絵本の世界と魔法の宝玉! Second Season

□鬼ごっこ再開!
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 みゆきたちを退けたルプスルンは、校舎内の何処かにいるアクアーニとマホローグを思い浮かべる。

 あの二人が宝玉の破壊に成功していようが失敗していようが、ルプスルンのやるべきことに変わりはない。

 どうせ最後には全ての宝玉を破壊する予定なのだ。

 今の内から体内に宝玉を取り込んでいる者を殺しても何も問題はないだろう。

ルプスルン「そうと決まりゃ、宝玉は二人に丸投げしちまうか……。獲物を狩るのは十八番だぜ」

 みゆきとあかねは弱っているだろうが、ピエーロが駆けつけている。

 絵本の世界で暮らしていたからこそ知っているが、ピエーロは今の魔王が支配者になる以前に君臨していた皇帝である。

 倒せないことはないかもしれないが、ルプスルンだけでは時間をかけてしまうだろう。

 ここはやよいとれいかのどちらかを狙って仕留めた方が容易いはずだ。

 そう思い至ったものの、ルプスルンが実際に行動に起こすことはなかった。

ルプスルン「…………」

 彼の前に、向こうから先客として現れる者がいたのだ。

 ジャラジャラとスカート風の鎖の腰下で揺らし、不気味な笑顔を浮かべた化け猫の頭だけが、空中にフワフワと浮いている。

チェイサー「ニーヤニヤニヤ♪ 見〜つけた♪」

ルプスルン「…チッ……、鬱陶しいモンが出てきやがった…」

 猫とオオカミ。

 相容れない二人が、七色ヶ丘中学校内の廊下で衝突する。







 ルプスルンが獲物として定めていたやよいとれいか。

 そんな彼女たちに、ルプスルンから宝玉を丸投げされたマホローグは敗れていたが、もう一人は今も顕在している。

 掃除用具を武器として手に取り、宝玉を所持する一年女子を守る二年男子を目の前にして。

アクアーニ「…………」

天願朝陽「(この青鬼、やっぱり…しずくの持ってる宝玉が狙いだよな…? あれが何なのか分からないけど、星空さんたちが追ってるのも事実みたいだからよ……)」

桜野準一「おい、朝陽…。どないするんや…?」

 アクアーニから目を逸らさず、一人で何かをブツブツ呟いている天願に桜野が話しかける。

 その間も、二人は背中で守っているしずくへの気配りも忘れてはいない。

 だが、何をどう考えてもアクアーニに太刀打ちできるとも思えなかった。

アクアーニ「その程度の得物で、私の前に立つ意味を分かっているのであるか?」

天願朝陽「……はは…、これは戦うための武器じゃない…。身を守るために防具だよ…」

アクアーニ「……? どういう意味であるか?」

天願朝陽「だからよ……、つまり……」

 天願たちはアクアーニと戦うために武器を取ったが、この程度の武器で妥当に立ち向かえるはずがない。

 しかし、武器とは何も戦うためだけにあるわけではない。

 身を守るための防具として扱うこともできるなら、それを持って戦う以外の方法として……。



天願朝陽「ーーー二人ともッ!! 逃げろぉぉぉおおおおおッ!!!!」



 武器という名の防具を振りかざし、目の前の敵から逃走する手がある。

 既に逃走の準備体勢を整えていた桜野が、天願の叫びを聞いた瞬間にしずくの手を取って走り出す。

 こんな展開を予想していなかったしずくは少しだけ遅れを取ったが、すぐに体勢を立て直して廊下を走る二人に並んでいく。

 背後から、金棒を担いだアクアーニが教室からゆっくりと出てくるところだった。

アクアーニ「やれやれ……。この学校内で鬼ごっこをするのは、久しぶりであるな」







 ルプスルンに襲われた際、しずくの足はリレー以上の走力を出していた。

 実は抜群の運動神経を持っているしずくだったが、好きと得意は異なるもの。

 しずく本人が走ることを進んで望んでいなかったため、女子リレーでは女子中学生の平均程度の走りしか見せていなかったのである。

森山しずく「先輩ッ、これからどうするんですか? あの青鬼…多分、わたしたちを追ってきますよ…ッ」

 それについても考えがあった。

 解決策とは呼べないが、もうどんな手段を使っても天願たちがアクアーニに敵う方法などない。

 ならば、アクアーニに立ち向かえる者たちへとバトンを渡せばいいのだ。

 それこそ、今回の体育祭のリレー競技のように。

天願朝陽「宝玉を星空さんたちに届けようッ。星空さんたちなら、きっと宝玉について何か知ってるはずだからよ!」

桜野準一「そんなら、俺らは青鬼から逃げつつ、星空さんや日野さん、そこいらの人を捜さなアカンねんな? こりゃ大変やッ」

 幸いにも、しずくもみゆきたちの顔を知っている。

 更に言えば、こちらが三人なのに対して相手はアクアーニのみ。

 一緒に行動せずとも三手に別れれば時間も稼げるはずだ。

桜野準一「しずく、宝玉は俺に預けときぃッ」

森山しずく「えッ、で、でも……ッ」

 アクアーニの狙いが宝玉だと分かっている以上、宝玉を持つ者が第一に狙われる。

 それに、足の速いしずくが持っていた方が最も安全に思われた。

桜野準一「青鬼は、しずくが宝玉を持ってるモンやと思うて追ってくるはずやッ。加えて、あいつは俺らを殺す気もないって言うてたッ」

天願朝陽「……そっか…ッ。それじゃあ、このまま青鬼がしずくに追いついたとしても、宝玉を持ってないなら危害は加えないッ。それに、しずくを追いかけている間に僕らは星空さんたちを捜しに行けるッ」

森山しずく「わたし、足の速さなら自信ありますッ。ちょっとくらいなら、追いつかれない自信もあります!」

 時間稼ぎ作戦。

 天願たちを無意味に殺す気がないアクアーニは、宝玉を持っているしずくを追ってくるはず。

 そこで、まずは宝玉を桜野に預けて三人はバラバラに逃走。

 しずくが全速力で走ってアクアーニを撒いている間、天願と桜野がみゆきたちを捜しに行く。

 例えしずくが追いつかれたとしても、既に宝玉を持っていないのならばアクアーニは手が出せないはず。

 全ては三手に別れてから、みゆきたちを見つけ出すまでの時間に勝負が決まるのだ。

桜野準一「完璧な作戦やッ」

森山しずく「そ、それじゃあ……先輩ッ、これを!」

 しずくは、宝玉を桜野へと託した。

 そのやり取りを見届けた天願が、三人解散の合図を送る。

天願朝陽「しくじるなよ!」

森山しずく「はい!」

桜野準一「任せときぃ!」

 その会話を最後に、三人はバラバラになって行動する。

 ルプスルンの奇襲を見た手前、みゆきたち以外の誰かに助けを求めては無駄な被害を招く可能性もあった。

 逃走範囲は、あくまで校内のみ。

 だがそんな狭い逃走範囲の中で、桜野の作戦に唯一の穴があることを三人は知らなかった。

アクアーニ「……む? 三手に別れたか…、なるほどな…」

 追っていた目標たちがバラバラに行動を始める。

 その様子を見ていたアクアーニは、迷うことなく桜野を追っていく。

桜野準一「ーーーい゙い゙ッ!!?」

アクアーニ「逃がさん」

 桜野たちは、アクアーニが“宝玉の気配”を察知することができることを知らなかった。







 ポタポタと血が滴り落ちると同時に、チェイサーが膝を崩して廊下に倒れる。

 別にルプスルンから攻撃を受けたわけではない。

 なおのために、常に魔句詠唱を発動中の副作用が発生したのだ。

チェイサー「(くそ……ッ、こんな時に……!)」

 吐血する口を押さえるチェイサーを眺め、ルプスルンは笑いを通り越して呆れていた。

ルプスルン「おいおい……張り合いのねぇ狩りほど虚しいモンはねぇだろうが……。狩人を楽しませるならウサギになれってんだ。縁側で日向ぼっこしてる猫野郎なんざお呼びじゃねぇんだよ」

 だが、無視するつもりもなかった。

 ピエーロと違って脅威ではないのなら、チェイサーは弱った“敵”に過ぎない。

 そして、弱っているとは言え“敵”である以上は見逃す理由など何もなかった。

ルプスルン「悪りぃが目障りだ。とっとと死ね」

 鋭い爪を構え、自由に動くことも出来なくなったチェイサーに魔の手が伸びる。

 チェイサーへとルプスルンの手が届くかと思われた、その瞬間。





 階段を駆け下りてきたれいかの氷結魔法が、ルプスルンの腕を一瞬で凍てつかせる。





ルプスルン「ーーーッ!!?」

 突然のことに対応できず、ルプスルンはチェイサーの前から三歩ほど後退するのが精一杯だった。

黄瀬やよい「見つけたッ」

青木れいか「チェイサー! 大丈夫ですかッ」

 マホローグを打ち倒した後に、やよいとれいかはルプスルンを見つけ出した。

 間一髪でチェイサーを助けることに成功した二人だが、次の敵はマホローグのように上手く倒せるかは分からない。
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