絵本の世界と魔法の宝玉! Second Season
□体育祭の閉会
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ジョーカーとルプスルンの交戦が続く中、やよいもれいかもチェイサーもそれを眺めていることしか出来ない。
三人とも既にボロボロで応戦することが難しかったのだが、それ以外の理由もあった。
ジョーカーが圧倒的な力でルプスルンを攻め続けているのである。
ルプスルン「クソ、が……ッ! うねうねうねうね動き回りやがってッ!!」
爪を構え、腕を振るい、我武者羅な攻撃を休まず繰り出すルプスルンだったが、それをジョーカーは涼しげな表情でヒョイヒョイと避け続けていく。
その間にも、トランプカードで目暗ましを起こしたり、現出させた剣で攻撃を試みたり、笛の音を聞かせて集中力を削いだりと、実に多種多様な戦術で交戦していた。
黄瀬やよい「すごい……」
青木れいか「…………」
チェイサー「さっすがぁ〜♪」
猪突猛進な戦術で力任せの攻防を得意とするルプスルンにとって、ジョーカーのような頭脳を用いた戦術者は相手が悪すぎる。
単純な戦闘でしか戦えない以上、常に先を読まれて攻撃が全く当たらないのだ。
ルプスルン「クソッタレがぁ!! ムカつくムカつくッ、ムカつくぜぇッ!!」
ジョーカー「んふふふッ。ほらほら、頭に血を上らせると、判断力が疎かになりますよ〜?」
ルプスルン「やっかましいッ!!!!」
だが、ジョーカーの指摘は正確だった。
ルプスルンが逆上すればするほど攻撃は単純になり、さぁ避けてください、と言わんばかりの戦闘を繰り返す。
もしもやよいたちが万全の状態で戦えたならば、今のルプスルンなど相手にならなかったかもしれない。
尤も、ここまでヘトヘトなルプスルンというのも珍しいのだが。
ジョーカー「(さて、そろそろ限界が近いようですし……ここで一気に畳み掛けますか)」
ルプスルンとの戦闘に終止符を打とうと思い至ったジョーカーだが、その行動は予期せぬ展開に阻害された。
森山しずく『ーーーが、かっ……は、ぁぁッ!! あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!!』
七色が丘中学校の校舎全体に、しずくの大絶叫が反響してきた。
ジョーカー「……ッ!?」
黄瀬やよい「今の声……ッ」
青木れいか「…まさか……ッ…」
チェイサー「……ッ」
ルプスルン「………チッ…、そういうことか……」
何度も経験している展開を察し、ルプスルンはジョーカーへの敵意を鎮めて冷静に判断する。
今ここで戦闘を続けたとして、その結果に意味はない。
今の悲鳴は、おそらく宝玉を飲み込んだことによる苦しみを味わった証。
もしも取り込みに成功してしまえば、発生した宝玉の破壊は叶わずに取り込んだ者の殺害に移行しなくてはならない。
この疲弊した状態では第三者に妨害されて、それも叶わないだろう。
もしも取り込みに失敗してしまえば、発生した宝玉は回収も破壊も関係なく別の場所へと飛んでいく。
ルプスルン「(どの道、オレは手詰まりか……。胸糞悪りぃ……ッ)」
その後、ジョーカーとルプスルンの間に言葉はいらない。
無意味な会話など必要なかった。
手詰まりを理解したルプスルンは廊下の窓から飛んで七色ヶ丘中学から離れ始め、ジョーカーたちは四人揃って悲鳴の出処に向かい始める。
森山しずくは、一人ぼっちだった。
小顔な顔立ちに栗色の綺麗な髪、何よりも年齢に不相応なほど発育したスタイル。
それらの要素は男子生徒の注目になると同時、同性の女子生徒からは良い思いを向けられない。
小学生活の六年間は、しずくに取って孤独との戦い。
思い出と呼べるものは上辺だけ。
学校行事で取られた写真も、集合写真のような致し方ないものが九割を占めており、残りの一割が班行動などで撮影したもの。
言うまでもなく、親友と呼べる存在などいるはずもなかった。
辺り一帯、青空色の空間。
否、これは水色といった方が正解だろうか。
何故ならしずくは今、全身を水のような液体で包まれていたのだから。
森山しずく「ーーーッ!!!?? もががッ、がぼぐッ、ごぼぼぼッ!!!!」
息ができず、浮上しようと上へ上へと泳いでいくが、いつまで経っても水面は見えない。
そもそも右も左も上も下も前も後ろも、まったく同じ光景が広がってる。
重力の向きも分からない以上、本当に上に向かって泳いでいるのかも分からない。
もしかしたら自分は上下逆さまの状態で、上と思っていたが実は下に向かって泳いでしまっているのではないか?
そんな思いが募って焦る中、何かに捕まろうと周囲に両腕を伸ばすが……この液体に満ちた空間には自分以外に何もない。
森山しずく「(ぐる、じい……ッ!! 誰、がぁ!! だず、げでぇえええッ!!!!)」
声も出ない。
息を吸うつもりもなく口を開けば、液体の方から強引に肺の中へと侵入してくる。
手足が痺れて力が入らず、体がどんどん重くなっていく。
肺が液体で満たされた次は、喉を通って胃の中に浸水してくる。
もがくことを忘れたしずくの体は、恐ろしいスピードでお腹が膨らみ始めた。
全身の全てが水分に変わってしまうかのような錯覚に陥った時……更なる地獄が待っていた。
何の前触れもなく襲いかかった水圧が、しずくの両足を粉々に打ち砕いた。
森山しずく「ーーーッ!!!! ごばばがばッ!!!!」
水色の液体空間に、しずくの口から吐き出された血反吐が混じって赤く染まる。
気絶は許されない。
しずくの体に加わる水の拷問は、まだ始まったばかりだった。
一方の現実世界でも、しずくの体に異変が起きる。
廊下に横たわってガタガタと異常な痙攣を繰り返すしずくの口から、噴水のような吐血が始まる。
天願朝陽「うわあああッ、しずくぅッ!!」
桜野準一「何やねんッ、これ!! こんなん、どないしたらええんやッ!!」
日野あかね「ええから下がっときぃ! あとはみゆきに任せるんや!!」
この窮地を救えるのはみゆきしかいない。
れいかのような例外もあるのかもしれないが、それは本当に稀なケースだろう。
宝玉によって何百人という被害者が出ている現在にて、みゆき無しに取り込みに成功した者の存在など、れいか以外に聞いたことがないのだから。
星空みゆき「しずくちゃん……もう少しだけ頑張ってッ。必ず助けるからッ」
治癒魔法を発動し、延命を促す。
その様子を見ていることしかできない面々だったが、不意にピエーロが天願たちに提案を持ちかける。
ピエーロ「手を取り、声をかけてやれ」
天願朝陽「え…?」
ピエーロ「この子は、お前たちにとって特別な存在だろ? その様子を見ていれば、さすがの我にも思いは伝わってくる」
桜野準一「………」
ピエーロ「祈れ。そして願え。その思いは必ず届く」
天願朝陽「……分かった…」
桜野準一「…やってみるわ……」
ピエーロに促されるまま、天願と桜野は各々でしずくの両手を握る。
その思いを、地獄の底で葛藤しているしずくに届けるために。
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