絵本の世界と魔法の宝玉! Second Season

□波乱の体育祭!
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 本日、七色ヶ丘中学の体育祭。

 リレー競争に大玉転がし、騎馬戦に玉入れ。

 生徒たちの熱い声援の中で、今は綱引きが行われていた。

 そんなグラウンドの様子を、校庭の外から観察している者がいた。

伊勢崎青葉「……今日は体育祭か…」

 みゆきたちの修学旅行にて、追い続けていた変死の怪事件の根幹に触れた。

 それが厳密に何なのかまでは理解していない伊勢崎だったが、みゆきたちが事件の鍵を握っている可能性を考慮して独断の監視を続けていたのだ。

伊勢崎青葉「(…私の思い過ごしならそれでいいわ……。でも、彼女たちが怪事件に関わってるなら……重要参考人として接触する…。それだけよ…)」







 綱引きが行われている最中。

 この次に控えている女子リレーの準備として、しずくは柔軟体操を始めていた。

 内側から自己主張の激しい胸を思いっきり反らして天を仰いだ、その時だ。

森山しずく「……?」

 キランッ、と一筋の光が空を駆けていった気がした。

森山しずく「(こんな昼間に、流れ星……?)」

 見つけてしまっては気になって当然。

 光の筋を目で追いかけてみると、ちょうど校舎の傍らに落ちていったように見えた。

 次のリレーまで少しだけ時間もある。

 しずくは、好奇心が示すままに足早に駆け出すと、その流れ星モドキの正体を見つけ出した。

森山しずく「……何だろう…、これ……。宝石…?」

 手の平に乗るほど小さく、パチンコ玉よりは大きな玉。

 玉の中心は、今日の晴天を表すかのような見事な空色に輝いていた。

 しずくの“宝石”という例えは間違いではないが、正式名称は少し異なる。

 当人は知る由もないが、その玉は見る者が見れば分かったはず。



 偶然にも、しずくは宝玉が発生する瞬間を目撃したのだった。



森山しずく「あ、いけないッ。そろそろ戻らなくちゃ!」

 とりあえず拾った宝玉はポケットに入れて、しずくは再びグラウンドへと戻っていった。







 綱引きの種目を終えたみゆきたちが応援席へと戻ってくる。

 クラスと学年に分かれてのリレーは、既に男子の部を冒頭で終えている。

 この後は女子リレーが控えていた。

日野あかね「ウチらのリレーが始まるまで、まだ時間あるな?」

黄瀬やよい「まずは一年生だね」

 応援席に戻ってきたみんなの中で、女子は次のリレーに備えて準備に入る。

 残された男子は、ゆっくりと女子たちのリレーを応援するために席に着いていた。

桜野準一「…………」

天願朝陽「よーッス♪」

桜野準一「ん? あぁ、朝陽か。どないしたん?」

天願朝陽「別に。遠目から見てたら一人だったみたいだからよ。そんだけ♪」

桜野準一「……そっか…。おおきに…」

 こういった行事の中でも、桜野は孤立していた。

 自分の周囲だけ避けるようにして人がいなくなり、例えいたとしても桜野と目を合わせようとせずに関わりを絶っている。

 そんな状況に気付いた天願は、自分のクラスの応援席を離れて隣りのクラスの応援席へと乗り込んできたのだった。

 座る場所は当然ながら、堂々と桜野の隣りである。

桜野準一「次の女子リレー。一年のとこに、しずくが出るんやったな?」

天願朝陽「そうそう♪ 僕たちにとっちゃ、それが狙い目だからよッ。応援してやらなきゃな」

桜野準一「せやな」

 二人が応援席から見守る中、しずくの参加する女子リレーが始まった。

 次々とバトンが渡されていき、最後にはアンカーを任されているしずくへとバトンが回っていく。

 しずくがそれを受け取り、彼女の走り込みが始まった。

天願朝陽「行けぇーッ! しずくッ!」

桜野準一「負けんなやぁー!」

 しずくの走りは順調だった。

 後ろを走っている者たちとの距離は遠ざかっていき、前を走る者たちとの距離を少しずつ縮めている。

 しかし、確かに遅い走りではないが別に速いというほどでもない。

 しずくは今の順位をキープしたまま、ゴールラインへと踏み込んだのだった。

桜野準一「何や? アンカー任されたっちゅーから、てっきり足速いんかと思うたわ」

天願朝陽「…………」

桜野準一「……? 朝陽、どないしたん?」

天願朝陽「…いや……しずく、あんまし疲れてなさそうだなぁ、って思って…」

 言われて気付いた。

 しずく以外の選手は膝に手をついて肩で息を繰り返したり、座り込んだり寝転がったりして天を仰いでいる者もいる。

 そんな中で、しずくだけが涼しげな表情のまま完走者の列へと余裕の足取りで向かっていた。

桜野準一「……ホンマやな…。全然疲れてないわ、あれ…」

天願朝陽「手ぇ抜いてたのかな…?」

桜野準一「何のためやねん」

天願朝陽「………さぁ…?」







 一年女子のリレーが終わり、次は女子リレーの順番が回ってくる。

 れいかは、なおから預かっている黄色のリボンを結び直して応援席から立ち上がった。

青木れいか「さぁ皆さん、わたしたちも行きましょう」

 と、その時だった。

ジョーカー「盛り上がってますねぇ〜♪」

青木れいか「…………」

 れいかの“真下”から声が聞こえてきた。

 無言のまま視線を下ろすと、れいかの座っていたパイプ椅子の下に寝そべるジョーカーが頭を出して見上げてきていた。

 れいかの股下に位置する場所に頭があり、仰向け状態のジョーカーがれいかと目を合わせると声も出さずに笑い始めた。

青木れいか「あ、いけない。靴ひもが解けていました」

 そう言って、れいかはパイプ椅子を少し移動させて再び座り込む。

 パイプ椅子の足がジョーカーの首にかかり、その上に座ることでギロチンと同等の効果を生むように。

ジョーカー「ーーーぐぇッ!!!!」

青木れいか「……? おかしいですね……椅子が揺れるので上手く結べません」

 れいかが座るパイプ椅子の足に首を絞められ、手足をバタつかせて暴れるジョーカー。

 そんなジョーカーの首に体重をかけるようにして、解けてもいない靴ひもを結ぶ演技を続けるれいか。

 ジョーカーが泡を吹いた辺りでパイプ椅子から腰を上げると、そのままジョーカーを放置して女子リレーへと向かっていった。

チェイサー「ニーヤニヤニヤ、お気の毒〜♪」

ピエーロ『随分と手厳しいのだな』

 その様子を一部始終眺めていたチェイサーと、チェイサーの影に隠れていたピエーロが呟いた。

 奇抜な格好をしているチェイサーだったが、不思議と周りの生徒たちからの注目は集めていない。

 チェイサーの存在に誰も気付いていないのか、気付いていたとしても気にしていないのか、今のチェイサーは存在感そのものが曖昧に思えた。

 そしてピエーロは、魔王と同じく影と同化する能力を生まれながらに持っている者だったようだ。

 そういった絵本の世界の住人もいることを、既にあかねから聞いていたれいかは驚かない。

 むしろ、ジョーカーが苦しんでいる時に助けに入らず、ただ眺めているだけに徹していた二人の選択に少し驚いた。

青木れいか「意外ですね。助けに入らなかったのですか?」

チェイサー「普段は清楚な氷のお嬢さんが、わざわざ手を下すようなことなら、きっとジョーカーが先に手を出したんでしょ〜?」

ピエーロ『まぁ、やり過ぎないように配慮だけはしてやってほしい。それ以外なら、我らが介入する義務もない』

 ある意味、手厳しいのはピエーロたちの方なのかもしれないが、彼らがここにいる理由を考えればそんなことも話していられない。

チェイサー「緊急事態だよ、氷のお嬢さん」

ピエーロ『この近辺に宝玉が現れた。我らは探索を開始する』
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