絵本の世界と魔法の宝玉! Second Season

□星に願いを
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 六月末に行われた体育祭を経て、人間界は七月七日を迎えた。

 そう、本日は七夕である。

 みゆきは自宅のベランダに出て、晴れ渡った空を見上げながら大きく伸びをした。

星空みゆき「あぁ〜、いいお天気〜。今夜は星がいっぱい見えるといいなぁ〜」

 晴天の空模様が続けば、夜には星で彩られる。

 ベガとアルタイルが織姫と彦星の姿として現れる以上、そこには天の川が流れてくれれば文句もない。

 そこに流れ星でも流れてくれれば、七夕として最高のシュチュエーションが整うことだろう。

 そんな思いを募らせていたみゆきの傍らで、いつの間にか部屋の中に異変が起き始めていた。

星空みゆき「……?」

 部屋の本棚がガタガタと揺れ始めたと思った時、見覚えのある光が瞬く間に漏れ始めてくる。

 これは、ふしぎ図書館を使って移動する際に見られる現象だ。

星空みゆき「これって………」

 誰かが、ふしぎ図書館の機能を使ってみゆきの部屋に来ようとしている。

 七夕の本日、一年で唯一面会が許された二人のように、このような形で会いに来る人物といえば……。

星空みゆき「…もしかして……」

 最後に会ったのは、天願と豊嶋の仲を深める際に奮闘していた時だろうか。

 フランドールがなおを迎えに行ってからというもの、多方面で宝玉探しに出動していたらしく、なかなか七色ヶ丘に戻ってきていないと聞いていた。

 その人物が今、七夕の今日に限って戻ってきてくれたのか。

星空みゆき「………ッ…」

 そう思うと居ても立ってもいられず、みゆきは思わず本棚の目の前で待ち構えた。

 まさかみゆきが本棚の前で待ち構えているとは思わず、きっと飛び込んでくるに違いない。

 両腕を広げてワクワクしていたみゆきの胸に飛び込んできたのは。



ニコ「入るわよ……って、きゃあ!!」

星空みゆき「え? わッ、わあッ!!」



 まさか待ち構えられているとは思っていなかったニコと、その後ろから続いてきた魔王の二人だった。

 今回の魔王は餡ころ餅のように小さき姿での登場だったが、それでもニコより後で入ってきたことは正解だっただろう。

魔王「……? 何をやっているんだ?」

ニコ「知らないわよッ。出たら突然、みゆきが待ち構えてるんだもの……ッ」

星空みゆき「…う、ウルトラ…はっぷっぷー……」

 予想は外れた。

 待ちかねていた人狼は、今日も何処かを探索中らしい。







 七色ヶ丘市内、某所。

 デッドエンド・バロンの三幹部、ルプスルン、アクアーニ、ニカスター。

 彼ら三人を招集したデッドエンド・バロン、三幹部の指揮官。

 ニカスターは妖精のような羽をパタパタと動かしながら木の上の太い枝に座り、足を組んで三人を見下している。

 その表情に浮かぶ笑みは、恐怖を孕んでいるかのように不気味で、非常に気持ちが悪かった。

ルプスルン「ニカスター。オレたちを呼び出すとはどういうつもりだ?」

マホローグ「知ってると思うけど、僕たちは忙しいんだ。ただ傍観しているだけのお前とは違うんだよ」

ニカスター「ニィッフフフ。言ってくれますねぇ〜、三幹部のみなさん。今現在の宝玉の状況……本当に分かっているのですかぁ?」

 宝玉の状況。

 破壊を目的としている以上、その成果くらいなら考えずとも分かる。

 デッドエンド・バロンは、まだ一つも破壊に成功していない。

ルプスルン「ちょっと待て! 確かに宝玉は破壊できちゃいねぇが、それはヤツらも同じことだろッ」

マホローグ「あいつらも完全な回収は成し遂げちゃいないッ。まだ立場はフェアなはずだ!」

 破壊できていないが、回収されたわけでもない。

 そう発言する二人に対して、あくまでもアクアーニは第三者視点で物を言う。

アクアーニ「……いや…、私たちの立場が危うい状況だろう…。回収はされずとも、宝玉を取り込む結果で保守されているのは事実である」

 宝玉を取り込むことは回収ではない。

 宝玉堂に行けばいつでも回収を促すことは可能だが、所詮は取り込んだ者の意思が必要になる。

 いわば、絵本の世界は宝玉を取り込んだ者に一時的に宝玉を預けているだけに過ぎない。

 これでは回収したと呼べないが、問題があるとすれば一つだけ。

 その宝玉を取り込んだ者全員が、絵本の世界の事件を解決させるために協力している立場にあることだ。

 これでは回収されているも同然の状況だろう。

ニカスター「その通りです♪ 宝玉は全部で十二個……その内の五つが取り込まれ、五つ全てがあちら側の協力関係者の手にあります」

 なおのものを含めれば六つなのだが、そのことを覚えているのはみゆきたちだけ。

 学校の生徒や教師、そして緑川家の家族もみんな、今だけはなおの存在を忘れてしまっている。

 無事に帰還を果たせばチェイサーの力が解除されて記憶も戻ってくるが、それまでの間はデッドエンド・バロンの者たちも例外なくなおのことを思い出せない。

 従って、なおが強制的に取り込んだ六つ目の宝玉の存在は、今も世界の何処かで飛び交っていると思い込まれているのであった。

ニカスター「分かっていますか? あと一つでもあちら側の手に渡ってしまえば、ワタシたちは一つの破壊も成すことができぬまま……全体の半分を明け渡すことになるのですよ?」

アクアーニ「…………」

マホローグ「お前こそ、勘違いしていないか? さっきから言ってるが、別に回収されたわけじゃないんだぞ」

ルプスルン「その通りだ。宝玉を取り込んだっつっても、絵本の世界に返されてなけりゃ意味がねぇッ。まだ十二個の宝玉全て、オレたちの手の届くところにあるわけだ!」

ニカスター「ニィッフフフ♪ では、今回はどのように動き出すおつもりですかぁ〜?」

 三人の答えが分かっている様子で、あえてニカスターは三幹部に訊ねる。

 全てを見透かされているようで嫌な気分この上なかったが、意思表明をすると思えば好都合な展開だろう。

ルプスルン「取り込まれてるヤツらを、ここで打ち止めにしてやるさッ」

アクアーニ「手荒な真似は好まん。せめて穏便に、宝玉を奪い取った上で破壊を試みる」

マホローグ「方法なんて人それぞれさ。でも、その目的は同じこと……」



マホローグ「宝玉を取り込んだ者たちを襲撃し、その内の宝玉を確実に破壊してみせる」



 マホローグの回答を聞いて、他の二人に異論はない。

 三幹部の目的を聞き、ニカスターは再び笑みを浮かべていた。







 ニコと魔王を迎えたみゆきは、仲間のみんなが集めていく。

 あかねとやよい、なおのリボンを頭に結んだポニーテールのれいか。

 絵本の世界と宝玉の事情を知った天願と桜野。

 そして、水の宝玉を取り込んだしずく。

 後者の三人にも、なおに関する記憶はチェイサーの力によって先に戻されていた。

 しかし……この人数でみゆきの部屋に集まっては狭すぎたため、今はふしぎ図書館のホレバーヤの部屋に集合していた。

 ここでようやく、ニコと魔王が人間界に戻ってきた理由となる“新たな問題”を明かしたのだった。

魔王「最近、人間界で絵本の世界の住人を見かけなかったか?」

星空みゆき「絵本の世界の住人?」

青木れいか「それは、ウルフルンさんやジョーカーたちのことですか?」

ニコ「人間界に派遣している何人かは問題じゃないの。わたしたちが聞いてるのは“それ以外”の住人のこと」

桜野準一「派遣してる住人とは違う住人? どういうことやねん……」

 経緯を簡潔に説明した。

 事の始まりは、最初は七色ヶ丘の市内のみに散らばっていた宝玉が、市を飛び出して世界中に飛び交うようになってしまった時。

 探索の規模が広がってしまった以上、魔王は絵本の世界から新たな派遣者を選抜するため、今の今まで絵本の世界で準備を進めていた。

 市内だけなら九人程度で探索も容易だっただろうが、世界中を探すとなれば話は別。

 ようやく腕利きの住人たちを絞り込めてきたのが最近なのだが、ここで不可思議な問題が発生した。





 魔王とニコが選抜してきた、絵本の世界の新たな派遣者たちが同時期に、一人残らず姿を消してしまったのである。
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