尾巻いて逃げるっちゅーのは……確認するまでもなくカッコ悪いとちゃうか?」

天願朝陽「ははッ、そういうことだからよ♪ 悪いね、青木さん! 僕らもみんなを追いかけるわッ」

 分からない現実があるなら打破すればいい。

 同意見を照らし合わせた二人は、れいかの言いつけをあえて破って走り出す。

 通天閣内部の明確な目的地など知る由もない二人は、とりあえずれいかの姿を捜しに向かった。







 そして、これまでの一部始終を遠目から観察し、ようやく通天閣の正面に到達した伊勢崎も、まるで信じられないようなものを見たような表情を浮かべていた。

伊勢崎青葉「………ッ…」

 夢や幻ではない。

 人狼や青鬼の怪物はいたし、魔法使いのような少年は杖に乗って空を飛んだ。

 そして、ここまで監視し続けていたみゆきたちは通天閣の内部に多方面から侵入している。

伊勢崎青葉「(…この大阪で……、いったい…何が起きてんのよ……ッ)」

 考えていても仕方がない。

 伊勢崎は、最も遅く通天閣へと入って天願たちを見失わないように、自身も急ぎ足で通天閣へと踏み込んでいく。







 通天閣の外から窓を破って現れたルプスルンは、その容姿も理由の一つとして観光客から注目されていた。

 突如として塔の外から飛び込んできた人狼を前に、何かの撮影かイベントだと思い込んでいるらしく、周囲からはカメラ撮影のフラッシュが止まらない。

 だが、そんな勘違いなどルプスルンの知ったことではなかった。

ルプスルン「宝玉の気配……この近くにはねぇのか……」

従業員「お、お客様ッ。何をされているのですか!!」

ルプスルン「あん?」

 騒ぎを聞きつけた従業員が、外側から割れた窓ガラスとルプスルンの姿を見つけて、驚愕と困惑が入り混じった様子で近付いてきた。

従業員「他のお客様のご迷惑になります。すぐにこちらへ……」

 次の瞬間、ルプスルンが勢いよく腕を振るって近付いてきた従業員の体を薙ぎ払う。

 紙くずのように吹き飛ばされた従業員は、そのまま壁に激突した衝撃で気を失ってしまった。

 そして……ルプスルンの周囲は瞬く間にパニックの嵐と化した。

ルプスルン「邪魔くせぇ……ッ。殺されたくねぇなら近付くな! 死んでも構わねぇなら飛びかかってきやがれ!!」

 ルプスルンの放つ狂気を感じて、通天閣から逃げ出そうとする観光客たち。

 彼らがルプスルンに近付いたところで、右から左に、下から上に、または向かって来た方向へとそのまま突き飛ばすように。

 一般人の無事など一切考えず、ルプスルンは周囲の人間を片っ端から容赦なく薙ぎ払っていった。

 先ほどの従業員と同様に気絶するだけならマジだったが、中には受身も取れずに手足を骨折した者や、ルプスルンが入ってきた窓の外まで突き飛ばされてしまった者までいる。

 そして……ルプスルンの目には両親と別れて泣いている幼い少女の姿でも、他の一般人と同等の存在として映り込んでしまう。

ルプスルン「耳障りだ、クソガキ」

 大声で泣いている少女にも、今までと変わらない威力を誇る腕を振り被った。

 その小さな体で受身も取らずに突き飛ばされては、最悪の場合は即死も免れない。

 否……いつだってルプスルンは、例え誰が死のうと知ったことではない性格の持ち主である。

ルプスルン「ーーー死ね」

 振りかぶった腕が勢いよく放たれ、少女の体に向けて真っ直ぐに放たれていく。

 しかし、その腕が少女の体を薙ぎ払うことはなかった。





 光の速さで駆けつけたみゆきが少女を庇う。

 燃え盛る両腕を伸ばしてあかねが、ルプスルンの腕を掴み取る。

 ギリギリのタイミングで、二人は少女の救出に間に合ったのだ。





 右肩と左手首にメキッと嫌な音を響かせたあかねだが、怒りに燃える表情に苦痛の色は浮かばない。

日野あかね「…あんた……、ホンマにクズやな…ッ」

ルプスルン「プークスクスクスッ。何だぁ? そりゃあ褒め言葉か?」
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