絵本の世界と魔法の宝玉! Second Season

□一時休戦?
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 左右に大きく揺れる通天閣が、交戦中のみゆきとルプスルンにも現状を伝えていた。

星空みゆき「……ッ!」

ルプスルン「何だぁ…?」

 最初は地震を疑ったが、それにしては揺れが突然すぎる。

 加えて、先程から妙に聞き覚えのある声が通天閣の内部全体に響き渡ってくるのだ。

通天閣アカンベェ『ア……カン……ベェ……!』

星空みゆき「…この声……、もしかして…ッ」

ルプスルン「マホローグの野郎ッ! 宝玉を壊す過程にオレらも組み込むつもりかッ。ふざけやがって!」

 状況を理解したところで、もはや宝玉を求めて争っている場合ではない。

 このままでは崩壊も確実な通天閣の内部に残っていては、それこそ命の保証はないのだ。

星空みゆき「あかねちゃんッ、逃げよう!」

日野あかね「…………」

星空みゆき「あかねちゃん…? ぁ…ッ!!」

 あかねがダウンしたところで選手交代とばかりにルプスルンと戦っていた。

 そのためあかねの治癒を後回しにしてしまったが、それがここに来て災いする。

 複雑骨折していたあかねの両腕は、既に全体が青黒く染まり、通常の倍以上に腫れ上がっていた。

日野あかね「…アカンわ……。これ……痛みで、気ぃ…失いそうや……」

 あかねの額には滝のような汗が浮かび、いまだに絶えず流れ続けている。

 常に歯を食いしばって激痛に耐えている様は、見るからに動けそうもなかった。

星空みゆき「……ッ。あかねちゃん、ちょっとだけ我慢してねッ」

 しかし、ここで見捨てる選択肢などない。

 腕の治癒を施していれば脱出できる時間は確保できない。

 脱出が最優先事項になっている今、あかねを助けるためはみゆきが運ぶ以外に方法はないのだ。

 重傷の両腕は動かすだけで痛みを伴うが、この際そのくらいは我慢してもらう他になく、みゆきは痛みに堪えるあかねをお姫様抱っこして立ち上がった。

 だが……。

ルプスルン「待ちやがれッ。マホローグの野郎も気に食わねぇが、まずはテメェらから片付けてやるッ」

星空みゆき「ルプスルンッ。今はそんなこと言ってる場合じゃないよ! 早く脱出しなくちゃ、あなたたちも巻き込まれちゃう!」

ルプスルン「知ったことか! オレたちの目的は宝玉の破壊ッ。イコールッ、それを取り込んでるテメェらを殺すことも目的の一つだ!」

 みゆきの両手はあかねを抱えてるため塞がっている。

 ここで襲われても、みゆきに対抗できる手段までは残されておらず、完全に無防備な状態だった。

ルプスルン「無様に死に晒せッ。まずはテメェん中の宝玉から破壊してやらぁ!!」

 叫び、鋭い爪を構え、勢いよく前進したルプスルン。



 その真上から、ついに崩壊を始めた通天閣の瓦礫が襲いかかる。



ルプスルン「ーーーッ!!?」

 咄嗟に逃げようと急停止したものの、常にグラグラと揺れ続けている通天閣の床はそれを許さない。

 ルプスルンが揺れる床に足を取られて転倒しようとも、襲いかかる瓦礫の波は容赦なく崩れかかってきた。

ルプスルン「クソッ…タレがぁ……ッ…!!」

 自分が襲いかかった一般人……あの少女も、襲いかかられた瞬間は、こんな気持ちだったのだろう。







 一方、アクアーニに圧倒的な戦力差を見せつけられ、初っ端から打つ手などなかったやよいとアカオーニ。

 そんな彼らだが、この通天閣崩壊の現状に助けられたような展開が広がっていた。

アクアーニ「……通天閣が崩れるか…」

黄瀬やよい「そんなぁ…ッ」

アカオーニ「このままじゃ、みんな助からないオニ……!!」

 敵も味方も関係ない。

 この建物の内部にいるだけで、誰も助かる保証はない。

 しかし、アカオーニにはこの建物の内部にいる全員を助けることが出来る方法を知っていた。

 そして、その方法を知っている者がもう一人……。

アカオーニ「……こ…、こうなったら…、俺様が……ッ」

アクアーニ「やめておけ、アカオーニ」

 アカオーニが、その方法を実行しようとした時だった。

 その行動を、アクアーニが落ち着いた声で制止する。

 その手には既に武器である金棒は握られていない。

アクアーニ「君の魔句詠唱は、ここで使うべき力ではないだろう」

アカオーニ「で、でもッ」

アカオーニ「一時休戦だ。君も含め、全員が無事に脱出することを最優先する。再戦はそれからだ」

 アカオーニとアクアーニの知っていた、この状況でも全員を助け出すことができる方法。

 それは、アカオーニの魔句詠唱だった。

 しかし魔句詠唱の発動にはマジカルエナジーが必要不可欠であり、その方法を用いるということはアカオーニが少なからずの犠牲になることを意味している。

 そしてアクアーニがこの場で使うことを勧めなかったということは、それだけ消費するマジカルエナジーが多大であることも予想できた。

アクアーニ「やよい、と言ったな?」

黄瀬やよい「え?」

アクアーニ「君の名だ。有する力は雷なのだろう? ならば通天閣の通信網をジャックし、この建物の内部にいる者たち全員とコンタクトを取ることは出来るのであるか?」

 やよいには思いつきもしなかった応用法。

 確かに、あらゆる電気系統を手中に出来るのならば、電波ジャックなど容易なはずだ。

黄瀬やよい「…や、やってみる……ッ」

アクアーニ「よろしい。では私について来い。まずは通天閣の内部事情を知り尽くすぞ」

 やよいを抱え、アカオーニはアクアーニの後ろに続いていく。

 ここが資材の搬入口と経路であるならば、通信網を制御している作業室にも直結しているはず。

 まずはそこを目指して、三人は一時休戦中の今を共にした。







 ルプスルンの額に血が流れる。

 しかし、それは彼の血ではなかった。

ルプスルン「…な……んで…ッ……!?」

 あかねを抱えたまま、ルプスルンに襲いかかる瓦礫の嵐を、みゆきは背中で受け止めていた。

 足が馬鹿みたいに震え、瓦礫の破片で切り裂かれた頭部から血が滴り、身を呈して庇ったルプスルンの顔に落ちていく。

星空みゆき「は……早く…退いて…ッ」

ルプスルン「ーーーッ」

 みゆきの下から這い出たルプスルンの前で、ようやく全身の力が抜けたみゆきが瓦礫の下敷きになる。

 その瞬間に抱えていたあかねを外に投げ出し、あかねまで下敷きになる結末まで防いでみせた。

日野あかね「み……、みゆ…きぃ…ッ」

 しかし、これで誰も動けなくなった。

 瓦礫の下敷きになったみゆきと、両腕という荷物をぶら下げたあかねの他、助けられてしまったルプスルンを差し引いて。

ルプスルン「……おい…、何でオレを助けやがった…」

星空みゆき「…………」

ルプスルン「くたばる前に答えやがれ! 分かってんのかッ!? オレは今ッ、テメェらを殺そうとしたんだぞッ!!」

日野あかね「間近で…ギャーギャーうるさいわ……ボケェ…」

 その声に振り返ったルプスルンは、床を這いながらみゆきに向かうあかねの姿を目撃する。

 両腕が使えないというのに、それでもみゆきを助けようと諦めずに動き続けていた。

 今も尚、その両腕には気を失いそうなほどの激痛が走っているというのに。

ルプスルン「……何だってんだよ…テメェら…。頭おかしいんじゃねぇか?」

日野あかね「そんなん、知らんわ……。せやけど、ウチ…ここでみゆき…、失いたくないねん……。死なせたくないねん…ッ」

 助けられそうになって、別の誰かを助けに行って、結局誰も助けられずに終わりを迎える。

 そんなバッドエンドはみゆきに似合わない。

 例え両腕が使えなくても、例え代わりに自分が死んだとしても、あかねはみゆきだけは助け出したかった。

日野あかね「みゆきに助けられた命やで……。さっさと逃げや…、ルプスルン…ッ」

ルプスルン「……ッ」

 と、その時だ。

 電気経路が断たれて使い物にならなかったはずの通信網が復活し、通天閣内部に緊急放送が流れる。

黄瀬やよい『みんなーッ!! 三階まで頑張って集合してーッ!!』

アカオーニ『そこからなら、全員が脱出できる道を確保できそうオニーッ!!』

アクアーニ『急ぐであるッ。完全崩壊は近いぞ!』

 やよいとアカオーニ、そしてアクアーニの行動によって脱出口が確保された。

 それを聞き、あっちの状況を知ったルプスルンに、もう自身のプライドも立場も何も考える余裕はなくなった。

ルプスルン「ーーーッ。クソッタレがぁ!!」

 直後、みゆきを下敷きにしていた瓦礫を力任せに蹴り飛ばし、グッタリした様子のみゆきを肩に担ぎ上げる。

 そのままあかねの体も乱暴ながら、先ほどのみゆきと同じように両手でしっかりと抱き上げた。

日野あかね「痛だだだッ!! もうちょい優しく扱いや!」

ルプスルン「うるっせぇ! クソッ、こんなのオレらしくもねぇってのにッ!!」

 悪態を吐きながらも、ルプスルンはみゆきとあかねを運びながら三階を目指して走り出した。

ルプスルン「これは休戦だッ。仲直りしたわけじゃねぇことを忘れんなよ!!」
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